03
(そろそろ起きぬか。余儀ないのう。ちょっと乱暴じゃが・・・)
「痛っ!」
痛みで目を覚ますと、見慣れぬ風景だった。
「おはよ。」
声のする方を見ると、隣のベッドで美少女がほほ笑んでいた。
「ん?おはよう。」
とりあえず挨拶は返したものの、現状を理解できていないのであたりを見渡すと、
「ここは病院よ。分かる?」
「病院?」
「そう。崖から転落したみたいだけれど、覚えてる?」
「そういえば、高尾山を降りている途中に同級生にぶつかられたんだった。崖から落ちたところまでは覚えているけど、その後のことはあまりよく分からない。」
「でも、目が覚めてよかった。ナースコールを押したから、すぐに看護師さんが来てくれるよ。」
「感謝。」
まだぼんやりしているので、ぼけっと周りを見ていると2人部屋のようだった。部屋がやけに広く感じたので、隣の少女に尋ねようとしたしたときに看護師が入ってきて、
「美姫様、なにか御用でしょうか?」
「彼、目が覚めたみたいなんです。」
「森林君、よかった目が覚めたのね。ここどこかわかる?」
「病院。」
「ちゃんと意識はあるようね。先生とお母さんを呼んでくるから、少し待っていて。」
と言って、すぐに出て行った。
数分後病室に急いでやってくるなり、
「樹。良かった。ずっと目が覚めないのかと心配したのよ。」
と僕の手を握った母親が安堵した表情を浮かべていた。
「崖から転落したと聞いた時にはびっくりして、その後2日間眠りっぱなしだったからどうなることかと思ったけれど、本当によかった。」
「2日間も?今日は何日?」
「11月6日よ。」
「2169年の?」
「えぇ、そうよ。嘘じゃないわ。だって、樹が1年以上も目が覚めなかったら、母さんはあきらめると思うもの。」
「いや、そこはあきらめるなよ。」
「ふふふ。」
隣の美少女が不意に笑った。
「どうしたの?」
「2人の会話が漫才みたいだったから。」
「そうかな?」
「そんな会話できるくらいだから、大丈夫ね。良かった。」
そんな会話をしているうちに、医師と看護師が病室に入ってきて、
「森林君。意識が戻ったみたいだね。これから検査をしたいんだがいいだろうか?」
と尋ね、僕の返答を待たずに、
「これから彼の検査をしたいのですがよろしいでしょうか?」
と母親にも同じことを聞いた。
「これからすぐにですか?もう少したってからでも。」
「ちょうど検査装置が空いていて、今を逃すと明日になってしまうので、できるだけ早めにしたいのですが。」
「樹に何か問題があるんでしょうか?」
「いえ、問題がないことを確認する検査だと考えてもらって構いません。」
「そうですか。早めに検査してもらえたほうが私としても安心なので。よろしくお願いします。」
「分かりました。すぐに検査装置の予約をします。佐藤さんよろしく。」
「はい。」
佐藤と呼ばれた看護師が部屋を出て行った。
「それで、樹はどうなんでしょうか?」
「幸い、一昨日の検査では脳出血も認められませんでしたし、一時的な記憶の取り違え等はあるかもしれませんが、後遺症が残るようなことはないでしょう。」
「良かった。」
「ただ、2日間も目が覚めなかった、ということもありますので、結論は本日の検査の結果を待つ必要はあります。」
「そうですか。」
「心配なさることはありません。我々としても万全の体制で臨みますので。」
「よろしくお願い致します。」
医師と話をした後、
「樹。母さんは今日はもう帰るけれど、明日も来るから。」
「了解。」
「検査がんばって。」
「僕がどう頑張るんだよ。」
「いいじゃない、心構えの問題よ。」
という言葉を残して母親が病室を出ていった。
「森林君。早速だけれど、これから検査をします。」
「お願いします。」
「目が覚めたばかりで、まだ体はだるいかもしれないが、検査の間だけ少し辛抱してほしい。」
医師から声をかけられ、夕方までいろいろな検査を受けた。