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竜の女王  作者: M.D
2172年春
352/688

05

「透、2人にあれを渡して頂戴。」

「は、はい。」


 透准尉が僕たちに手渡したのは真新しい軍服だった。


「美姫さんと樹君の軍服です。」

「私たちの、ですか?」

「そうです。これから御二人には魔法軍の一員として行動してもらいますので、公式の場では基本的に軍服を着てもらうことになります。」

「学生服を持ってこなくて良い、と言われた理由はこれだったんですね。」

「でも、軍人でもない私たちが軍服を着ても良いのでしょうか?」

「その点については大丈夫です。美姫さんは准尉待遇、樹君は曹長待遇で反魔連掃討作戦に参加してもらいましたが、退任の辞令は発令されていないため、魔法軍の中では2人ともまだ軍人、という扱いなのです。」

「そうだったのですか。」


「このことを見越しての麻由美大将閣下のご配慮です。感謝するように。」

「・・・はい。」

「私たちはこれから最終打ち合わせをしますので、2人は搭乗時間までお寛ぎ下さい。」


 そう言うなり、すぐに3人で打ち合わせを始めた。


(久美子大佐は話し方が事務的だし、冷たい感じがしない?)

(同感。挨拶も最低限で、僕たちを放ってすぐに打ち合わせを始めたから、僕たちのことを疎ましく思っているのかもしれない。)

(それは、私たちがヒューストンに行くことを良く思っていないのからよね?)

(多分。士紋大尉が『小官も含めて3人分の枠を空けるために同行者を総入れ替えしたから調整が大変だった』と言っていたし、久美子大佐は、余計な仕事を増やしやがって、とか思っていそうだ。)

(ふふふ。私もそうだと思う。)


「まずは着替えましょう。樹からでいい?」

「了解。」


 特別待合室にはシャワー室があり、そこの更衣室で軍服に着替ると、体にピッタリの大きさだった。


「樹、カッコイイよ。」


 更衣室から出てくると、美姫が褒めてくれた。


「感謝。軍服に着せられているような感じになるかと思ったけれど、そうでもなくて良かった。」

「ふふふ。軍服を着ると樹も本物の軍人さんに見えるよ。」

「見た目だけだけど。」

「次は私ね。」


 美姫が軍服に着替えて更衣室から出てくると、眩しいほどの美しさだった。


「・・・。」

「どうかな?」

「ゴメン。あまりにも凛々しくて綺麗だったから、見とれてしまってた。」

「もう、お世辞がうまいんだから。」


「おぉ!2人とも似合ってるじゃないか。」


 振り返って僕たちの軍服姿を見た士紋大尉が声を上げたが、


「士紋、打ち合わせに集中しなさい。」

「申し訳ありません。」


 久美子大佐に怒られてばつの悪そうな顔をして姿勢を正した。


(ちょっとくらいいのにね。)

(同感。久美子大佐は余程僕たちのことが気に食わないんだろう。)



 昼食をとった後、美姫と話をしたり情報端末でゲームをしたりしていると、搭乗時間の少し前に麻由美さんが特別待合室に入ってきた。


「間に合ったようね。」

「到着が予定よりも少し遅れていますが、搭乗までにまだ時間がありますので問題ありません。」


 久美子大佐が麻由美さんの応対をする。


「お食事はなされますか?」

「ここに来る車の中で軽く食べたからいいわ。」

「承知しました。」


「美姫さんと樹君もちゃんと来てくれたのね。搭乗手続きとか出国審査とか初めてだったろうけど、大丈夫だった?」

「はい。士紋大尉が手伝って下さったので、戸惑うことなく手続きできました。」

「それは良かったわ。」


 麻由美さんが僕たちに声を掛けたのを久美子大佐は苦々しい顔で見ているような気がした。


「透、麻由美大将閣下にお茶をお出しして。」

「は、はい。」

「もうすぐ搭乗だし、いらないわ。」

「承知しました。透、麻由美大将閣下に確認して頂く資料をお渡しして。」

「は、はい。」


「久美子大佐は僕たちのことが嫌いなんでしょうか?」


 こっそり士紋大尉に小声で話しかける。


「ヒューストンへの同行者を総入れ替えしたせいで久美子大佐のところに苦情が殺到したから、そのとおりだと思うよ。」

「やっぱりですか。」

「2人のヒューストン行きを決めたのは麻由美大将閣下と雄平中将閣下だけれど、不満を麻由美大将閣下と雄平中将閣下にはぶつけられないし、美姫さんと樹君にも言えないから、小官と透君が捌け口にされて大変だったんだ。」

「ご迷惑をおかけしてすみません。」

「いいんだ。それも仕事のうちだから。」


(士紋大尉が『事前準備とか大変だった』と言っていたのは、そういう意味で大変だったのね。)

(同感。さすがにそういうことだとはまでは想像がつかなかった。)

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