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それから昼食を含めて数度の休憩を行った後、夕方前には目の前に大きな森が見えるようになっていた。
「漸くね。歩きっぱなしで疲れたわ。」
「同感だが、途中での魔獣との遭遇戦では美姫と樹に頼りっきりだったから、2人の方が疲れているだろう。」
「そうですね。でも、こういう訓練もしているので、まだ大丈夫です。」
「同意。」
「そう。2人とも凄いのね。」
「後もう少しだ。頑張ろう。」
「えぇ。」
森の中に入ると、ただただ木が生い茂っているだけで街があるようには思えない。
「この森に街があるのですか?」
「そうだ。」
「街があるようには見えませんが?」
「行けば分かる。」
歩き疲れたのか、モナルクは短くそう言っただけだった。
(本当にこの森の中に街なんてあるのかな?)
(同感。エルフだから森の木を利用した家があるのかと思ってワクテカだったけど、人の気配が全然しないし。)
(それに、クルシフとモナルクの話からすると惑星ヴァロは地球よりも科学技術が発展しているようだけれど、通ってきた草原とか、この森みたいに自然が残っていることに疑問を感じない?)
(肯定。僕も惑星全部が開発されつくしていると思っていたけど、未開の地みたいに全然開発されていないのはおかしいと感じてた。)
美姫と思考伝達でそんな話をしながら森の中を歩いていると、
「ここね。」
何もないところでクルシフが立ち止まった。
「あぁ、そのようだ。」
モナルクが手を伸ばすと一瞬だけ何もない空間に波紋が広がるが、
スカッ
僕が真似して手を伸ばしても何も起きない。
「所謂、隠蔽結界だ。街に入る資格がないと、ここに街があることも分からない仕組みになっているから、樹が何をしようと無駄だ。」
「それで、森の中に街がないように感じたのですね。」
「そういうことだ。ここで特定の模様が描かれるように波紋を発生させると、街に入る扉が開くようになっている。」
「成程。」
「私たちは王族だから生まれた時からその資格を持っていて、波紋の発生の仕方も教わっているわ。美姫と樹も街の人に認められれば街に入る資格を貰えるわよ。」
「王竜と妖精にも愛されている2人だ。問題ないだろう。そんなことより、早く街に入って休憩しよう。もうクタクタだ。」
「そうね。これからモナルクが扉を開くから、2人は私たちのすぐ後を付いて来て頂戴。波紋が発生している時間は短いから注意してね。」
「はい。」
モナルクが空間を叩いて規則的な周期で波紋を発生させる。
ー ー ・・ー ・・・ ー・ー ー ーーーー ・・ ー・・ ー
すると、波紋が背丈ほどの大きさになり、
「成功だ。」
そう言ってモナルクが波紋の中に足を踏み入れると、そのまま消えてしまった。
(短点と長点の組み合わせが、何故か和文モールス信号に当てはめると”ひらけごま”だったのは興味深いですな。)
(流石にそれは出来すぎなので、偶然でしょう。)
(まぁ、そうでしょうな。)
「波紋が消えてしまう前に、私たちも行きましょう。」
僕たちもクルシフの後に続いて波紋をくぐって結界を抜けると、そこには森の木の内部をくり抜いて作った建物や、木の枝の上にのっかった家が目の前に広がっていた。
「おぉ、凄い!まさにエルフの街という感じだ。」
「でも、街という割にはこじんまりしてない?」
「それは、森の中に結界を張って街を隠蔽している関係上、ハンブルトの街は上ではなく下に広がるように造られているからよ。流石にこれがハンブルトの街の全てというわけではないわ。」
「地下に降りるための入り口も隠蔽されているから、外の隠蔽結界を抜けられたとしても、ここが街の全てだと錯覚させることによって街の本体を守っているんだ。」
「目くらましですか。入念ですね。」
「人間がこの世界を支配していた時には、我々エルフは機械兵から逃げ回る必要があったからな。」
森の木の内部をくり抜いて作った建物の1つに入ると、クルシフとモナルクは昇り階段を上がっていく。
「地下に降りるのではなかったのですか?」
「これも結界の一つよ。この階段の途中から高次元空間を介して地下の街と繋っているから、街に入る資格がないと普通に建物の上に出るわ。」
「それが地下に降りるための入り口の隠蔽方法なのですね。地下に降りるために階段を昇るとは普通は考えませんから。」
「そういうことだ。」
(階段を昇っているのに地下に降りていくなんて、まるでエッシャーの騙し絵みたいだ。)
(そうね。でも、こんな仕掛けを作れるとなると、エルフは高次元を認識できるのかもしれないね。)
(いや、惑星ヴァロにおいて高次元を認識できたのは旧竜人であってエルフではないのじゃ。エルフは旧竜人が作った道具を使っているだけじゃろう。)
(人工遺物という訳ですか。)
(流石の俺様も竜人やエルフに高次元の認識力を与えることはなかったが、旧竜人はそれを自力で獲得したのだから、魔族に絶滅させられたのが悔やまれるな。)




