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その後、事件が起こることもなく午後になり、決勝戦の時間が近づいてきた。
「樹、勝てよ。」
「麗華さんも改心して魔闘会に向けて秘かに鍛錬していたという噂も聞くし、美姫さんたちにとっては厳しい試合になるかもしれないわね。」
「いや、美姫さんと樹なら絶対に優勝できる。そして、優勝したら俺のことを思いっきり踏んづけて下さい。」
「私も御姉様なら優勝できると確信していますが、お怪我だけはしてほしくないですの。」
「美姫様、樹様、私も精一杯応援しますので、頑張って下さい。」
「皆、ありがとう。」
1人だけ変なことを言っている者もいるようだが、皆の声援を受け控室に向かう。
「美姫さん、こんにちは。」
「何か御用でしょうか?」
途中で麗華さんと好美さんが待っており、僕たちに声を掛けてきた。
「そんな警戒しないで下さいな。私はもう以前の私とは違い、美姫さんに危害を加えようと思ったりしてませんから。」
こちらの警戒心を解こうと、麗華さんは柔らかな表情をしている。
「分かりました。」
「良かった。ここで待っていた理由は、私がこんなことを言っても信じてもらえないかもしれないけど、決勝戦は正々堂々と試合をしたい、と言いたかったからなの。私にとっての魔闘会はある意味今年が最初で最後のようなものだから、悔いが残らないようにしたいのよ。」
(樹、どう思う?)
(実習の後、麗華さんは大人しくなったし、『人が変わったみたいに真面目に授業を受けている』と諒太さんも言っていたから、信じてもいいような気がする。)
(そうね。これまでも麗華さんは直情的で人を騙すようなことをしていなかったしね。)
(でも、好美さんがこちらを微妙に睨んでいるのが気になるな。)
(麗華さんはともかく、好美さんは何か仕掛けてくるかもしれないね。)
「麗華さんのお気持ちは理解しました。そう言うことでしたらお受けします。」
「ありがとう。去年の仕返しをされても私は文句を言えない立場だけれど、提案を受け入れてくれて感謝します。」
「麗華様に対する仕返しなど、私がさせません。」
「好美では美姫さんはともかく樹君にも敵わないわよ。そんなこと実習の時の2人を見ていれば分かるでしょう。」
「くっ、、、」
好美さんは手を握りしめ悔しそうな顔をする。
「実習の後、私たち3年生1班も連携を含めって班としてみっちり鍛錬してきたから、私たちでも美姫さんたちに十分対抗できるようになった、と思っているの。秘策も用意してあるし、簡単には負けないわよ。」
「覚悟しておきます。」
「では、美姫さん、闘技場で。好美、行きましょう。」
「はい。」
そう言って、麗華さんと好美さんは去っていった。
(麗華さんたちが班としてまとまられたら、実力があるだけに厄介よね。)
(諒太さんんも『麗華さんが真面目に鍛錬に参加するようになって、以前にもまして模擬戦で他の班を圧倒できるようになった』って言ってたし。)
(もう1つの3年生2班も2回戦と同じ戦術でくるだろうから、私たちとしてはやりずらいね。)
(同感。僕たちが2人しかいない、という点を突かれるのが一番いやだから。)
控室に着いてしばらくして、スピーカから試合開始を告げる案内が聞こえた。
『間もなく決勝戦を行いますので、選手の生徒は入場して下さい。』
「さぁ、行きましょう。」
「了解。」
控室を出て闘技場へ入ると、和香さんが声を掛けてきた。
「ご武運を。」
「ありがと。」
闘技場の所定の位置に着くと、美姫は観客席の方を見た。
(旬果お姉ちゃんは観客席にいないみたい。いたら絶対に分かるのに。)
(午前中にあった爆発の調査が長引いているみたいだから、来たくても来れないのかもしれない。)
(私の勇姿を見てくれる、って言ったのに。それに、旬果お姉ちゃんにも応援してもらいたかったのに。)
(仕事なんだから仕方ないんじゃない?)
(そのくらい分かってる。この鬱憤は試合で解消するんだから。)
「麗華さんたち3年生1班も来たようね。」
3年生1班の方を見ると、好美さんが観客席を見て頷いているのが見えた。
(好美さんは六条軍務尚書の方を見ていたみたいだ。)
(そうね。開会式の時といい今といい、あの人、絶対何か企んでるよ。)
(禿同。六条軍務尚書はあからさまに試合に介入できないから、好美さんを手先として使っているように見える。)
(最終的には去年のように試合結果を覆すようなことをするかもしれないね。)
(そこまでして僕たちを負かしたいのか?)
(私たちを負かしたい、というより、麗華さんに優勝させたい、もしくは、龍野家にギャフンと言わせたい、と思ってるんじゃないかな?)
(成程。)
(今回も良からぬことを企んでいる者がいるようですが、ワシらは2人が危険な状況になるまでは手出ししいない、でよろしいですかな?)
(それで良いのじゃ。ワレらが手伝っては、”正々堂々”とはいかんじゃろうからのう。)
(そうですな。樹君も今や並みの高校生では太刀打ちできないくらいに成長しましたから、手助けは不要でしょうしな。)
(奴らが束になっても美姫には勝てんじゃろうから、ワレは高みの見物をさえてもらうとしようかのう。)




