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「そうそう、2人を呼んだ理由をまだ言っていなかったわね。これは誰にも言ってほしくないのだけど、近々反魔連の拠点を叩く作戦があるわ。今回の件で、人魔薬の開発に成功した反魔連をこれ以上のさばらせておくわけにはいかない、という声が政府内で大きくなったのよ。それで、2人にはその作戦に参加してもらおうかと思っているの。」
「私たちが魔法軍の作戦に参加、ですか?」
「えぇ。ジョージ王子が誘拐された事件で、美姫さんと樹君が反魔連の研究施設を見つけてくれたでしょう。その研修施設を調査して得られた情報と龍野家から提供してもらった情報を合わせることで、各地に分散する反魔連の拠点の概要が判明したのよ。
今度の作戦では魔法軍の総力をあげて各地に分散する反魔連の拠点を一気に叩く予定だから、1つの拠点にさける人員が少なくなるわ。そこで、新しい魔法を考案した2人に予備戦力として参加してもらおうと考えたのだけれど、どうかしら?」
「樹、どうする?」
「どうしようか?」
2人して顔を見合わせた。
「この場で決めてほしいとは言わないけれど、明日には回答は欲しいわね。それと、亜紀様の許可は取ってあるから大丈夫よ。」
「お義母様が許可を出されたのですか?」
「そうよ。美姫さんと樹君は前線に出さず後方で見学する程度に留めることが条件だけれど。」
「それだと、私たちが参加する意味がないのではないでしょうか?」
「別にいいのよ。魔法軍は龍野家の許可をとってまで美姫さんと樹君に予備戦力として参加してもらうほど全力をあげたと主張できるし、亜紀様としては魔法軍の作戦に参加することで美姫さんに箔が付くのは望ましいことだから。」
「そういうことだったのですか。」
「高校生の段階で魔法軍の作戦に参加できるなんて滅多にないことだし、美姫さんと樹君も実戦の雰囲気を体感できるから、悪くない提案だと思うわよ。」
「分かりました。2人で相談して、明日中に回答致します。」
「回答は純一に言づけてくれたら、私に伝わるから。」
「はい。」
「それじゃ、ここからは美姫さんと2人で龍野家に関する話がしたいから、樹君には控室で待っていてくれないかしら?」
「これからの話は樹には聞かせられない内容なのでしょうか?」
「えぇ。美姫さんが後で樹君に話すのは自由だけれど、それは私との会話したうえで判断してほしいの。」
「そういうことであれば、僕は控室で待っています。」
「樹、ゴメンね。」
チリンチリン
麻由美さんが机の上に置いていた呼び鈴を鳴らすと、
「お呼びでしょうか?」
士紋大尉が司令長官室に入ってきた。
「樹君を控室に案内してあげて。」
「承知しました。」
僕は士紋大尉に連れられて司令長官室の隣にある控室に移るが、どうせエレナ様が実況生中継してくれるはずなので、何処にいても話は筒抜けだ。
「お二人の話が終わるまでここでお待ち下さい。」
「了解です。」
士紋大尉は控室を出て行った。
「さて、私たち2人だけで話したいことは、、、美姫さんは融合者なのよね?」
「・・・融合者、ですか??」
「違うのかしら?美姫さんは融合者によく見られる仕草をしていたし、美姫さんが規格外の実力を示したり、美姫さんと一緒にいる樹君が急速に魔法能力を向上させているのは、美姫さんと融合している悪魔の力に依るものだとすると説明がつくのよ。」
(美姫と僕に対して魔法軍上層部はこのように認識していたのか。)
(高校に入る直前に魔法使いの能力が確認された樹君が、いきなり魔闘会で多数の魔導砲を魔導盾で受け切ったのですから、その要因を悪魔の力に求めたのも分からなくもないですな。)
(しかも、それがあながち間違いではないですし。)
(そうですな。見る者が見れば我々の存在を隠しとおすことは難しい、ということですな。)
「それなら麻由美さんに疑われても無理ないと思いますが、融合者なのかどうか私自身が分かっていません。」
「そうなの?圭一様も美姫さんは内なる存在の声を聴くことができる、と言っておられたから、てっきりそうだと思ったのだけれど。」
「父が麻由美さんにそんなことを言っていたのですか?」
「えぇ。美姫さんが小さい頃に、誰かと心の中で会話している、というようなことを言った、と圭一様から聞いたことがあるわ。」
「両親にそのとを話した時には、幻聴なんじゃないか、ってすごく心配されたのですが、その時から父は私が融合者ではないか、と疑っていた、ということでしょうか?」
「そこまでは分からないけれど、圭一様のことだから可能性の一つとして考慮はされていると思うわ。」
「そうですか。」
「それで、美姫さんが内なる存在の声を聴くことができる、と言うのは本当なのね?」
「はい。」
「美姫さんの内なる存在の名前はなんていうのかしら?」
「私よりも博識で様々なことを教えて下さるので、敬意をこめて”エレナ様”と呼んでいます。」
「そう、、、確かに美姫さんが融合者であれば赤ん坊の頃に悪魔と融合したはずだし、そんな頃に美姫さんが主人格をとれるはずもないしね、、、そうだとすると樹君が融合者?でも、それだと魔力検査の結果と符合しないわ、、、」
麻由美さんは何か考えている様子だったが、
「美姫さんは樹君と一緒にいて、樹君が急速に魔法能力を向上させた原因は何だと思う?」
「そうですね、、、樹には元々才能があって、それを上手く引き出すことのできる師匠と出会ったことが大きいのではないでしょうか。」
「樹君は桐生家に関係のある人から何も明かさないことを条件に”楯系”魔法を教えてもらった、のだっわね。魔闘会の時の報告書に書いてあったのを思い出したわ。美姫さんの言うことにも一理あるわね、、、」
美姫の説明で、麻由美さんはひとまず自分を納得させたようだった。
「ゴメンね、変なことを聞いちゃって。」
「いえ。私が融合者ではないとすると、多重人格者なのでしょうか?」
「断言はできないけれど、その可能性は高いわね。美姫さんの内なる存在であるエレナ様は意識の表層に出てくることはあるのかしら?」
「それは人格が入れ替わることがあるか、と言う意味でしょうか?」
「えぇ。」
「そうであれば、稀にあります。その時には私は自分自身のことを俯瞰しているような感じになります。」
「美姫さんは人格が入れ替わっても意識を保っていられるのね。なるほどね。」




