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「殿下、ご無事ですか?」
ロンドンと東京の魔法使いによる合同捜索隊とともに陽菜さんが地下駐車場に駆けこんできたのは、龍野家の情報収集部隊が地下に降りて行ってすぐのことだった。
「あぁ、無事だ。」
「良かった。。。」
ジョージ王子の無事な姿を見て、陽菜さんは座り込んで涙を浮かべた。
「ここにいるのは殿下と護衛とそこの高校生2名だけですかな?」
合同捜索隊のロンドン側の責任者と思われる白髭の魔法使いが近づいてきて尋ねた。
「そうだ。」
「殿下を攫った者たちは何処にいるのですかな?」
「それは――――」
「それについては私の方から説明します。」
美姫が話に割り込んだ。
「貴殿は龍野家のお嬢さんでしたかな?」
「そうです。」
「何故貴殿が説明されるのですかな?」
「当事者である殿下や護衛の方々よりも第三者である私の方が感情を載せることなく正確に説明できると考えたからです。」
「・・・よいでしょう。お嬢さんから説明を聞くことにしますかな。」
少し思案した後、白髭の魔法使いは美姫の提案に合意した。
「では、説明します。まず、私たちがここにいる理由ですが、殿下が誘拐されたと聞いて追ってきたからです。」
「貴殿はどのようにここを突き止めたのですかな?」
「ワンちゃんが殿下の臭いを辿ってくれました。」
美姫はバイロ―が狼魔獣であることを悟られないように嘘を言った。
「ワンちゃんというのは、そこの狼のことですかな?」
「そうです。」
「訓練された魔獣でも殿下の魔力の残滓をを辿れなかったのですよ。それなのに、警察犬でもないそこの狼が臭いを頼りに殿下を追うなどできるとは思えませんな。もしや、その狼は魔獣なのですかな?」
「いえ、体は大きいですが普通の狼です。それより、ロンドンには魔力を辿れる魔獣がいるのですね。」
「ぐっ、そのとおりだ。」
「ワンちゃんはそんな魔獣や警察犬とは違って優秀なのです。」
誇らしげな美姫に対して、白髭の魔法使いはロンドンの秘密を話してしまい苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「・・・続けて下さい。」
「はい。私たちがここに到着したまさにその時、殿下はあの車に乗せられようとしていたのです。」
白髭の魔法使いは部下に報告を求め、美姫の言に偽りがないことを確かめた。
「ふむ、確かにあの車は反魔連が使っていた車のようですな。つまり、殿下を攫ったのは反魔連の者たち、ということですかな?」
「そこまでは分かりません。私たちが見たのは殿下があの車に乗せられようとしていたところだけですから。」
「そうでしたな。」
「私たちは殿下を助けようとしたのですが、それよりも早く殿下の護衛の方々がこの地下駐車場に入ってきて、殿下を御救いしたのです。」
「ここにいる殿下の護衛は、殿下を攫ったわけではなく、殿下が攫われたことに責任を感じて取り戻そうとした、ということですかな?」
「おそらくそうだと思います。」
「ふむ、今のところ辻褄はあっておりますな。殿下がおられなくなったと同時に一部の護衛もいなくなっておりましたから、いなくなった護衛が殿下を誘拐したのではとの嫌疑がかけられていたのですが、違ったようで我々としては何よりです。」
(ジョージ王子と一緒にいなくなったら疑われても仕方ないか。)
(それが事実なんだから、外れてないんだけどね。)
(美姫が機転を利かせていなかったらどうなっていたことやら。)
「それで、反魔連の者たちは何処に行ったのですかな?」
「分かりません。殿下の護衛の方々に勝てないと悟ったのでしょう。数台の車でここを出ていきました。」
「貴殿は追わなかったのですかな?」
「私たちが探していたのは殿下ですから、追う必要を感じませんでした。」
「そうですか。ご説明ありがとうございました。」
その後、白髭の魔法使いは東京側の責任者と協議し、反魔連の者たちを追わず、撤収する決断を下した。
「美姫、すまない。助かった。」
「いえ。でも、護衛の人たちがここを見つけられた理由は聞かれると思うので、考えておてい下さい。」
「そうだな。相談しておくことにする。」
美姫とジョージ王子がヒソヒソ話をしていると、
「では、撤収する。殿下、こちらの車両にお乗り頂けますかな?」
「分かった。」
白髭の魔法使いはジョージ王子とともに車に乗り込み、地下駐車場を出て行った。
「美姫さん、樹君。殿下の居場所を連絡してくれて本当にありがとう。おかげで無事殿下を御救いすることができたわ。」
ジョージ王子を見送った陽菜さんが僕たちに感謝を伝える。
「陽菜さんはジョージ王子と一緒に行かないのですか?」
「えぇ、ロンドンの魔法使いだけで護衛するそうよ。自分たちが見つけられなかった殿下の居場所を突き止めたのが美姫さんだったから、これ以上東京側に得点を稼がせたくないんでしょう。」
「そうですか。」
「さぁ、私たちも帰りましょう。今回の件について美姫さんと樹君は大手柄だけれど、ロンドンも東京も公にはしたくないだろうから、褒賞が出ないと思われるのが心苦しいわね。」
「褒賞が欲しくてやったわけではないので、別にいいですよ。それにジョージ王子の居場所を見つけたのはワンちゃんですから。」
「そう。でも、私からの感謝として今晩の夕食は奢ってあげる。ワンちゃんにも高級肉を届けてもらうことにするわ。」
「「ありがとうございます。」」
「ガゥ。」




