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<17:16>
再び純一先生と麻由美さんが思考伝達で会話を始めた。今回はエレナ様の実況生中継である。
(純一、どうだった?美姫さんは魔封錠を壊すことができるって?)
(美姫さんは『多分できると思いますが、実際にやってみないと分かりません』と言っていたよ。)
(そう。それなら美姫さんは使える前提で話を進めましょう。)
(それで、麻由美姉さんは美姫さんに何をさせるつもりなんだ?反魔連の兵士は人魔薬を使ってるから、魔封錠を壊せても魔法の腕輪を持っていない美姫さんでは身体強化だけだと出来ることが限られるし、危険な目に合わせたくない。)
(美姫さんなら魔法の腕輪を着けているはずよ。)
(いや、学校にある訓練用の魔法の腕輪は全部反魔連が接収したから、それはないよ。)
(それ以外だとしたら?)
(そんなものが・・・龍野家が保有している魔法の腕輪か!)
(そうよ。美姫さんは時計に偽装した魔法の腕輪を亜紀様から贈られているのよ。)
純一先生が美姫の時計をチラッと見た。
(あの時計が魔法の腕輪だったのか。)
(その様子だと美姫さんは時計を着けているのね。晴海も魔法の腕輪を隠し持っているだろうし、2人がいれば私の立てた作戦を遂行できるわ。)
(ちょっと待って。晴海さんが魔法の腕輪を持っているとかあり得ない。教師は全員身体検査までされたんだから、晴海さんだって――――)
(晴海があなた達みたいに間抜けなわけないでしょ。絶対にどこかに隠し持ってるわよ。)
(・・・麻由美姉さんがそう言うなら、後で確認する。)
(私が立てた作戦はこうよ。晴海が魔導殻で生徒を守って、美姫さんがその間に魔導弾で反魔連の兵士を倒す。簡単でしょ。)
(そんな適当なの作戦じゃない、、、)
(でも、いつもこれで上手くいくでしょう。)
(そうだけど、、、)
(もちろん外の反魔連の兵士は魔法軍で掃討するし、晴海と美姫さんの支援もするわよ。私の作戦が失敗したことがないことは純一も知っているでしょう?)
(分かった。麻由美姉さんの指示に従うよ。)
(よろしい。)
(『外の反魔連の兵士は魔法軍で掃討する』ということは、政府は漸く魔法軍に出動命令を出したんだね。)
(まだよ。でも、軍務尚書は不在だから行動開始までに統合参謀総長に全責任を取らせる形で押し切ってやるから安心して。これで、魔法軍の被害を誇張して耄碌じじぃに退任を迫れるわ。ふふふ。)
(それで、次期統合参謀総長は現統合参謀副総長である龍野貝母様、ということだね。この騒動は麻由美姉さんが仕組んだわけじゃないよね?)
(そんなことしないわよ。でも、折角だから利用はさせてもらうけれど。)
(麻由美姉さんらしい、と言えばらしいやり口だけど、あまりやりすぎるとその内、六条家から反撃を食らうよ。)
(その辺は心得ているわ。そのために龍野家本家筋の貝母様を担いでいるのだし。)
(とばっちりだけは御免だからね。)
(行動開始時刻は1820(ひとはちにーまる)の予定よ。1800(ひとはちまるまる)にまた連絡するから、それまでに晴海と美姫さんに作戦を伝えておいて頂戴。)
(行動開始時刻は1820。1800までに晴海さんと美姫さんに作戦を伝えて確認しておくよ。)
(よろしくね。)
通信を切った純一先生が伸ばしてきた透明な細い糸を美姫が掴む。
(美姫さんにやってもらいたいことが決まったから伝えておくよ。)
(はい。私は何をすればよいのでしょうか?)
(18時20分になったら合図をするから、反魔連の兵士に魔導弾を撃ってもらいたい。)
(・・・純一先生は私が魔法の腕輪を持っていることをご存じなのですね?)
(そうだ。その時計が亜紀様から贈られた物であることも知っている。)
(そこまでご存じなら、純一先生の言うとおりにします。でも、一度で反魔連の兵士全員に魔導弾を当てられないので、反撃されたらどうしますか?)
(そのことなら、生徒の守りは晴海さんに任せるから大丈夫。)
(晴海さんも魔法の腕輪を持っているのですね?)
(恐らくそうだと思うけど確証はないから、晴海さんがトイレに行くときに一緒に行って作戦を伝えて確認してもらえないかな?17時55分までに確認しておいてもらえると助かる。私には体を叩く回数で教えてくれればいい。)
(分かりました。)
(それじゃ――――)
(すみません。質問があります。)
(なんだい?)
(この作戦は純一先生が考えられたのでしょうか?)
(どうしてそう思ったんだい?)
(校舎の外にいる反魔連の兵士達への対処がないとか、純一先生が考えた作戦にしては大雑把すぎるからです。)
(美姫さんは鋭いな。確かに、この作戦は私が立てた作戦ではない。)
(では、純一先生は誰とも相談しているようには見えませんでしたが、誰が考えた作戦なのでしょうか?
(今はそれは言えないが、外にいる反魔連の兵士達への対処は魔法軍が行うことになっているし、この作戦はきっと成功するよ。)
(つまり、純一先生は情報端末が使えなくても外と通信できるんですね?)
(それも今は言えない。)
(そうですか。分かりました。)
(すまないね。それじゃ、いったん切って1755にまた接続する。)
(はい。)
透明な細い糸が消え、純一先生と美姫を繋いでいた経路が無くなった。
(純一先生は麻由美さんの能力については教えてくれなかったか。)
(麻由美さんの能力も固有魔法ということになっているはずだから、純一先生もおいそれと教えるわけにはいかなかったんじゃない?)
(さすがに、固有魔法ではなく悪魔の一部を植え付けた結果、とは純一先生も分かっていないだろうし。)
(それと、麻由美さんの作戦ではピアリスさんが魔導殻で生徒を守ることになっていますが、魔法の腕輪を持っているんですか?)
(えぇ。偽物だけど、私たち融合者が魔法の腕輪を使わずに魔法を使えることを知られないようにするためには、あると便利なのよ。麻由美さんもそのことまでは純一先生には言わなかったみたいだけど。)
(純一先生は『教師は全員身体検査までされた』と言っていましたが、ピアリスさんは魔法の腕輪を取り上げられなかったんですね。)
(樹君、女性にはいろいろ隠す場所があるのよ。)
晴海さんは意味深なことを言って僕の質問をはぐらかした。




