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竜の女王  作者: M.D
2172年春
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 病院を後にした僕たちは、ヒューストンの治安維持軍本部へ向かった。


「また、事情聴取と実地検分ね。もうちょっと精密検査が長引いたら今日は無になっていたかもしれないのに。」

「同感。測定器が校正中とかで入院中に精密検査が出来なかったのは幸いだったけど、事情聴取と実地検分から開放されたのが午前中だけとか、残念すぎる。。。」

「同じことを別の人に説明するのが面倒だから、一気にやってほしいよね。」

「禿同。」


「今回は悪魔同士の争いがあったり悪魔以外の存在が現れたり、誰も経験したことがないことが重なって混乱しているから、事情聴取と実地検分が長期間化するのは仕方ないんじゃない?」

「そうかもしれませんが、もうちょっと効率化してほしいと思います。」

「平和な期間が長くなると、どの国の軍部においても平時には凡庸でも戦時に有能な人材は無駄飯ぐらいだと冷遇されちゃうのよ。それに対して、状況の分析とか必要だけれど地道で面倒な作業を他人にやらせて、それを自分の功績のようにアピールする輩が平時には有能だとして出世したりするから、今のような状況では判断を間違ったり処理が滞ったりするのよ。」

「分かります。普段から事象を読み解く訓練をしていないから、導き出された結論が正しいか判断できずに、それが正しいとして処置を決定してしまうのですよね。」

「そのとおりよ。軍が社会的使命を忘れ、短期的な合理性をもってして人事を決定しているのが問題だと思うわ。」

「軍自体がこういった時のためにあるのに、本末転倒ですね。」


 珍しく反発することなく美姫と百合子さんの意見が一致した。


「そうは言っても、今の私たちに出来ることはないから、2人は諦めて事情聴取と実地検分を受けてもらうしかないわね。」

「そうですけれど、百合子さんはそのせいで樹がヒューストンにいる期間が長くなって喜んでいるんじゃないですか?」

「ふふふ。それはあるわね。」



「美姫が魔法軍の訓練施設を使わせてもらえるのは、事情聴取と実地検分が終わってからだっけ?」

「そうだと思うけれど、ちょっと待って。」


 美姫が情報端末で予定を調べている。


「17時から魔法軍の訓練施設を使わせてもらえるみたいだから、事情聴取と実地検分が終わってからね。どうしてそんなこと聞くの?」

「それだと、17時まで美姫の頭痛が続くから、これからすぐに魔法軍の訓練施設に向かえれば良かったのに、と思っただけ。」

「そう。心配してくれてありがとう。」


(こういう時にグレンさんがいたら、美姫の頭痛を抑える方法を提案してくれたりするのに。)

(樹の魔力が回復していないから、グレンさんは活動を停止したままだものね。私の魔力を樹に分けて上げられたらいいのに。)


(それジャ!)

(ギレナ、何か思い付いたことでもあるの?)

(美姫の過剰な精神エネルギーを魂の絆を介して樹に流し込めばよいのジャ。)

(そうか!高校に入学した当初は、エレナ様も樹を鍛えるためによく樹に精神エネルギーを流し込んでいたよね。それと同じことをすれば、私から樹に魔力を渡せるのよ。)

(美姫の症状も樹の症状も治せる一石二鳥の案ジャろう。)

(ありがとう。早速、樹に魔力を渡してくれる?)

(分かったのジャ。)


 ギレナがそう言うと、魔力が回復していくのが感じられた。


(おぉ!魔力が戻ってきた。)

(私も頭痛がなくなった気がする。樹、グレンさんに呼びかけてみて。)

(了解。グレンさん、もう大丈夫です。)


 ・・・。


(樹君、無事だったのですな。)

(オレも復活だ。)


 グレンさんとザグレドの声が聞こえてホッとしたが、


(ザグレド、樹君の残り少ない魔力を奪うなんてことをしたら、樹君が魔力枯渇になることくらい分かり切っていたことだろう?こうやって樹君が無事で良かったものの、完全な魔力枯渇に陥っていたら意識を取り戻すことがなかったのかもしれないんだぞ!)


 グレンさんは怒り心頭だった。


(すまん。あの時はオレも消滅しないようにすることしか考えられなかったんだ。消滅したくないという本能には逆らえんのだ。)

(だからといって、ワシらが樹君に迷惑をかけるのは望むところではない。)

(そうだな。エレナ様がいらっしゃったら、えらい怒られたところだ。ん?エレナ様は天界に帰られたはずなのに、エレナ様に似た精神エネルギーを感じるぞ。)


(それは、エレナ様の擬魂であるギレナがいるからじゃないかな?)

(ギレナジャ。以後、よろしくノウ。)


(こちらそ、よろしくお願いしますな。しかし、エレナ様の擬魂とは、どういうことですかな?ワシらは目覚めたばかりで状況を把握できておらんので、説明してもらえると助かりますな。)

(美姫との魂の結合を解除した後に美姫を補助する役割として、エレナ様が擬魂を用意しておいたらしいんですよ。)

(流石はエレナ様。用意周到ですな。)


(そうだ。聡明なエレナ様であるからこそ、天界に帰ることを見越して美姫さんのために擬魂を用意されていたのだ。ギレナ様、今後ともこのザグレドのことをお見知りおきを。)

(ワレのことはギレナでよいのジャ。)

(そうはいきません。擬魂とはいえ、オレたちが尊敬するエレナ様の一部と言っても過言ではないため、敬愛の念を込めてギレナ様と呼ばせて頂きます。オレたちのいた第6王領では――――)


 美姫の中にいるのがエレナ様からギレナに代わっても、ザグレドの病気は治りそうになさそうだ。


(ふふふ。ザグレドさんがいると賑やかでいいね。)

(否定。五月蠅いだけ。)


(樹君、ザグレドが迷惑をかけたようで申し訳ありませんでしたな。)

(ザグレドも中級魔族相手に健闘してくれましたし、こうして僕も無事ですから、グレンさんが謝る必要はないと思います。それに、これまでグレンさんにはお世話になりっぱなしでしたから、このくらは何てことないですよ。)

(そう言って頂けると助かりますな。)

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