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竜の女王  作者: M.D
2170年冬
36/688

21

 その日は午前最後の授業が歴史で、純一先生から片付けの手伝いを依頼されたため、食堂には時間をずらしていくことにした。


「ここは空いているかしら?」


 声をかけられたので、目線を上げると百合子さんだった。


「はい、空いていますよ。」

「じゃぁ、お邪魔するわね。」


 そう言って、百合子さんは僕の向かいに座った。


(隣じゃなくてよかった。)


「百合子さんも遅い時間からお昼なんですね。先生の手伝いとかで出遅れたんですか?」

「私はいつも先に売店でパンと飲み物を買っておいて生徒会室で食べるか、今日みたいに少し遅めに食堂に来るかどちらかね。あまり混んでいるのが好きじゃないから。」

「そうですね。食堂はお昼休みすぐは激込みですから、席を探すのにいつも苦労します。というか、百合子さんは友達っていないんですか?いつも1人でお昼ご飯を食べているように聞こえましたが。」

「失礼ね。私にも友達くらいいるわよ。生徒会室で食べるときには1人じゃないもの。でも、食堂で食べるときには時間が遅くてたいてい1人だから、これからは樹君に一緒に食べてもらおうかしら?」

「遠慮しておきます。」

「どうして?」

「百合子さんと一緒にお昼ご飯を食べているのが知られたら、周りから関係を疑われるじゃないですか。」

「別に私は困らないけど。」

「僕が困るんです。」

「じゃぁ、私と一緒にお昼ご飯を食べるのは嫌じゃないのね?」

「嫌だったら、今一緒に居ませんよ。」


 頬を染めた百合子さんは見た目だけは綺麗だ。


「ちなみに、百合子さんの友達って、どんな人なんですか?」

「何?まだ疑っているの?じゃぁ、明日は売店でパンと飲み物を買って生徒会室に来なさい。私の友達を紹介するから。」

「そこまでしてもらわないくてもいいです。」

「こんな美女にお昼を誘われて断る男子はほとんどいないわよ。樹君ってもしかして女性じゃなくて男性のほうに魅力を感じる人?」

「そんなことありません。それに自分のこと美女っていう人の方がほとんどいませんよ。」

「あらそう?事実だと思うけど。」

「確かに百合子さんの外見は綺麗だとは思いますが、中身が残念なので。」

「樹君に綺麗って言われた。うれしい。結婚する時までにもっと綺麗になってみせるから期待しておいて。」


 百合子さんが僕にだけ聞こえるような声でつぶやいた。


「都合のいいところだけしか聞こえないんですか。」

「とにかく明日のお昼は生徒会室に来ること。約束よ。」

「分かり――――」


「高科先輩。俺たちの方に来ませんか?」


 見知らぬ男子生徒が、僕の話を遮って百合子さんに話しかけてきた。


「ごめんなさい。今日は樹君と一緒に食べようと思っているから。」

「そんな冴えない男と一緒にいるよりは、俺たちと話をした方が楽しいですよ。」

「他の人を悪く言うような人とは一緒に居ても楽しいなんて思わないわ。」

「冴えない、ってのは事実なんだから、悪くなんて言ってないですよ。君もそう思うだろ?」

「どうなんですかね?」

「自分でも分からないとは、頭も冴えてないんだな。」

「ハハハ。うまいこと言うな。」


 何故か男子生徒が増えていた。


「はぁ、、、東大附属高校に入学できたから優越感に浸っているのかもしれないけれど、他人を見下すような言動は東大附属高校の生徒としてふさわしくないわね。」

「優越感になんて浸っていませんよ。」

「それに、あなた達は女性を誘う際のマナーがなっていないわ。いい機会だから、マナーを教えてもらえるよう先生に言っておいてあげる。乙女の心をもった男性教師がみっちり教えてくれるらしいから、楽しみにしてなさい。」


(それは嫌だ。)


「うげっ!まぁ、今日のところはその男に譲ることにします。行こうぜ。」

「あぁ。 高科先輩の方こそ、綺麗だからって皆からちやほやされて優越感に浸ってんじゃねぇの。」


 男子生徒たちは悪態をつきながら去っていった。


「この前のことといい、今のことといい、樹君は騒動に巻き込まれるのが好きなのかしら?」

「好きなわけないじゃないです。」

「巻き込まれ体質、ってことね。今みたいに嫌な思いはしたくないけれど、何もない平坦な人生より波乱万丈な人生の方が楽しいと思うから、樹君と一緒にいると退屈しなくていいかもしれないわね。」


「この前のことって、麗華さんのことですか?」

「そう。毎度のことだけど、麗華さんは困ったものだわ。後始末をする私の身にもなってほしいわよ。どうせ麗華さんのことだから樹君を使って美姫さんを脅そうとか考えたんだろうけど、今回はやりすぎたわね。」

「はい。スタンガンを使って拉致られました。」

「樹君を拉致ったのは征爾君なんでしょ。武術に長けた征爾君にスタンガンを使わせるなんて、麗華さんにはあきれるわね。樹君が無事じゃなかったらタダではおかないところよ。」


 百合子さんはプンプンと怒っている。


「征爾さんのこともよく知っているんですか?」

「麗華さん、好美さん、征爾君の3人はセットみたいなものだから。麗華さんの後始末をし続けていれば、自然と詳しくなるわよ。征爾君や好美さんは麗華さんの悪事にいつも巻き込まれて可哀そうではあるけれど。」

「同感。」

「それに、今回は魔法の腕輪まで持ちだしているなんて。それだけ麗華さんは美姫さんのことを脅威としてみなしていたってことね。」

「麗華さんが魔法の腕輪を付けた腕を僕の方に向けてきたときは、死ぬかと思いました。」


「でも、樹君もよく骨折だけで済んだわね。練習用の魔法の腕輪を使っていたとしても、麗華さんの魔導砲は結構な威力だから。」

「それは友達にも言われました。運がよかったんでしょう。」

「今まで麗華さんが関わった事件の後始末をさせられてきたけど、運がよかったで済ませられるとは到底思えないわよ。麗華さんに狙われて無事だったなんて、樹君についてますます興味が出てきたわ。」

「骨折しているので、無事だったわけでないのですが。それに――――」

「それで、今回の事件で不可解なことは、魔法の腕輪まで持ちだした麗華さんたちを沈黙させたのが誰なのかが分からない、ってことなのよね。武術に長けた征爾君もいたし、あの麗華さんと征爾君を実力で黙らせることができる生徒はこの高校にそんなにいないんだけど、全員にあの場所にいなかったというアリバイがあったのよ。」


 自分が興味のある話になると、それ以外のことはどうでもいいらしい。


「僕が気を失っていなかったらその人物を百合子さんに教えてあげられるんですけど。」

「仕方ないわ。麗華さんたちに襲われて気を失わない新入生なんていないから。それで、私は美姫さんがやったんじゃないかと思っているの。あの子、キレるととんでもないことをしそうだから。」


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