30
食事を終えて少し休憩した後、魔法銃を買いに出かけようとしたが、
「大変申し訳ありませんが、両殿下に魔法銃を売ることを禁止する、との令が首長から出ており、カラノバフでは何処の武装店でも魔法銃を購入頂くことはできません。」
宿の入り口で待っていた男性エルフがそのように告げた。
「私たちに魔法銃を売らないよう首長が命令したですって!?」
「はい。そのとおりでございます。」
「私たちは王族よ。首長の命令より私たちの方が優先されるなんて自明なことが、あなた達に分からないわけないわよね?」
「・・・。」
クルシフの言葉に男性エルフは黙して何も答えない。
「もし俺たちが試練に失敗したら、首長の令に反して魔法銃を俺たちに売った者たちは処分されてしまうから首長の令には逆らえない、ということか?」
「はい。そのとおりでございます。」
「俺たちは試練を乗り越えてみせるから、そのようなことを気にする必要はない。」
「はい。私どももそのように考えております。」
「だったら――――」
「申し訳ございません。」
モナルクが次の言葉を言おうとしたときに、謝罪の言葉とともに深々と頭を下げた男性エルフがクルシフに何かを手渡した。
「モナルク、もういいわ。」
「しかし――――」
「私たちも一度部屋に戻って頭を冷やしましょう。」
「・・・分かった。クルシフの言うとおりかもしれない。」
「美姫と樹もいいかしら?」
「「はい。」」
「それじゃ、戻りましょう。」
頭を下げたままの男性エルフに背を向けて、僕たちは部屋に向かって歩き出す。
(男性エルフがクルシフに手渡したあれって何だったんだろう?)
(クルシフはそれを見て何かを悟ったようだし、部屋に戻ったら説明してくれるじゃないかな?)
(何にしても部屋に戻ってからか。)
部屋に戻ると、クルシフは受け取った何かを情報端末に差し込んだ。
「やっぱり、彼も私たちを応援してくれているようね。」
クルシフが見せてくれた情報端末には、仮想武装店が表示されていた。
「首長はクリフデン宰相派だが、民は中立もしくは俺たちより、ってことだな。」
「ハンブルトには突然の来訪で準備ができていないから事を大きくしたくなかった気持ちも分かるし謝罪も受けたけれど、カラノバフでは当然私たちが来ることが予想できていながら首長の出迎えもなかったからおかしいと思ったのよ。」
「それにしても、露骨すぎるな。」
「えぇ、そうね。でも、こうやって魔法銃を買えるのだから、民が味方してくれて良かったわ。」
「あぁ。早速、魔法銃を選びたいところだが、伝言があるみたいだな。」
モナルクが見つけた伝言をクルシフが確認する。
「えーっと、購入した魔法銃は試練の迷宮までの間に置いておくから拾ってくれ、ってことみたい。コソコソ受け渡しをしないといけないのは癪だけど、仕方ないわね。」
「そうだな。」
「さて、まずは、樹の魔法銃から選ぶとしましょう。」
情報端末で魔法銃を選択すると、それが立体的に表示される。
「樹の徹甲魔導弾は威力が大きいから、丈夫な魔法銃がいいわよね。」
「そうなると、散弾魔法銃か対物魔法銃になるが、使用する樹に決めてもらうとしよう。」
「そうですね、、、他にないんでしょうか?」
「ソレならNMK78穿孔魔法銃ナドはドウでしょうか?」
仮想武装店の電脳店員がNMK78穿孔魔法銃を表示させる。
「単弾専用の散弾魔法銃を発展させたモノが穿孔魔法銃で、NMK78穿孔魔法銃は強力な魔法を撃つコトに特化した魔法銃の最新版です。NMK78穿孔魔法銃は強力な魔法から内部回路を守るタメに、内部回路が銃身から完全に分離されているコトが特徴デス。」
「・・・これが良さそうです。」
「そうか。ならば、樹用としてNMK78穿孔魔法銃を購入しよう。」
「感謝。」
「次は、モナルクの魔法銃ね。」
「それなんだが、美姫と樹という強力な攻撃役がいるから、俺は守備役を務めることにして、購入するのは魔法楯にしようと思っているんだ。」
「いい案だと思うわ。」
「ソウであれば、XA51展開魔法銃ナドはドウでしょうか?」
「魔法銃?俺は魔法楯にすると言ったのだが?」
モナルクの意見に反して、立体的なXA51展開魔法銃が映像として映し出される。
「XA51展開魔法銃は魔法楯とシテも使用するコトができ、魔力を流すコトで分離・展開し、4つの独立した魔導盾とシテも、1つの巨大な魔導盾とシテも使用可能です。モチろん、手元に残した部分は魔法銃とシテ使えます。難点は、専用の魔導盾と比べると強度が低く、魔法銃の威力も小さいコトです。」
「守備役に徹するのではなく、好きを見て攻撃もできるということか。魔法銃の威力も小さい、といっても牽制くらいは出来そうだな。」
「それに、強度が低いことは展開部の予備を持っていくことで補えばいいし、これがいいんじゃない?」
「そうだな。これにしよう。良い魔法銃を紹介してくれた。」
「アリがとうゴザイます。」
「武装以外にも野営道具とかも扱っているのよね?」
「ハイ。御要望がアレば、承ります。」
「それじゃ――――」
クルシフとモナルクが仮想武装店で迷宮探索に必要な物を買い揃えている時に、
(これは面白そうじゃのう。美姫、買うのじゃ。)
(樹、絶対に役に立つから、さっき映った物を買っておけ。)
エレナ様とヴァロ様が要求する物をコッソリ混ぜて買ってもらったのだった。




