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「すみません。」
「何かしら。」
「亜紀様は美姫さんを”何から”守ろうとされているのでしょうか?」
「勘のいい子は嫌いじゃないわよ。」
「樹君、どういうこと?」
「私が美姫ちゃんを娘にしたいと思った理由について、樹君には思い当たる節があるのよ。そうでしょ?」
「はい。」
「樹君の質問に答えると、私は美姫ちゃんを龍野家の権力争いから守りたいのよ。」
「龍野家の権力争いから、ですか?」
「そう。少し前置きが長くなるけど 、それについてこれから話すわ。」
亜紀様は紅茶を一口飲んで、話を始めた。
「魔法使い御三家として龍野家は優れた魔法使いを当主に選出してきた。このことは知っているわよね?」
「はい。」
「私の見る限り、美姫ちゃんの魔力量は本家筋にいる次世代の当主候補者たちにも劣らないわ。それに、美姫ちゃんの魅力はそれだけじゃないの。知らなかったかもしれないけれど、美姫ちゃんの母親である麻紀は魔法の腕輪への特殊な適性を持っていたのよ。」
「特殊な特性ですか?」
「そう、”銃剣系”への適性は本家筋の私と同じくらい高く、”楯系”についてもかなり高い適性を示す、という特殊な特性。ヒューストンのハーデス家やロンドンのペンドラゴン家のように2系統の魔法系統への適性を持つ家系はあるけれど、両方に”高い適性”を示す魔法使いはほとんどいないわ。」
「母がそんな適性を持っていたなんて知りませんでした。」
「できる限り知られないように隠していたから。そして、それは美姫ちゃん、あなたにも受け継がれているわ。」
「そうなのですか?魔力検査のときには言われませんでしたが、、、」
「それは、あの時は美姫ちゃんに魔法の腕輪への特殊な適性があることが確定したことを誰にも知られるわけにはいかなかったからよ。」
(そう言えば、美姫さんが魔力検査を受けた時に、ベルトにつけられた3つの線のうち2つが青と緑に強く光っていたような記憶がある。)
(あの時は意味が分からなかったけど、”銃剣系”と”楯系”の両方に適性があることを示していたのね。)
(エレナ様は美姫さんの適性について知っておられましたか?)
(いや。ワレは精神エネルギーを波動の違いとして認識はしておるが、魔法の腕輪への適性はワレには関係のないことゆえ、興味の対象外じゃったからな。)
(そうですか。)
「そして、美姫ちゃんに特殊な適性があることは、圭一も薄々分かっていたんじゃないかしら。」
(だからこそ、美姫に魔力検査も受けさせず、山奥へ連れ出した、というわけじゃったのか。)
(成程。)
(美姫の魔法の腕輪への適性を知られれば、龍野家の権力争いに巻き込まれることを危惧したのじゃろう。)
「だから美姫さんのお父さんは美姫さんを連れ出した、と。」
「その通りよ。」
「どういうことですか?父は都市国家東京に充満している魔力が私の心臓に悪影響を及ぼしているから外に出た、と言っていました。」
「圭一はそんなことを言っていたのね。おそらく、それは美姫ちゃんに本当のことを知られないように考えた別の理由じゃないかしら。圭一は自分が巻き込まれた龍野家の権力争いを毛嫌いしていたから。魔力検査を受けさせなかったのも、美姫ちゃんの魔法の腕輪への適性が公にならないようにするため、と考えるのが妥当ね。」
「それにも関わらず、美姫さんに魔力検査を受けさせたのはどうしてですか?」
「私は圭一とは違う考えを持っているからよ。魔力検査を受けなくても美姫ちゃんの魔法の腕輪への適性はある程度推測することができるから、いづれ露見するわ。」
「魔力検査を受けても受けなくても同じ、ということですか?」
「そういうことね。圭一は龍野家の権力争いに巻き込まれたときに、その実力で周囲を黙らせることができた。圭一は私の婚約者候補の1人だったけれど、『麻紀以外とは結婚しない』と宣言していたから、振られちゃったようなものね。」
「そんなことがあったのですか。」
「麻紀については体が弱くてあまり外に出ることはなかったし、魔力量の多さに目を向けさせて魔法の腕輪への適性を知られないようにしていたみたいだから、圭一と結婚前は名落ちする予定、ということもあって皆の興味を引かなかったわ。
でも、美姫ちゃんは違う。英雄の娘としての知名度もあるから、推測された魔法の腕輪への適性によって否が応でも権力争いに巻き込まれるわ。」
「私は名落ちするんですし、龍野家との関わりもあまりなくなりますから、権力争い巻き込まれるようなことはないと思うのですが。」
「美姫ちゃんは考えが甘いわね。先程も言ったけど、2系統の魔法系統に適性を持つ魔法使いは世界には多くいるけれど、その両方に”高い適性”を示す魔法使いはそんなにいないわ。
だから、美姫ちゃんの特殊な適性や実力を知れば、自分の陣営に迎えたいと誰しも思うはずよ。そして、他の陣営に参加されるくらいならいっそいないほうがまし、と考える輩も出てくると考えるのが自然よ。」
「だから、そうならないように美姫さんを守りたいと。」
「魔法使いの世界では今の魔法使い御三家の権力は絶大だから、その権力争いも熾烈を極めるわ。最悪、人を殺めることもためらわない人たちもいるくらいだから。そんな中に美姫ちゃんが1人で放り込まれたらどうなるか想像つくでしょう?」
(ワレがいる間は美姫を守ってやれるが、ワレも天界に戻らねばならぬからのう。その時は美姫が1人でなんとかせねばならんのじゃ。)
(はい。)
(それに、支えが樹では心許ないしのう。)
(確かに今の僕では美姫さんを守ってあげられない。ふがいないです。。。)
「それでいろいろ方法を考えたのだけれど、美姫ちゃんを守るためには私が養女として引き取るのが一番、という結論に達したのよ。」
「そこまで考えて頂いたのはありがたいのですが。。。」
「それに、美姫ちゃんを龍野家の主流に取り込むことは、龍野家を発展させていくために必要不可欠なことだと私は思うの。東京という枠組みの中だけなら当分は安泰だとは思うけれど、何か切り札を持っていないと、魔法理事国という枠組みの中では埋没していく可能性があるわ。」
「亜紀様、その話はまだ早うございませんか?」
珍しく流川さんが口を挟む。
「そうね。話を急ぎすぎたわ。でも、龍野家を発展させるために、何かを変えていこうと考えた時に、やはり旗振り役は実力ある当主がすべきなのよ。でも、美姫ちゃんは今のままでは龍野家当主にはなれない。そこで、私の養女になってもらって、次期当主になってもらおうと思っているの。」
「私が次期当主にですか?」
「龍野家は優れた魔法使いを当主に選出してきた、って言ったでしょう。龍野家の当主候補になれるのは龍野家本家筋の人間だけなんだけど、今までも優秀な娘を龍野家本家筋に養女として迎えて、当主候補とした事例もあるわ。美姫ちゃんの魔法の腕輪への適性を考えると、他の誰よりも次期当主にふさわしいと私は思うの。」
「・・・。」
(樹君、私どうしたらいいと思う?)
(突然のことだから、僕もなんて言ったらいいか分からない。)
(そう。。。)
(でも、亜紀様が美姫さんのことを大事に思っていることは伝わってきた。)
(私もそう思うし、ありがたいことだとは思うんだけど。)
美姫さんはどのように答えるべきか悩んでいるようだった。




