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竜の女王  作者: M.D
2172年春
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「樹、迎えに来たわよー。」


 次の日、退院の準備をしていると、百合子さんが病室に入ってきた。


「百合子さん!しれっと樹に抱きつかないで下さい。」

「いいじゃない。樹は美姫さんと違って怪我していないんだから、抱きついても気持ちいいだけで、痛くないんだから。樹もそう思うでしょ?」

「えーっと、、、」

「そういうことではなく、ここは病院なのでそんなことしないで下さい、と言っているのです。樹もはっきり断って!」

「感動的な場面では良くあることだと思うけれど?」

「そんなことがあるのは画面の中だけです。」

「それじゃ、病院でなければ樹に抱きついてもいいのね?」

「ダメです!」


「クックック。」

「ふふふ。3人の様子は見ていて飽きないわね。」

「えぇ。悪魔と出会って生還しただけでも凄いのに、次の日には女性関係で揉めているとは、樹君はきっと大物になりますよ。いや、もう既に大物と言った方がいいですかね。」

「若いっていいわね。」

「そうですね。」


 美姫と百合子さんの会話を聞いて、病室の入り口でヒソヒソと話し出したのは花梨少佐と士紋大尉だ。


「聞こえてますけれど?」

「御免なさいね。あまりにも微笑ましい感じだったから。」

「花梨少佐も怪我をされていたはずですが、冗談を言えるほど回復されて良かったです。」

「美姫様に守って頂けましたから。それに、元々このくらいたいした怪我ではありませんし、頭の中の靄が晴れてスッキリした気分なのです。」


 美姫と同じく花梨少佐も包帯姿なのだが、あれでたいした怪我ではないと言えるところが凄い。


「手続きは終わっているから、何時でも退院できるわよ。」

「後は着替えるだけなので、少し待ってもらって良いでしょうか?」

「はい。では、我々は外で待っています。」


「樹、着替えを手伝ってあげるわ。」

「そのくらい自分でできます。」

「そうです。樹は怪我をしていないんですから、百合子さんの手伝いは不要です。」

「私がやりたいのよ。要不要の問題ではないわ。さぁ、樹、病院着を脱ぎましょう。」

「ちょっと、百合子さん、待って下さい。自分でできますから。」

「百合子さんも外で待っていて下さい。」


 僕に迫ってくる百合子さんを美姫が押し返そうとしていると、


「何というか、3人の会話は漫才を聞いているようで面白いわね。」

「そうですね。将来はきっと賑やかな家庭になるんでしょうね。」


 花梨少佐と士紋大尉がニヤニヤしながら僕たちの方を見ていた。


「外で待っている、って言っていませんでしたか?」

「あぁ、そうだった。あまりにも君達の様子が愉快だったものだから、足が外へ向かわなかったんだ。」

「そのまま楽しんでもらってもいいけれど、あまり外で待たせないでもらえると助かるわ。」


 そう言って、2人は病室を出て行く。


「百合子さんも、です。」

「・・・分かったわよ。樹、美姫さんにいやらしいことをされそうになったら叫んで助けを求めるのよ。」

「そんなことしません!」


 百合子さんも病室を出て行き、


「百合子さんは、今日はいつになく僕と触れ合おうとしていたような気がする。」

「きっと、あんなことがあった後だから、樹が生きていて嬉しいのよ。」

「確かに、悪魔が次々とヒューストンの魔法使い達から精神エネルギーを奪っていくのを見た時には、僕も覚悟したし、百合子さんには心配かけてしまったかもしれない。」


 そんな事を言いながら着替えたのだった。



「退院したばかりで申し訳ありませんが、花梨少佐、美姫さん、樹君にはこれからヒューストンの治安維持軍本部へ向かってもらいます。」


 車を発車させると、士紋大尉が行き先を告げた。


「事情聴取と実地検分ね。」

「はい。我々は駐在事務所での事情聴取を主張したのですが、聞き入れてもらえませんでした。」

「麻由美大将閣下が悪魔に取り込まれていたのだから、東京の魔法使いに仲間がいるかもしれないと疑われても仕方ないわね。士紋大尉も取り調べを受けたのでしょう?」

「はい。それもかなり厳しめの。」


 士紋大尉はその時のことを思い出して、げんなりした表情だ。


「麻由美大将閣下は残念でしたね。」

「悪魔が顕在化した時点で麻由美大将閣下の魔力は全部吸いつくされていたでしょうし、麻由美大将閣下でも生還は難しかったのではないかしら。」

「これで麻由美大将閣下が生きておられたら悪魔と協力関係を疑われるので、その方が余程大変なことになっていたでしょうね。」


「しかし、麻由美大将閣下は何時から悪魔に取り込まれていたのでしょうか?小官には全然そのようには見えませんでした。」

「私にも分からないわ。でも、麻由美大将閣下のあの能力は、、、」

「花梨少佐は何かご存じなのですか?」

「いえ、魔法軍の誰にも分からなかったんじゃないかしら?」


 花梨少佐は何かを思い出したように呟いたが、士紋大尉の問いにかぶりを振って答えた。


(花梨少佐も麻由美さんの能力が人間にはできないことだと薄々気付いていたのかもしれないね。)

(同意。言葉を発せずに会話ができるなんて普通じゃないから。)

(・・・。)

(美姫、どうかした?)

(私たち、思考伝達で話ができてない!?)

(本当だ!ということは、エレナ様が戻ってきた!?)


(いや、ワレはエレナ様の擬魂で、漸く樹と魂の絆を結びなおすことに成功したところなのジャ。)


 エレナ様の擬魂なる存在が、エレナ様に似た口調でそう言ったのだった。

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