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竜の女王  作者: M.D
2171年夏
270/688

32

「そのことについては――――」


 美姫が快斗中佐が現れてから最後まで話をした。


「美姫ちゃん、ありがとう。これで軍の報告書に書かれていなかった部分について理解ができたわ。今回の件は黒龍会の仕業で、実習と今回の件は連続したもので間違いないようね。」

「亜紀様が連続したものだと考えられた理由を教えてもらえないでしょうか?」

「黒龍会に絡む事件をよく精査すると、最近の事件は単発のものではなく、ある最終目的に到達するための流れの中にあると考えられるからよ。」

「実習と今回の件もその流れの中にあると。」

「そう考えるのが自然ね。」

「黒龍会の最終目的は何なのでしょうか?」

「そこまでは分かっていないけれど、魔法使いに関係することだけは確かね。」


(樹は黒龍会に最終目的があったとして、それは何だと思う?)

(うーん、何だろう?世界征服?それはないか。美姫は何だと思う?)

(魔導壁発生装置を奪おうとしたんだから、独立国家の樹立とか?多分これも違うような気もするけど。)

(亜紀様が言われるように『魔法使いに関係すること』だとは思うけど、全然分からないな。)

(そうね。私たちは黒龍会について知らなさすぎるから。)


「それにしても、真夏中尉が共犯者だったとはね。第二都市防衛隊に黒龍会の構成員がいたことが分からなかったのはかなりまずい状況だし、魔法軍内部に他にも黒龍会の構成員がいると考えるのが妥当ね。」

「はい。しかし、真夏中尉を捕らえられたので、情報を聞き出すことは出来ると思います。」

「あら?まだ美姫ちゃんには言ってなかったみたいね。真夏中尉と恭介少尉には軍の施設へ護送中に逃げられてしまったの。それからの2人の足取りも全く掴めていないから、大失態よ。」

「えっ!?そうなのですか?」

「えぇ、護送車はその際に大破して、護衛していた魔法使いも重傷よ。」

「旬果お姉ちゃんは大丈夫なのでしょうか!?」

「ん?あぁ、美姫ちゃん、違うの。真夏中尉と恭介少尉を護送していたのは治安維持軍第一機動連隊よ。侵入者に気が付かなかった不適際を挽回するために功を焦って情報戦略隊から強引に護送任務を奪ったらしいわ。」

「旬果お姉ちゃんは護送任務についていなかったのですね。良かったです。」

「第一機動連隊にとっては泣きっ面に蜂だったけれどね。近々発表されるけど、それまでは緘口令がでているから誰にも言わないでね。」

「はい。」


「真夏中尉と恭介少尉はどのように逃げたのでしょうか?2人には魔封錠が付けられていましたし、護送任務を奪ったのも治安維持軍第一機動連隊とのことですから魔法使いが護衛についていたはずなので、仲間が助けに来たとしても、そう易々とは逃げ出せないと思うのですが。」

「護送車の車内カメラの映像には、誰かが助けに来たとかはなくて、真夏中尉が自力で魔封錠を壊して恭介少尉をつれて逃げる様子が映っていたわ。」

「それはおかしくないでしょうか?魔封錠をつけられていると身体強化も使えないので、魔封錠を壊すなんて不可能なはずです。」

「映像を見た限りでは、力ずくで壊したとしか言えない様子だったわ。真夏中尉は初級魔法使いだというし、どうしてそんなことができたのか私も分からないの。」


(真夏中尉に取りついている悪魔の力を利用したとしか考えられないよね。)

(同意。でも、ここでそんなことを言っても信じてもらえないだろうから、黙っておくしかないか。)


「護衛していた魔法使いに重傷を負わせたのも真夏中尉なのでしょうか?」

「そうよ。護送前に身体検査をしたと聞いているし、魔法の腕輪をつけていなかったところを見ると、真夏中尉は特殊な魔道具を隠し持っていたと考えられるわ。」

「特殊な魔道具ですか?」

「黒龍会は裏社会ともつながっていて、秘密裏に様々な魔道具の研究開発も行っていると言われているの。」

「そんなことまでしているのですね。」

「えぇ。これで真夏中尉は黒龍会の構成員であることが確定ね。過去にも1度、黒龍会の構成員と思しき人物が魔法の腕輪をつけずに魔法を放ったことがあったらしいのだけれど、その時は証言しか得られなかったのよ。でも今回は映像に残っているから何らかの情報が得られると思うわ。」


(護衛していた魔法使いに重傷を負わせたのは魔道具じゃなくて悪魔の力じゃない?)

(私もそう思う。亜紀様の言い方だと、真夏中尉以外にも悪魔と共存している人が黒龍会にはいるみたいね。)

(真夏中尉を止めるためにも護衛について行った方が良かったと思う?)

(あの時ついて行くと言っていても、護衛任務を奪った第二憲兵隊第二小隊から拒否されていただろうから、どっちみち真夏中尉を止めることはできなかったよ。)

(同感。)



「最後に、美姫ちゃんが和香に持たせてくれた魔法の腕輪だけれど、正さんを問い詰めたら白状してくれたわ。」

「やはり、六条軍務尚書が仕組んだものだったのですか?」

「『部下が忖度して実行したことだ』と言い張っているけれど、それが事実だとしても不正を知っていて黙認していた正さんも責任は免れないわね。」

「そんなことを言っていたのですか。」


「上に立つ人間には公正さが求められるわ。でも、私たちも人間だから完璧に公正になんてできないのよ。だから、周りへの影響が小さくて許容できる範囲の不正であれば積極的には問題視しないけれど、あれほどあからさまな不正はさすがに見逃せないわ。」

「六条軍務尚書はどうなるのですか?」

「それはこれからの協議次第だけれど、直接手を下しているわけではないから、議員を辞職して引退、ということになると思うわ。」

「甘い対応に聞こえますが、それが現実的な落としどころなのかもしれません。」

「六条家当主家の人間が糾弾されると魔法使い全体に悪影響が及ぶことも鑑みると致し方ない処置でしょうね。逆に、実行した部下は見せしめに地下層送りになって強制労働になるわ。」

「見せしめとはちょっとかわいそうな気もしますが、自業自得ですね。」

「そうね。」


(地下層での強制労働か、、、絶対にやりたくないな。)

(私も。冤罪で強制労働させられたりなんかしたらたまったものじゃないから。)

(それでも『犯罪者にも人権を』と訴える人の数は昔ほどではない、と聞いた気がする。やっぱりそれは今でも戦時下で、平時とは違うからか。)

(そうだと思う。だから、軍務尚書にそれなりの権限が与えられているんだし、それを乱用するのは許せないよ。)

(同意。もし、麗華さんが訓練用の魔法の腕輪を使っていたら、爆発が起きる前に決着がついていて、僕らが優勝できていたのに。)

(本当にそうよね。)


 それから少し雑談をした後、応接室を出た僕たちは再びバイロ―と会話をしてから寮に戻った。

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