03
「もしもし。」
「百合子さん、おはようございます。起こしてしまいましたか?」
「ううん。丁度起きようかと思っていたところだったの。樹の電話が目覚まし代わりになるなんて、今日はなんて良い日なのかしら!」
夜の10時になって百合子さんに電話で連絡をした。
「いつもながらに百合子さんは早起きですね。」
「早起きは三文の徳、って言うでしょ。でも、樹が電話をかけてきてくれるなんて珍しいわね。」
「概要は電文しておいたのですが、やり取りは口頭でした方が早いだろうと思いまして。」
「電文を確認するから、ちょっと待って。」
「了解。」
百合子さんは情報端末を操作して電文を確認しているようだ。
「ふーん。地球連邦魔法軍会議に参加する麻由美大将閣下に同行してヒューストンに来るのね。」
「肯定。」
「空港にはヒューストンの駐在武官が出迎えに行くのでしょうから、私も一緒に行けるようにしておくわ。」
「そんなことできるんですか?」
「これでも駐在武官の中で一番偉い新少将の覚えはいいから、お願いすれば予備武官である私も出迎えの中に入れてもらるはずよ。」
「成程。もう駐在事務所の上層部を篭絡しているなんて、流石は百合子さん、というところですね。」
「それ程でもないわよ。でも、ヒューストンへの同行者は結構前に決まっていたはずだから今から変えるとなると調整とか結構大変なのに、2人を無理矢理ねじ込もうとする魔法軍上層部の意図が分からないわ。」
「それは秘密なんです。」
「そう。地球連邦魔法軍会議への参加は人気があるから魔法軍内でも同行者枠をめぐって争奪戦になるのだけれど、美姫さんが亜紀様の養女になったから麻由美大将閣下も美姫さんに気をつかったのかしら?」
「そういう訳ではないのです。」
「そう。まぁ、いいわ。でも、樹がヒューストンに来るのは嬉しいけれど、私に会いたいからではないところが残念ね。」
「航空券は高いですから。会いたくてもなかなか会いに行けませんよ。」
「つまり、樹は私に会いたくてたまらなかったから、麻由美大将閣下との同行を承諾したのね。嬉しい!」
「否定。。。」
「それで、ヒューストン大学の資料庫に入れるよう私からクソエロじじぃに頼んでほしいのね?」
「肯定。って、ロジャー教授のことをクソエロじじぃと呼ぶのはどうかと思うのですが、、、」
「いいのよ。今は樹としか話をしていなんだし。でも、後で何を要求されるか分からないから、クソエロじじぃに頼みごとをするのは気が乗らないんだけれど?」
「そこを何とかお願いできませんか?」
「分かったわ。他ならぬ樹のお願いだものね。でも、樹のお願いを実現するために力を尽くすのだから、私のお願いも聞いてくれるのよね?」
「ぷぷぷ。」
「どうしたの?何かおかしなことを言ったかしら?」
「すみません。今の百合子さんの台詞は美姫が想定したまんまだったので。」
「美姫さんに私の考えが読まれていたなんて屈辱だわ。。。」
百合子さんの口調から、凹んでいる様子が伝わってきた。
「それで、どうでしょうか?」
「今回の件は美姫さん”が”父親の残した魔法具を見てみたいという理由で、ヒューストン大学の資料庫に入りたいのよね?」
「肯定。」
「だったら、私は2人分のお願いを聞くのだからお返しも2倍であるべきだと思うけど、どうかしら?」
「・・・了解。そのかわり、過激なことや、いやらしいことは止めて下さいね。」
「・・・。」
「やるつもりだったんですね?」
「だって、樹が私のお願いを聞いてくれるのよ。この機会は逃せるはずなんてないし、ずっと樹に会えなくて寂しかったんだから、あんなことやこんなことをしたいと思ってもしょうがないじゃない!」
「そう言われてもですね、、、」
「ダメだというのなら、この件は無よ。」
百合子さんもなかなか手厳しい。
「・・・了解。でも、美姫には露見しないようにして下さいよ。」
「やった!本当は美姫さんに見せつけたいところだけれど、2人っきりで1夜を過ごすことで許してあげるわ。」
「いや、それだと美姫に露見するからダメでしょう。」
「大丈夫よ。2人っきりなんだから、しらばっくれていれば美姫さんには絶対に分からないわよ。」
「そうですが、美姫の追及を逃れる自信がありません。。。」
「それじゃ、こうしましょう。私がこの件に協力する条件として、美姫さんには私たちのことを詮索しないことを誓ってもらうの。樹から言うのは無理だろうから、私が美姫さんに連絡しておくわ。」
「了解。」
後で美姫に何を言われるか恐ろしいが、百合子さんに任せることにした。
「その日以外は、ヒューストンを見て回りたいのね?」
「肯定。空き時間にヒューストン観光をしようと考えているのですが、百合子さんは良さげな所を知ってませんか?」
「実際に現地に住んでみると観光地になんか行かないし、ヒューストン宇宙センターとか、ありきたりなところはもう調べたんでしょう?」
「肯定。」
「だったら、私が知っているのは地元の人がいく穴場的な所ばかりよ。」
「おぉ、それはいいですね。」
「それじゃ、適当に見繕っておくわ。」
「感謝。」
それからダラダラと話をして、気が付くと11時を回っていた。
「もう11時ですね。百合子さんも朝食を食べないといけないのに、長々とすみません。」
「いいのよ。1食ぬいたからといって死にはしないし、朝食なんかより樹との会話の方が大事だから。」
「それに、大学に行かないといけないんじゃないですか?」
「今日は自主休講にするわ。それとも、樹は私ともう話をしたくないのかしら?」
「・・・否定。」
「そう。だったら、もう少しお話しましょう。」
一瞬、肯定、と言いそうになったが、そこは堪えて話を続け、最終的に百合子さんとの通話を終えたのは1時間後だった。




