02
「それでは、御姉様、判決をお願いします。」
「えっ、私が?」
「これは御姉様のための裁判なのですから、御姉様が裁判長なのですの。」
「判決を下すのは早すぎないか?」
「諒太は黙ってますの。御姉様が諒太にどんな罰を下されても、私が忠実に実行しますの。」
「有罪前提かよ。」
「さぁ、御姉様、判決を。」
(無罪でいいよね。)
(肯定。諒太さんはもう美姫の魔導弾を4発も直撃されて罰を受けているわけだし。)
「それじゃ、無罪で。」
「えーー!?」
「順当な判決だと思うが、華恋は残念そうだな。」
「だってそうですの。判決を拡大解釈して、諒太にあんなことやこんなことをしようと思っていましたのに、無罪とか。」
「華恋様、思ったことが口に出ています。」
「はっ!」
「それが目的だったのか。。。」
諒太さんはヤレヤレといった感じだ。
「無事に無罪も勝ち取れたことだし、樹、俺からも質問していいいか?」
「はい。」
「樹たちは魔闘会を棄権して何をしていたんだ?2人が突然闘技場を出て行った時には驚いたんだぞ。」
「国防軍のお手伝い、ですかね。」
「それって高校生の樹たちがやることか?それとも、既に2人は国防軍所属だったりするのか?」
「いえ、まだ僕たちは国防軍に入ってはいませんが、いろいろ事情がありまして、、、」
「国防軍がらみの秘守義務、というやつか。言えないんだったら仕方ないな。」
「謝罪。」
(諒太さんには何も言えないのが申し訳ない。)
(いつも私たちのことを気にかけてくれているのにね。)
「『御姉様たちのことは当日に聞きました』と言いましたの。だから、もうこの話は終わりにして、これから諒太の祝賀会をしますの。」
「さっきの言葉を気にして、別に無理矢理しなくてもいいんだぞ。」
「そ、そんなことありませんの。右京、あれを持ってきますの。」
「承知しました。」
右京君が厨房から大きめのケーキを運んできた。
「何だこれは?」
「私が作ったケーキですの。」
「そうじゃなくて、『諒太君 魔闘会優勝おめでとう』ってチョコに書いてあって、ケーキに蝋燭がたてられていることだよ!」
(見た目はお誕生日会のケーキそのものね。)
(諒太さんがああ言いたくなる気持ちも分かる。)
「諒太の優勝を心から祝う気持ちの現われですの。」
「そんなわけあるかい!」
「右京がその様子を動画でとってくれていますから、蝋燭の火を吹き消しますの。」
「やるわけないだろ!」
押し問答の末、華恋に押し切られて諒太さんが蝋燭の火を吹き消し、右京君がケーキを切り分けて皆に配った。
「このケーキは華恋の手作りなんだよな?」
「先程そう言いましたの。職人さんに手伝ってもらいましたが、半分以上は私が作りましたの。」
「食えるのか?」
「諒太でなくてもその言葉は失礼ですの。たぶん食べられますの。」
「『たぶん』って何だ?」
(珠莉、あのケーキは本当に大丈夫なのか?)
(作られてから1週間以上たっていますが、冷凍してあったので大丈夫だと思います。)
(1週間前に作ったということは、魔闘会の祝賀会のために作ったやつ?)
(はい。華恋様が美姫様のために作られたケーキを手直ししたものです。作られた時に毒味はしてありますし、残り物を頂きましたが、美味しかったですよ。)
(なら安心。)
「さぁ、今は諒太が主役なのですから、1番先に食べてほしいですの。」
「分かったよ。」
諒太さんは恐る恐るケーキを口に運ぶ。
「・・・どうですの?」
「普通にうまい。華恋もお菓子作りをするようになるとは。」
「食べられるようで良かったですの。御姉様、私たちも頂きますの。」
「俺に毒味させたのかよ!ちょっと感動した気持ちを返せ。」
「こうなるだろうと思った。」
「樹様、私たちも頂きましょう。あーんして下さい。」
珠莉がフォークで切り取ったケーキを僕の方に向ける。
「珠莉、あなたは何をしているのかな?」
「樹様にケーキを食べてもらおうとしています。」
「そんなことは見れば分かるよ。私が聞きたかったのは、どうして珠莉が樹に食べさせてあげようとしているのか、ってこと。」
「私がしたいからです。それに、樹様も喜んでくれています。」
「ふーん、樹はケーキを食べさせてもらいたいんだ。それなら、どうぞ。」
美姫もフォークで切り取ったケーキを僕の方に向けてきた。
パクッ
「ふふふ。樹は私の方のケーキを食べたいみたいよ。」
「樹様、私のケーキは食べて下さらないのですか?」
勝ち誇った様子の美姫を見て、珠莉が涙目で僕の方に訴えかける。
パクッ
「ふふふ。樹様は私のケーキも食べて下さいましたよ。」
「そのようね。ここは交互に食べさせる、ということでどうかな?」
「分かりました。」
その後、僕は美姫と珠莉の分のケーキを交互に食べ、僕の分のケーキを交互に食べさせることになった。
「華恋、珠莉ってあんな性格だったか?」
「そんなことありませんの。樹と関わるようになってから変わってしまいましたの。樹のせいですの。」
諒太さんと華恋のひそひそ話を聞きながら美姫と珠莉にケーキを食べされ続けたのだった。