22
翌日、ゆっくりめに起きた僕たちは朝食をとった後、迷宮探索を再開した。
「ここからは偽岩と偽水晶に加えて偽擂鉢が出るようになるから気をつけてね。」
「昨日も同じことを言っておられましたが、偽擂鉢とはどのような魔物なのでしょうか?」
「百聞は一見に如かずね。あれよ。」
クルシフの指差す方向を見ると、擂鉢状の穴が見えた。
「あの穴が魔物なのですか?」
「そうだ。擂鉢状の穴の底にいるのが偽擂鉢の本体で、穴に落ちてきたところに襲い掛かってくる。」
「つまり、偽擂鉢は蟻地獄、ということですね。」
「蟻地獄?」
「はい。同じように擂鉢上の穴を掘って、落ちてきた蟻の体液を吸う昆虫です。蟻にとっては一度落ちたら戻ってこれない地獄に感じられるのではないか、ということで蟻地獄と呼ばれています。」
「そうだったの。人間は面白い言い方をするわね。」
「要は穴に落ちなければ良いのですよね?」
「そうなのだが、穴自体が魔物だから、穴と地面との境目を見極めるのが難しい。不用意に近づくと、いきなり地面が崩れて穴に落とされてしまうからな。」
「厄介。どうやって進むのですか?」
「少しずつ進んで、地面が崩れる境目を見極めるしかない。」
「面倒。遠くからだと穴の底が見えないから、偽擂鉢の本体を魔法銃で狙うことも出来ないですし。」
「まずは、教えてもらった方法で俺が試してみるから、見ていてくれ。」
「了解。」
モナルクがすり足で少しずつ偽擂鉢の方に進むと、
ズズッ!
モナルクの足元の地面が崩れ、穴が大きくなる。
「これで大丈夫だろう。こっちに来て見てみろ。あれが偽擂鉢の本体だ。」
穴の縁まで行って中を覗くと、穴の底に昆虫の口だけを切り取ったような魔物がいた。
パンッ!
モナルクが魔法銃で偽擂鉢の口の中に魔導弾を撃ち込み、偽擂鉢を倒す。
「偽擂鉢は口の中に魔石があるから狙いやすい。」
「ですが、偽擂鉢を倒さなくても、境目を見極めて穴に落ちないように進めば良いのではないですか?」
「そうすると、俺たちが戻る頃には穴の大きさが元に戻っていて、また境目を見極める必要があるから、それなら多少不快でも偽擂鉢を倒してしまった方が早んだよ。」
「成程。」
「偽擂鉢も偽岩と偽水晶と同じように、 魔石が魔物の本体みたいなものなのですか?」
「そうよ。偽擂鉢は魔石から出した細い鉱糸で周りの鉱物を集めることによって、地面に擬態しているの。それで、近づいてきた獲物の振動を感知して擬態を解いて穴に引きずり込む、という寸法よ。」
「偽岩と偽水晶よりも巧妙ですね。」
「えぇ。それに、偽岩と偽水晶と違って境目を見極める必要がある分だけ手間が増える分だけ嫌らしい魔物だわ。」
その後は偽岩と偽水晶に加えて偽擂鉢も倒しながら進んだため、昨日までより目に見えて探索速度が落ちていた。
「境目を見極める作業が本当に面倒だわ。」
「・・・。」
「美姫、どうしたの?考え事?」
「・・・はい。遠くから偽擂鉢の本体を倒す方法があるような気がするのですが、もう少しで思い付きそうで思い付けなくて、もどかしく感じていたところです。」
「遠くからだと穴の底に魔導弾が届かないから無理じゃない?」
「はい。でも、私は解決策を持っているような気がするのです。」
「そう。そんな方法があったら便利ね。」
(樹はどう思う?)
(うーん。美姫が知っている方法で、遠くからだと穴の底を狙う方法か、、、爆裂魔導弾だったら出来そうな気がするけど、規模が大きすぎてやりすぎな気もする。)
(爆裂魔導弾!?それよっ!って、どうして思い出せなかったんだろう、、、)
美姫は一瞬喜んだ後に凹むという、面白い表情の変化を見せた。
(でも、爆裂魔導弾を偽擂鉢に使うのは大袈裟じゃない?)
(爆裂魔導弾の概念だけ使うのよ。だから、思い付きそうで思い付けなかったのね。)
(どういうこと?)
(爆裂魔導弾は小さな魔導弾を巨大な魔導弾にぶつけて巨大な魔導弾を小さな破片に分かれさせて複数の敵を同時に倒す魔導弾なんだけれど、それを応用して、小さな魔導弾を小さな魔導弾にぶつけたら、ぶつけられた魔導弾の軌道を変えられるんじゃないか、て思ったの。)
(成程。)
(小さな魔導弾を小さな魔導弾にぶつけて軌道を変えるだけなら膨大な演算は必要ないはずだから、今の魔法の腕輪の記憶域に入っている命令だけで発動が可能だと思うのだけれど、ギレナ、どうかな?)
(調べるから少し待つのジャ。)
(お願い。)
(・・・可能なようジャ。)
(良かった。)
(つまり、美姫は簡易的な爆裂魔導弾を使いたいわけじゃな?)
エレナ様には思い付いたことがあるようだ。
(はい。)
(グレン、それならあれが使えそうじゃのう。)
(そうですな。APL4突撃魔法銃の魔導回路の構成を変えて、小さな魔導弾であれば連射が可能なようにしてありますから、爆裂魔導弾そのものは無理ですが、小さな魔導弾を連続で2発撃つくらいは出来ますな。)
(エレナ様、グレンさん、ありがとうございます!)
(誰かと違って、ワレとグレンが攻撃手段を増やした結果が生きたのう。誰かと違って。)
(その誰かとは俺様のことだろう!?)
(どうかのう。)
(ぐぬぬぬ、、、)
隙あらばヴァロ様のことを煽ることを忘れないエレナ様だった。




