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2172年1月15日、東大附属高校の魔法科に通う生徒が人質にされるという事件が起きた。
<15:57>
(入学式から今まで特に問題は起きていないし、今年の新入生は比較的大人しめの子たちで良かったよね。)
(授業中に話しかけけてくるなんて、美姫にしては珍しい。)
(先生もまとめに入っているでしょ。だから、そろそろ授業が終わりそうだし、もういいかなって思って。なんだか、樹と話したい気分だったの。)
(成程。今年の新入生に問題児がいなさそうなことについては同感。また華恋みたいなのが入ってきたら困ったことになってたところだし。)
(ふふふ。新入生で家系的に一番格上な六条家分家筋の鈴蘭は、魔法使い御三家出身なのに礼儀正しい子だから、私もホッとしたよ。)
(鈴蘭を見習って他の生徒も規律をきちんと守ってくれそうだから助かる。やっぱり、上に立つ者が例を示すべきなんだよ。)
(それって、私のことを暗に批判したりする?)
(否定。)
(冗談よ。私たちも学年が上がってもう3年生だし、樹は東大の入試に向けて受験勉強を頑張らないといけないね。)
(うっ。それを言われると辛いものがある。)
(大丈夫。私も一緒に勉強するし、丁寧に教えてあげるから。)
(感謝。後は、今年1年を穏便に過ごせるかどうかが問題だ。事件に巻き込まれて勉強どころじゃない、なんて事態にはなってほしくない。)
(さすがに去年までみたいな不測の事態はそうそう起きないと思いたいよ。)
美姫とそんな話をしているときだった。
ドガンッ!!ドガンッ!!
教室の前と後ろの扉を蹴破って武装した4人の兵士が入ってきて、
「動くな!」
「大人しくしろ!」
僕たちに向けて銃を構える。
(何だ!?あいつらは何者だ?)
(それに、どうやって学校に入ってきたんだろう?銃を持って入ってきたら騒動になっているはずなのに全然気づかなかったよ。)
「お前らは誰だ!?」
教室の入口近くに座っていた市原利喜が立ち上がろうとしたとき、
「動くなと言っているだろう!」
兵士が利喜に銃を突きつけた。
「銃なんか持っているところを見ると、お前らは魔法使いじゃないな?」
「だからどうした?」
「一般人が魔法使いに勝てると思っているのか?」
「くっくっくっ。」
「何がおかしい。」
「いや、何も知らずに勝ち誇っている姿があまりに滑稽で、つい笑ってしまったんだ。」
「何だと!」
「いつまでも魔法使いだけが魔法を使えると思うな!」
そう言って、兵士が利喜を殴りつける。
バコッ!
えっ!?
兵士の人間離れした素早い動きと、兵士の拳を避けられなかった利喜を見て、生徒たち全員が驚いた顔をした。
「魔法使いが一般人に殴られるなんて、、、」
「いい表情だ。貴様ら魔法使いの時代はもうすぐ終わるんだよ!ハハハ。」
(まさか、あの人たちは人魔薬(人工魔法使いを作るための薬)を使っているの!?)
(ということは、反魔連(反魔法使い連盟)の兵士か!?)
「どういうことだ?何故一般人が身体強化を使える?」
「それは教えてやれんが、一ついいことを教えてやろう。」
「何だ?」
「この銃に込められている弾丸には対魔法使い用の加工がされている。つまり、私たちが持つこの銃を前にして、貴様らの優位性はない、ということだ。」
「嘘をつくな!」
「では、試してみるか?」
反魔連の兵士が立ち上がった利喜の眉間に銃を押し付ける。
「くっ。」
利喜はフラフラと自分の椅子に座った。
「聞き分けがいい奴は嫌いじゃないぞ。」
生徒の誰もが押し黙り、教室はシンとなった。
(今の授業は先生が魔法使いじゃないから、僕達だけで何とかしないと、、、)
(でも、人魔薬を使った反魔連の兵士が4人もいる、というのが辛いところね。)
(同感。それに、『弾丸には対魔法使い用の加工がされている』と言っているから、下手に動くと僕たちは大丈夫だろうけど、他の生徒に犠牲が出てしまうかもしれない。)
(誰かさんがどこかの御兄様みたいに弾丸を手で受け止められれば、兵士たちも動揺するんじゃないかな?)
(それを言うんだったら、誰かさんが弾丸を凍らせて射出されないようにしてくれると助かるんだけど。)
(2人とも余裕じゃのう。)
(いきなり銃を乱射しないところを鑑みると、私たちを傷つけようとは考えていないみたいですから。)
(だったら、できるだけ穏便に治めたいと思ったんです。)
そんな感じで対応方法を決められないでいると、
「貴様ら全員これを着けろ。」
そう言って反魔連の兵士たちが取り出したのは魔封錠だった。




