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「それでは、魔闘会裁判を始めますの。」
「いや、俺は魔闘会の反省会だと聞いたんだが。」
華恋が裁判をレストランで行うと言い出したのだが、
「そう言わないと来ないですの。それに、私の言葉を訂正するなんて、諒太のくせに生意気ですの。」
「はいはい、そうですか。嫌な予感がしたんだ。やっぱり来なければよかった。」
「諒太は裁判で吊るし上げられる被告人なのですから、来ないと言っても無理矢理に連れてきましたの。」
「それだったら、魔闘会の反省会と言って俺を騙す必要はなくないか?」
「私は諒太に自発的に来てほしかったのですの。」
既視感を覚える出だしだった。
「毎回お疲れ様です。」
「魔闘会の反省会だなんて嘘をつかなくても来ざるを得なかった、ってのに。」
「同感。そういうところが子供っぽいんですよね。」
「そこ、うるさいですの。」
華恋がヒソヒソと話す僕と諒太さんを睨んだ。
「御姉様たちのことは当日に聞きましたから、魔闘会での出来事を被告人の諒太から説明してもらいます。」
「その前に、何で俺が被告人なんだ?」
「御姉様が切に願われていた魔闘会優勝を奪った犯人だからですの。」
「だったら、麗華さんたちも呼べばいいだろ。」
「あの女が来るわけないから、諒太が代表者としてここにいますの。それに、諒太だったら私が何をしても許されますの。」
「そういう理由かよ。」
「文句でもありますの?」
「大有りだ。」
「私に文句を言うなんて、諒太のくせに生意気ですの。」
「・・・。」
華恋以外は皆、結局その台詞か、という無言の表情だった。
「反論がないようですので、被告人、説明を。」
「へいへい。どこから説明すればいいんだ?」
「御姉様が魔闘会を棄権なされて、闘技場を出られた後からですの。」
「分かったよ。美姫さんと樹が闘技場を出て行ってからしばらくして試合が再開されることになったんだが、なにせ2人はもういなかったから、すぐに審判が俺たち3年生1班の勝利を宣言して試合終了となったんだ。」
「異議あり!ですの。爆発が起きて試合が中断されたり、御姉様が棄権したりする異常事態だったのですから、諒太たちの班を勝ちとするのではなく再試合とするべきでしたの。」
指をビシッと諒太さんに向けて立ち上がった華恋が言った。
(裁判って、もしかしてこれがやりたかったのか?)
(そうなのです。とあるゲームをされてから、華恋様はこういう場面に憧れておられましたので。)
珠莉が華恋にバレないよう思考伝達で伝えてきた。
(それで、あのドヤ顔か。)
(はい。華恋様はあの仕草の練習もされていましたから。)
(そんなしょうもないことを。)
「それを俺に言われても困るのだが。なぁ、右京?」
「ノーコメントでお願いします。」
「つれないなぁ。」
右京君は今日もレストランで給仕の手伝いをしており、ちょうど珈琲と紅茶を持ってきたところだった。
「御姉様に魔導弾を叩きこまれて無様な姿をさらしていた諒太や、御姉様に押し倒されて情けなくも魔法の腕輪を奪われた麗華さんは、再試合でなくて良かったと思うかもしれませんが、私は納得できませんの。」
「でも、闘技場に残っていた麗華様は勝利を宣言されても嬉しそうではありませんでした。」
「珠莉の言うとおり、俺たちの優勝が決まったというのに麗華さんは苦虫を噛み潰したような顔をしていたな。少し前の麗華さんなら嬉しそうにしていたかもしれんが。」
「御姉様がほぼ手にしていた勝利を譲られたようなものなのですから、普通の感覚を持っていれば複雑な気持ちになって当り前ですの。」
「麗華さんもそのことを分かっていたから、父親である六条軍務尚書に辞退の申し入れに行ったみたいなんだが、俺たちの優勝は覆らなかったんだ。」
(六条軍務尚書は魔法の腕輪に細工をしてまで麗華さんたちに優勝させようとしていたんだから、辞退なんかさせるわけないよね。)
(同意。僕たちに対して思うところもあるみたいだし。)
「表彰式と祝賀会が中止になったのは、そのことが原因だったりしますか?」
「そうだろうな。麗華さんから後で聞いた話だが、表彰式や祝賀会で麗華さんが強硬策に出るのを防ぐために、再度爆発が起きる可能性を考慮したという理由をつけて、六条軍務尚書が表彰式と祝賀会を中止にすることを決定したそうだから。」
「子も子なら親も親ですの。」
「ことわざとしては『親も親なら子も子』なんだけどな。しかし、あのまま表彰式や祝賀会を開催していても微妙な雰囲気の中での進行になるだろうし、中止になって良かったんじゃないか。」
「異議あり!ですの。権力を使って表彰式と祝賀会を中止にするなんて横暴すぎますの。許せませんの。」
「それについても俺に言われても困るのだが。」
「華恋様は美姫様が優勝されたときのことを考えて、祝賀会で盛大に祝おうといろいろ準備されていたのが無駄になったことに憤っておられるのです。」
「それを俺を祝うのに使っても良かったんだぞ。」
「どうして御姉様のために準備したものを諒太のためなんかに使わなくてはいけませんの?」
「華恋ならそう言うと思ったよ。」
と、少し残念な様子で諒太さんが言うと、
「べ、べつに、諒太を祝いたくない、と言っているわけではありませんの。そ、そうですの。この裁判の後は諒太の祝賀会にしますの。」
華恋は少し顔を赤くして慌てたように言った。
(ツンデレかっ。)
(ふふふ。華恋ちゃんは私たちのお祝いの準備をしてくれていたのね。悪いことしたかな?)
(否定。どうせろくでもない事だろうし。)




