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美姫が受け取った魔法の腕輪をハンカチで包んだ時、
ドカンッ!! ンッ
再び会場の外から爆発音が聞こえてきた。
「もう起きなかったんじゃないの?」
「今度は何が向かってきたの?」
「近づく前に対処しろよな。国防軍は何やってたんだ?」
観客もざわめき、会場の外には黒い煙が上がっている。
(午前中と同じことの繰り返しか。)
(そうかな?樹は、何か違和感を感じない?)
(うーん、どうだろう?)
(・・・あっ!闘技場を覆っていた魔導壁が消失してる!)
(本当だ。魔導壁の消失は爆発が原因なのか?)
(今回も爆発音は会場の外からだから、魔導壁に影響が出るとは思えないよ。)
(樹君、美姫さん、他に何か気が付きませんしたかな?)
(『他に』ですか?うーん、、、何も思いあたりませんが、美姫は?)
(会場外の爆発音に紛れて小さな爆発音が聞こえたこと、でしょうか?)
(それって、今回は爆発が2回あったということ?)
(そのとおりですな。)
(どこからですか?)
(この下からですな。)
(この下、というと闘技場の地下ですか?)
(そうですな。)
(確か、闘技場の地下には魔導壁発生装置があったよね?)
(つまり、爆発を起こした連中の狙いは魔導壁発生装置だったのか。それだと魔導壁が消失したことともつながる。)
(魔導壁発生装置を奪うために、国防軍の目を外に向けさせることによって会場内の警備を手薄にさせる作戦、という訳ね。)
(外の爆発はグレンさんが言っていたとおり国防軍をおびき寄せるための陽動か。)
(それと、もう一つ爆発音をごまかすため。)
(連中、よく考えている。)
「状況確認のため、試合を一時中断する。君たちは一旦所定の場所に戻りなさい。」
審判が僕たちにそう告げ、情報端末でどこかとやり取りを始めた。
(あと一歩だったのに。)
(仕方ない。戻ろう。)
(国防軍は地下での爆発に気が付いているのかな?)
(気付いていないとしても、魔導壁発生装置は魔法軍第二都市防衛隊が守っているから無事と思いたいけど、確認するすべがないし、、、)
(私たちが行ってどうなるわけでもないだろうけど、気になるね。)
(ここで待っていないといけないのがもどかしい。)
(そうね。事態に気づいていながら、見過ごすことしかできないなんて、、、)
(そう思うのであれば、確認に行くしかないじゃろう。)
(そうしたら決勝戦を棄権することになります。)
(しかし、行動するのであれば今しかありませんな。)
(でも、、、)
(『ワレのことより美姫がすべきことをなすべきじゃ』と前にも言ったじゃろう。ワレのことは良いから、美姫のしたいようにすればよいのじゃ。)
(・・・ありがとうございます。樹、行こう!)
(了解。)
闘技場に背を向けて走り出す。
「おい、君たち、どこに行くんだ!?闘技場からでたら棄権したとみなすぞ!」
審判の声は無視して闘技場の出入口に向かう。
「美姫様、どうなされたのですか?」
「和香、理由は後で話すから、これを亜紀様に届けて。」
美姫がハンカチに包まれた魔法の腕輪を和香さんに渡す。
「承知しました。お気をつけて。」
「和香も。」
闘技場を出ると、
「御姉様、どこに行かれますのーー!?」
華恋の声が観客席にこだましたのが聞こえた。
(爆発を起こした連中、って誰なんだろう?)
(魔導壁発生装置を狙ってる、ということは、魔法連合国か反魔法使い連盟だと思う。)
(そうだとしても、警備が最も厳重な魔闘会の決勝戦を選ぶかな?魔導壁発生装置の輸送中、とかの方が狙いやすそうじゃない?)
(輸送の時には囮を含めて複数の選択肢があるから戦力を分ける必要があるけれど、魔闘会の時には設置場所は闘技場の下しかないんだから戦力を集中させやすいのかも。)
(連中が少数だとすると、美姫の言うとおり魔闘会中に事を起こす方が成功確率を上げられそうだ。)
(でも、魔導壁発生装置はそれなりの大きさがあったから、どうやって運ぶんだろうね?)
(同感。分解して運ぶにしても、壊れないように分解している時間なんてないだろうし。)
(『簡易装置と言えども基盤となる技術情報は含まれている』と中尉が言っていたのを憶えていますかな?)
(はい。)
(その基盤技術が含まれている部分さえ手に入れられれば最低限の目的は達成されるのですから、全て持ち去る必要はないのですな。)
(成程。それ以外を壊しても構わなければ、分解する時間もかからないし、持ち出す部品も小さく済む、ということですね。)
(そういうことですな。)
(魔法軍第二都市防衛隊の人たちは無事かな?)
(無事だと思いたいけど、地下からだから爆発の程度が分からないし、何とも言えない。)
(そうね。今は急ぎましょう。)
(了解。)




