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身体検査を受けた後は、整列しながら開会式が始まるのを待つ。
(今年は旬果さんはいなかったみたいだ。)
(旬果お姉ちゃんは明日来るんだって。『決勝戦での美姫ちゃんの勇姿を見に行くからね』って電文が来てたの。樹は旬果お姉ちゃんに会いたかったのかな?)
(否定。旬果さんと一緒にいる美姫は子供っぽくて微笑ましいから、2人の会話を聞きたかっただけ。)
(何よ、もう。)
美姫と話をしているうちに開会式が始まった。
「静粛に!これより第66回魔法闘技会開会式を行います。開会にあたり、今回の審判委員長を務めて頂くことになっております六条軍務尚書殿からお言葉を頂きます。では、軍務尚書殿よろしくお願い致します。」
壇上に上がった六条軍務尚書が、僕たちの方をチラッと見た気がした。
「皆さん、おはようございます。」
「「「おはようございます。」」」
「ご紹介にあずかりました軍務尚書を務めています六条正です。さて、・・・・」
(さっき、六条軍務尚書が僕たちの方を見た気がするんだけど、美姫はどう思う?)
(私も気づいたよ。好意的な視線じゃなかったよね。)
(良からぬことを企んでなければいいけど。)
(それって、麗華さんに関することよね?麗華さんとは決勝戦で当たることになるはずだけど、そこで何か仕掛けてくるかもしれない、ってこと?)
(肯定。僕の思い過ごしだといいけど。)
(六条軍務尚書も娘である麗華さんのことが可愛いみたいだから、最後の魔闘会で何としても麗華さんたちに優勝させてあげたいと考えていてもおかしくない、と私も思う。)
(普通に戦ったら美姫には勝てないとも考えているだろうし。)
(決勝戦が終わるまでは何が起きてもいいように、注意しておきましょう。)
(了解。)
「・・・・この闘技会が皆さんにとって有意義なものになることを祈念して、開会の挨拶と致します。」
「六条軍務尚書、ありがとうございました。続きまして、校長先生からお言葉を頂きます。・・・・」
校長先生の挨拶があり、事務連絡があった後、観覧席に向かった。
「御姉様、初めての魔闘会で緊張している私が頑張れるように撫で撫でしてほしいですの。」
2年生の席に向かう途中で華恋が近寄ってきて、美姫におねだりをした。
(いや、全然緊張しているように見えないし。)
(そう見えるだけで、実際には緊張しているのかもしれないよ?)
(そうかな?)
(誰しも初めての時には不安で緊張するものよ。それを取り除いてあげるのも上級生としての務めだと思う。)
(何だかんだ言って、美姫も甘い。)
美姫は華恋の願いどおり、頭を撫でてあげている。
「1回戦突破できるように頑張ってね。」
「御姉様、ありがとうございますの。これで元気百倍。相手が誰であろうと負ける気がしませんの。」
「おいおい、対戦相手がいる前でそれはないだろ。」
華恋の言葉を聞いた聡が思わず口を出した。
「あなたが私の対戦相手でしたの?」
「そうだ。知ってたくせに。」
「ふっ、ぺっぽこな奴が気合十分な私に勝てるわけないですの。」
「何だと!上級生に対する口の利き方がなっていないようだな!」
「負け犬ほど良く吠えると言いますけど、本当ですの。」
「まぁ、2人とも抑えて抑えて。」
「そうです。華恋様も自重なさって下さい。」
「樹、邪魔するな。」
「そうですの。」
「うっぷんはこんなところではなくて、試合で晴らせばいいんじゃないかな?」
「美姫の言うとおり、決着は試合でつければいい。」
「そうだな。泣いて詫びを入れたくなるくらいにギッタギタにしてやるから、覚悟しておけよ。」
「それはこっちの台詞ですの。」
(聡君も普段はこんな事では怒らないのに、やっぱり試合前でピリピリしてるのかな?)
(対戦表を見て、華恋が1回線を楽に勝ち上がれるように仕組まれている、って憤ってたし、その上で華恋にあぁ言われたから、聡としても黙ってられなかったんだと思う。)
(去年とは逆に2年生として1年生から挑戦される立場なのに、相手が華恋ちゃんだなんて聡君もちょっと可哀そうではあるよね。)
(同感。)
「あの、、、樹様、私も元気をもらっても良いでしょうか?」
華恋が美姫に頭を撫でてもらったのが羨ましかったのか、珠莉もおねだりしてきた。
「了解。珠莉も頑張ってね。」
「ありがとうございます。合同鍛錬で樹様に指導して頂いたおかげで私も強くなっていますので、2年生にどこまで通用するか楽しみです。」
「でも、怪我をしないように危なくなったら棄権するんだよ。」
「はい。」
珠莉の頭を撫でる僕を美姫がジト目で見ていた。
(美姫、何か言いたいことでもある?)
(私も後で撫で撫でしてもらうんだからね。)




