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浮動機を走らせ続けて昼食の時間を大幅に超えたところで、前方に大きな岩が見えた。
「漸く着いたか。」
「あそこに試練の迷宮があるのですか?」
「えぇ、そうよ。あの岩の側に迷宮の入口があるの。」
「2度ほど偵察機械蜂を見つけ大きく迂回をしたので、遅くなりましたね。」
「安全を確保するためには必要なことだった。昼食をとったら試練の迷宮に突入するぞ。」
大きな岩の側まで行くと、試練の迷宮の入口を見張っているエルフの兵士が声をかけてくる。
「モナルク・ダーレー・バイアリー・ゴドルエルフィン殿下、クルシフ・ナン・エルファラリス殿下、お待ちしておりました。予定されていた時間になっても到着されないため、心配していたところでした。」
「偵察機械蜂を見つけ大きく迂回をしたからよ。」
「機械帝国の機械兵がこのようなところに、、、昨日は軍用機械犬に襲われて浮動機を壊されたとの連絡もありましたが、ご無事で何よりです。」
「美姫と樹が助けてくれたからね。」
クルシフの言葉を受け、エルフの兵士は美姫と僕に目を向けるが、疑わしそうだった。
「・・・見た所、2人は人間のようですので、そのようなことが可能とは思えませんが?」
「2人の側にいる王竜と妖精が見えないのかしら?王竜と妖精に認めれられた2人は私たちよりも魔法の扱いに長けているわ。それに、私を紹介者として魔力の波動も登録済みよ。」
「そうでしたか。大変失礼致しました。」
「それから、美姫と樹も一緒に迷宮に入るけれど、いいわよね?」
「ですが――――」
「いいわよね?」
「・・・承知しました。」
(どこでも私たちに対するエルフの反応は同じね。)
(同感。エルフは魔法を使えない人間を見下して、良く思っていないみたいだ。)
(そして、エレナ様とヴァロ様を見て態度を変えるのよね。)
(肯定。ハンブルトの女性エルフと違って、ここの兵士は渋々といった感じだけど。)
(それなんだけれど、兵士の態度からすると、クルシフとモナルクもあまりよく思われていないみたいじゃない?)
(同意。口調は丁寧だけれど、敬っているようには聞こえなかった。)
(モナルクが言っていた宰相と同じように、やっぱり王国ではクルシフの妹のヴィラを女王にしたい、というエルフが多いのかな?)
(多分。)
昼食をとる時に、その疑問についてそれとなく聞いてみたところ、
「えぇ、そうよ。ヴィラは私よりも魔力量が多いけれど少し他人に依存するようなところがあるから、ヴィラが女王になった方が扱いやすいと考えるエルフが多いのは事実ね。」
「だから、クルシフには創始国ゴドルエルフィンから俺みたいな放蕩者として評判の悪い第14王子が婚約者として押し付けられ、更に評判を落とすことになってしまった訳だ。」
と、クルシフとモナルクは悲しそうに答えた。
「でも、私は婚約者が年の近いモナルクで良かったと思っているわ。かなり年上の第3王子とか勘弁よ。」
「俺も兄のようにロリコンではないし、創始国ゴドルエルフィンでは息が詰まるような生活だったから、ナン・エルファラリス王国に来れて良かったと思っている。」
「ふふふ。それは表向きの理由よね?私に教えてくれた理由と違うもの。」
「・・・美姫と樹の前では言いたくない。そんなことより、迷宮探索について話をしよう。」
モナルクは恥ずかしそうに話を逸らしたが、後でクルシフが『モナルクの初恋の相手が私だったから婚約者として立候補したんだって』と嬉しそうに本当の理由をコッソリ教えてくれた。
(そんな理由だったら、モナルクが僕たちに言いたくなかった気持ちも分かる。)
(そうね。王族は好きでもない相手と政略結婚をさせられることが多いみたいだけれど、お互いに好き合っているクルシフとモナルクは幸せになってほしいよ。)
昼食後、いよいよ試練の迷宮の中に入った。
「これが迷宮なのか。煉瓦づくりの通路とになっていたりするのかと思っていたけど、普通に洞窟って感じだ。」
「樹はゲームのやりすぎじゃない?丁寧に煉瓦で迷宮に通路を作るなんて現実には有り得ないよ。」
試練の迷宮の中は薄暗く、岩や水晶が飛び出している。
「美姫、樹、話をするのはいいが、魔物に注意してくれ。」
「えっ!?近くに魔物がいるのですか?」
「えぇ。この辺りの魔物はこんな風に岩や水晶に擬態しているから注意してね。」
そう言って、クルシフが足元の石を拾って岩に投げると、
ポヨンッ
岩に当たったと思えない音を立てて石が跳ね返り、岩に擬態していた魔物が
ブワッ
と、半透明になって大きく変形し、石が飛んできた方向にある物を取り込もうとし、
パンッ!
モナルクがAPL4突撃魔法銃で魔導弾を撃つが、魔物はプルプルした後、再び岩の状態に戻った。
「外したみたいだな。たまたま魔石が外部に露出したから狙ってみたのだが、小さすぎて当てられなかったか。」
「魔物を倒すには魔石を壊せばよいのですか?」
「そうよ。岩や水晶に擬態している魔物は小さな魔石を核としているから、それを壊せば魔物を倒せるわ。」
「魔物が擬態を解いて半透明になった時に、赤い宝石のような物が見えたのですが、それが魔石ですよね?」
「そうだ。よく見ていたな。」
「では、次は私が魔石を狙います。」
「分かったわ。いろんな方向から石を投げた方が魔石を露出させやすいから、今度は美姫以外の3人で石を投げるわよ。」
クルシフの合図で同時に石を投げると、
ポヨンッ、ポヨンッ、ポヨンッ
ブワッ
先程と同じように岩に石が当たると魔物が擬態を解き、
パンッ!
美姫が撃った魔導弾が魔石を砕くと、魔物はどろりと地面に落ちて岩の状態に戻ることはなかった。




