08
「そろそろ、模擬戦を始めても良ろしいでしょうか?」
「「はい。」」
「では、始め!」
純一先生の開始の合図とともに美姫は一瞬でジョージ王子との間を詰め、魔導弾を撃つ。
(速い!)
(そうじゃろう。樹は美姫と奴の速度が同等、とか言っておったが、己の目が節穴だということを思い知るとよいのじゃ。)
(謝罪、、、)
バコッ!
ジョージ王子は魔導弾の直撃を食らい、吹き飛ばされた。
「・・・。」
「先生?」
「勝者、美姫さん。」
(私の勝ちよ。)
(しかも、余りにも呆気ない幕切れに純一先生も戸惑ってたくらいの。)
(ちょっとやりすぎたかな?)
(否定。このくらい圧勝しておけば、ジョージ王子も少しは大人しくなってくれるはず。)
(そうだといいんだけど。)
「・・・殿下、お怪我などございませんか?」
「あぁ。何ともない。美姫にはかなり手加減されたようだ。」
陽菜さんも漸く事態を飲み込めたのか、ジョージ王子に駆け寄った。
「魔導盾を展開する間もなくやられるとは、ぐうの音も出ないくらいに負けてしまったな。」
「まさに目にも止まらぬ速さでしたね。」
「美姫はこうなることが分かっていたから、条件をつけて模擬戦を受けたのか。」
「ですから、もう美姫さんはお諦めになって下さい。」
「そうするしかないか。仕方ない、第二夫人は陽菜にすることにしよう。」
「わ、わたしはそんな事を望んではおりません。」
「陽菜はいつもそれだな。『嫌よ嫌よも好きのうち』と言うし、本当は嬉しいんだろう?」
「そ、そんなことはありません!」
陽菜さんは顔を真っ赤にして否定する。
(満更でもなさそうよ。)
(同感。陽菜さんは”ジョージきゅん”のことが好きだったんだから、嬉しくないはずがないし。)
(ふふふ。そうね。)
「こんな風に同年代に負けたのは久しぶりだ。」
ジョージ王子がこちらに向かってくる。
「殿下は去年と今年の魔闘会本選を連覇されているのですから当然でしょう。」
「美姫が魔闘会本選に出ていればそうではなかったはずだ。」
「私は予選を勝ち抜けなかったのですから、仮定の話をしても仕方ありません。」
「しかし、今年の魔闘会本選に出場した東京代表は決勝にも進めなかったのだぞ。美姫と樹がいるのにも関わらず、あのような者たちに負けるとは思えないのだが、何かあったのか?」
「・・・いろいろあったのです。」
「そうか。しかし、世界は広いな。陽菜に言われるまで美姫のことを知らなかったし、同年代には他にも強き者がいるのかもしれない。」
ジョージ王子は遠くを見つめて物思いにふけっているようだった。
「殿下は強敵がいなくて、ずっと寂しい思いをされていたのよ。」
「そうなのですか?」
「えぇ、手ごたえのなさを嘆いておられたわ。」
「殿下は好敵手を求めらていたのですね。」
「そうよ。『俺がもう2、3年早く生まれていれば、魔闘会本選で黄金世代と競い合えたのだが』とよく仰っていたわ。」
(黄金世代って名前だけは知ってるんだけど、どういう世代なんだっけ?)
(私も旬果お姉ちゃんから聞いただけで詳しくは知らないけれど、魔闘会本選に3年連続出場した班が3班もあった世代みたい。)
(1年生から魔闘会本選に出場するなんて凄い。)
(余程実力が突出してないと無理よね。)
「すみません。 黄金世代って何ですか?名前だけは聞いたことがあるのですが。」
「樹君は高校から東大附属に編入したから、上の世代についてはあまり知らないのね。」
「魔闘会本選に3年連続出場した班があったとか。」
「そうなの。大会創設時は少ないながらも偶にあったらしいのだけれど、年々質が上がってきたこともあって、ここ50年くらいは一度もなかったのよ。」
「黄金世代は陽菜さんの4つ上の学年なんですよね?」
「そうよ。私も直接は対戦したことがないけれど、動画が残っていると思うから、美姫さんも後で見ておくといいわ。」
「はい。よければ、どんな人たちなのか教えてもらってもいいですか?」
「有名なところだと、”楯系”のジャネット・マジック・ハーデス、”銃剣系”のキャサリン・エウ・マックフィールド、”大砲系”のオリス・ンゴザルシ・ンバズぺが黄金世代の主役と言われている人たちよ。」
「ジャネットさんって、あの”楯系”魔法使いの創始者と同じ名――――」
キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン
昼休みを告げる鐘が鳴る。
「もう、お昼休みですね。続きはお昼ご飯を食べてからにしませんか?」
「そうね。殿下もそれで宜しいでしょうか?」
「いいだろう。」
「では、昼食は生徒会室でとりますので、ご案内します。」
「分かった。楽しい時間はあっという間に過ぎるな。」




