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(ほう。こ奴、元は中級魔族のようじゃのう。)
(そのようです。)
(ただ、中級魔族といってもピンキリじゃからのう。こ奴も、中級魔族に成りたてのようじゃし。)
(それでも、今の精神エネルギー量は並みの下級魔族程度ですが、元の能力は失っていないようです。)
(ザグレド、こ奴に勝てるかのう?)
(いえ、オレでは勝てないと思われます。)
エレナ様とザグレドがそんな不穏な会話をしていると、
『漸く強制融合から開放され、主人格を奪取できたぞ。』
悪魔は耳と心に同時に聞こえる声で言った。
(やはりそうじゃったか。)
(エレナ様、何かお分かりになられたのですか?)
(こ奴は『元は中級魔族のようじゃ』と言ったじゃろう。人間が中級魔族と融合して主人格をとるなど、本来できないのじゃ。)
(そうなのですか?)
(美姫さん、そうなのです。オレと融合したときにグレンが主人格をとれたのは、オレが下級魔族で、更に消滅しそうなほど精神エネルギーを失っていたからなのです。)
(それとザグレドの油断じゃのう。)
(耳が痛いです。いくら精神エネルギーを失っていようとも、中級魔族であれば人間と融合して主人格を奪われるなど120%ありません。)
(でも、麻由美さんは主人格をとれていましたよ。)
(ワレが気が付いたのはそこなのじゃ。こ奴が『強制融合から開放された』と言っていたように、圭一と麻由美は魔族と融合する際に強制的に魔族を抑え込んでおく手段を見つけたのじゃろう。そして、徐々に融合して最終的に主人格を奪ってしまおうという算段なのじゃ。)
(美姫さんの父上も『悪魔と人間が融合するときの主人格の主導権争いについて』悪魔から聞き取っておりましたな。)
(ピアリスさんが以前『人間の研究者に捕らえられたから研究用に生かしておいてもらえた』言っていましたが、研究所でも悪魔との融合時の主導権争いについて研究していて、その結果を利用したのでしょうか?)
(いや、それだけでは不可能じゃから、ワレらが知らぬもっと別の何かがあるのはずじゃ。しかし、精神エネルギーを失っているとはいえ中級魔族を抑え込んでおくとは、人間も侮れんのじゃ。)
(それでは、父が融合しているという悪魔も、、、)
(中級魔族じゃろう。それも、こ奴よりも上位の。)
(・・・。)
そんな話を聞くと、目の前の悪魔が益々凶悪に見えてくる。
『強制融合から開放されたばかりで精神エネルギーがほとんどなかったが、目の前に食事を用意してくれているとは、人間も気が利く。』
体の具合を確かめていた悪魔がヒューストンの魔法使い達を見て嬉しそうに言った。
「な、、、私たちを食べるつもり?」
「みすみす食われてなるものか!もう一度、やるぞ!」
「でも、さっきは通用しなかった。。。」
「変態中は防御力が高いのかもしれない。」
「おぉ!そうかもしれないわね。やりましょう。」
パンッ!ゴー―!ゴー―!パンッ!パンッ!パンッ!ゴー―!パンッ!
ヒューストンの魔法使い達が再び悪魔に対して魔法を放つが、そのことごとくが悪魔の手前で防がれ、悪魔まで到達しなかった。
『今何かしたか?』
「何!?」
「どうして悪魔まで魔法が到達しないの!?」
(これって、悪魔が魔法防壁を展開していたりしますか?)
(そうじゃ。こ奴は精神エネルギーが少ないからか、たいした魔法ではないと思ったからか、魔法防壁を3枚しか展開しておらんようじゃがのう。)
(それでも3枚も、、、)
『もう気が済んだか?』
「「「「・・・。」」」」
『気か済んだようだな。ならば、精神エネルギーを頂くとしようか。』
悪魔が一瞬消えたと思うと、ヒューストンの魔法使いの1人の前に立っており、
ガシッ!
その頭を掴んで持ち上げた。
『なかなか良い精神エネルギーだ。』
しばらくジタバタしていた魔法使いであったが、精神エネルギーを吸い取られると動かなくなった。
「ひぃ!」
「トミー!」
それを見ていたヒューストンの他の魔法使い達は恐怖に顔をひきつらせる。
『さて、次はどいつだ?』
「こ、来ないで!」
『そうか。次はお前が精神エネルギーを奪ってほしいのか。』
ガシッ!
叫び声を上げたヒューストンの魔法使いから、悪魔はまた精神エネルギーを吸い取った。
「もう私たちは終わりなの?」
「いや、もうすぐ上級魔法使いが来てくれるはずだ。」
「そうよ。上級魔法使いはまだ来ないの!?」
「早く来て、、、」
そんな悲痛な願いを無視して、
『さぁ、どんどんいこうか。』
ガシッ!ガシッ!ガシッ!
悪魔は次々とヒューストンの魔法使い達から精神エネルギーを奪っていった。
 




