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竜の女王  作者: M.D
2172年春
378/688

31

「ぐっ!」


 麻由美さんは倒れた状態から起き上がったが、美姫に追い打ちされた魔導弾のダメージが大きかったのか、膝立ちの状態から立ち上がれない。


「はぁ、美姫さんは容赦ないわね。」

「決められる時にきちっと決めておかないと、後で反撃されて後悔することになりますから。」

「そうね。幸運の女神は前髪しかない、と言うし。それにしても、本気を出した状態で美姫さんにここまでやられるとは思わなかったわ。」

「ならば、もう諦めて下さい。」

「そうはいかないわ。」


 麻由美さんは気合を入れて立ち上がった。


「どうしてそこまでするのですか?」

「圭一様がそう望まれるからよ。」

「あの人形を操っていたのは本当に私の父なのですか?あの優しかった父とは別人のように私には思えましたが。」

「圭一様が美姫さんに優しかったのは、麻紀の遺伝子を受け継いでいたからよ。でも、もうそうする必要がなくなって、圭一様は美姫さんに対して他の人と同じような対応をするようになったから、美姫さんには別人のように思えたのよ。」


「私に優しくする必要がなくなった、とは、どういうことですか?」

「それは圭一様の最終目的に繋がるから、私の口からは言えないわ。」

「それは母に関することですね?」

「・・・えぇ、そうよ。」


 美姫の問いに答えるべきかどうか迷ったようだが、麻由美さんは最終的に肯定の回答を返してきた。


(圭一の目的とやらが、だいたい見えてきたのう。)

(エレナ様には父の目的が分かるのですか?)

(『魔力増幅具を必要としている』、『美姫は大事な素体』、『美姫に優しかったのは麻紀の遺伝子を受け継いでいたから』、『もうそうする必要がなくなった』。これらから導き出せる答えは、圭一は麻紀を甦らそうとしており、その目途がたった、ということじゃろう。)

(つまり、父は母を生き返らせようとしている、とエレナ様は言われるのですね?)

(違うのう。悪魔の力をもってしても死者を甦らせることなどできないのじゃから、圭一は美姫を麻紀に作り替えようとしておるのじゃろうのう。)


 えっ!?


(私を母に作り替える、ですか?)

(そうじゃ。おそらく、魔力増幅具を用いて美姫に麻紀の精神エネルギーを大量に浴びせ、美姫の精神エネルギーを麻紀の精神エネルギーに置き換えることで、美姫を麻紀に作り替えようとしておるのじゃろう。)

(そんなことができるのでしょうか?)

(麻紀の魂を保存出来ておれば、理論的には可能じゃ。そして、魂とは精神エネルギーの塊じゃから、それを悪魔の力で可能にしておるのじゃろうのう。)

(それじゃ、父が私に優しかったのって、、、)

(美姫を生かしておくためじゃろうのう。美姫は生まれつき心臓が弱かったから、優しくしてくれる庇護者がいなければ死んでしまっていたじゃろうからのう。)

(・・・。)


(そんなのって、悲しすぎます。)

(そうですな。しかし、これが現実です。麻由美の言いようからすると、圭一が美姫さんに見せていたのは偽りの仮面だったのでしょうな。)


「麻由美さんは、悪魔と融合をしてまでどうして美姫さんのお父さんに尽くされるのでしょうか?」

「百合子准尉にも言ったけれど、私が圭一様のことを愛しているからよ。」

「でも、愛しているからといって、そこまで尽くすものでしょうか?」

「そうね。圭一様も私の愛は重い、と言われるけれど、第2 次悪魔大戦で悪魔から私を救ってくれた圭一様は私の全てなのよ。」


「麻由美さんは第2 次悪魔大戦を経験されていたのですね。」

「えぇ、そうよ。第2 次悪魔大戦が勃発した時、私は小学生だったわ。」

「その時に悪魔に襲われた麻由美さんは父に助けられた、と。」

「少し違うわね。いい機会だから美姫さんに教えておいてあげるわ。」


 そう言って、麻由美さんは当時のことを話してくれた。


「第2次悪魔大戦では東京に悪魔が集まってきたのは知ってるわよね?」

「はい。」

「大量の悪魔が押し寄せる中で苦戦していた東京の魔法使い達は、形勢を好転させようと秘かにある一つの作戦を試してみることに決めたのよ。それは、私を餌に使って悪魔を一か所に集め、一気に叩くという作戦だったわ。」

「酷い、、、」

「当時はそうも言ってられない状況だったのよ。小野家の末席に生まれた私は、魔力量がそこそこあるにもかかわらず家系的にそれほど重要でもなかったから、生贄に選ばれたみたいね。魔法使い御三家の決定に私の両親は逆らえず、異を唱える者が誰もいないなか、唯一反対してくれたのが東京の苦境を憂いて帰国していた圭一様だったのよ。」

「そんなことがあったのですか。」

「しかし、多勢に無勢。決定は覆らず檻に入れられて東京シールドの外に出された私を悪魔から守ってくれたのは圭一様だけだったわ。結局、悪魔たちは私のところに集まってくることがなかったから作戦は失敗と判断され、ほどなくして私は東京シールドの中に戻ることができたけれど、圭一様がいなかったら私は悪魔の餌食になっていたでしょうね。」

「・・・。」


(麻由美さんを守ろうとしたのが父だけだったなんて、、、)

(そんなことがあったんだったら、麻由美さんが美姫のお父さんを盲信するのも頷ける。)

(そうね。でも、どうして悪魔は麻由美さんのところに集まってこなかったんだろう?)


(それはワレがいたからじゃろうのう。)

(それはどういう・・・あっ!修学旅行の時にエレナ様が『ワレが東京におったから、近くの悪魔が東京に集まってきただけじゃ』と言っておられたから、悪魔たちはエレナ様を狙っていたから麻由美さんに興味を示さなかったんですね。)

(そうじゃ。ワレの精神エネルギーの方が大きいから、悪魔どもはワレを狙うじゃろうからのう。)


「これで分かってくれた?」

「はい。でも、麻由美さんが間違っていることも分かりました。」

「どういうことかしら?」

「麻由美さんが父を本当に愛しているのなら、父の愚行を諫めるべきだったのです。」

「愛する者の願いを叶えてあげたいと思うのはいけない事なの?」

「それが外道のすることでなければ。」

「そう、、、私は外道になったとしても圭一様についていくわ。」


 そう言う麻由美さんからは固い決意が感じられた。

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