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「あら、美姫さんと樹君。大きな声がしたから何事かと思って来てみたんだけど、どうしたの?」
階段から降りてきたのは百合子さんだった。
「2年生の先輩が麗華様という人のところへ挨拶に行くよう言ったのですが、今日は部活紹介を見て回りたかったのでお断りをしたところ、強引に連れて行かされそうになったところでした。」
「また麗華さんですか。ということは、あなた達に声を変えたのは好美さんね。何度私を困らせればよいのか。」
百合子さんは先の先輩のことを知っているようだ。
「彼女たちには私から注意をしておくけれど、麗華さんは気が強くて誇りの高いお嬢様だから、特に美姫さんは気を付けておいてね。」
「分かりました。」
「それと、必ずまた何かされると思うから、その時はすぐに私に連絡をくれないかしら。彼女たちを止めるのも生徒会長の仕事のうちだから。」
「生徒会長も大変ですね。」
「そうなのよ。生徒会長なんてやるもんじゃないわね。例年、魔法使い御三家の本家筋、分家筋の誰かが務めることになってるんだけど、たまたま私の学年にはいなくて、先生たちの推薦で私が生徒会長にさせられたのよ。」
「そうだったんですか。」
「1年生で魔法使い御三家の分家筋は美姫さんだけだから、次の次は美姫さんね。」
「私ですか?」
「私が生徒会長として務まっているんだから、美姫さんなら問題なくできるわ。それに、生徒会長として麗華さんに接するのは半年もないから大丈夫よ。」
「私は百合子さんほど強くないので、務まるでしょうか?」
「大丈夫よ。私が保証するわ。」
先の件の影響か、美姫さんにしては珍しく弱気な感じだった。
「その話はおいおいするとして、2人は今日部活紹介を見て回っているのよね?」
「はい。」
「立ち話もなんだし、生徒室でお茶でもしない?」
「百合子さんの仕事の邪魔をするのは悪いので、遠慮しておきます。」
「そう言わないで。私も見回りをしていたのだけれど、ちょっと疲れちゃったのよね。それに、何かあれば連絡が来るし。」
「見回りを途中でやめてもいいんですか?」
「先の件の話を聞かせてもらう、っていうことにすれば問題ないから大丈夫よ。さぁ、行きましょう。」
百合子さんが僕に腕を絡ませて生徒会室へ歩き始める。
「私の意見は無視ですか。というか、何故百合子さんが樹君と腕を組んでいるんですか?樹君から離れて下さい!」
「美姫さんのことは気にしないで行きましょう。」
「いや、僕も歩きにくいので、できれば腕を話してほしいのですが。」
「じゃぁ、これならどう?」
百合子さんは体を押し付けてくる。
「更に歩きにくくなったのですが、、、」
「ふふふ。そう?」
「他の生徒に見られると困ります。」
「もう、樹君は照れ屋さんなんだから。私は困らないわよ。」
「樹君の腕を放して下さい!」
「美姫さんも同じことをしたいのなら、もう片方の腕が空いているから美姫さんはそちらを使えばいいのよ。」
「そういうことではありません。」
「分かったわよ。」
美姫さんが僕と百合子さんを引き離そうとし、渋々といった感じで百合子さんは腕をほどく。
(急に百合子さんが樹君に馴れ馴れしくなったけど、私の知らないところで何かあったの?)
(否定。この前に生徒会室に呼ばれてから会ってないから理由が分からない。)
(だったら、何故百合子さんの態度が急変したのかな?)
(それは僕の方が知りたい。。。)
生徒会室に入ると、百合子さんがお茶の準備を始めた。
「手伝いましょうか?」
「いいわ。誘ったのは私だからそこに座って待っていて。2人とも紅茶でいいわよね?」
「「はい。」」
(百合子さんが甲斐甲斐しくて気持ちが悪いんだけど。)
(同感。食べられる直前みたいな感じがする。)
「はい、どうぞ。」
百合子さんがテーブルに紅茶の入ったカップをおいた後、僕の隣に座る。
「どうして樹君の隣なんですか!」
「私が樹君の隣に座ってもおかしくないと思うけど。」
「おかしいです!それにこの前は対面に座っていたじゃないですか。」
「この前と同じ場所に座らなければならない理由なんてないわ。それに、別にいいじゃない。減るものでもないし。」
「僕の精神エネルギーは確実に削られて減りますけどね。」
「そうです。百合子さんは対面に座って下さい。」
「狭いんだったら、美姫さんが移動すればいいんじゃない?」
「百合子さんが移動して下さい。樹君もそう思うよね?」
「・・・肯定。」
「ちぇっ、仕方ないなぁ。でも、今度は私が樹君の隣よ。」
百合子さんが対面に移動すると、
「さっきのことといい、今日の百合子さんは感じが違うよね。今までは清楚なお嬢様って感じだったのに。」
美姫さんは百合子さんに聞こえるよう、思考伝達ではなく口に出して言った。




