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――夏休み明け初日
「おはよう。聡、今年も黒くなってるな。『今年は適当にやる』って言ってなかったっけ?」
「おはよう。終業式が終わったころを見計らって姉貴から『情報端末で毎日動画を送らないと、東京に帰った時にシバく。』と言う脅しが送られてきたんだよ。だから、今年も夏休み中、炎天下で特訓漬けだったんだ。」
「ご愁傷様。(・人・)」
「そう言う樹は言っていたとおり今年も美姫さんと特訓だったのか?」
「肯定。」
「本当に羨ましい。どんな特訓をしていたんだ?」
「黙秘。猛特訓だったとだけは言えるけど。」
「そう、内緒よ。2人だけの秘密なんだから。」
「樹君と美姫さんの仲が順調で良かったわ。美姫さん以外に、去年は卒業した百合子さんがいたし、今年は1年生の珠莉とも仲良くしてるみたいだし。」
”2人だけの〇〇”という台詞が気に入ったっぽい美姫が美沙とともに会話に加わってきた。
「珠莉って、あの華恋のお付をしている巨乳の子か。樹が羨ましいぜ。」
「男子ってほんと胸の大きな子が好きよね。あんな脂肪の塊のどこがいいのかしら。ただ重くて肩がこるだけじゃない。」
「大きな胸にはロマンが詰まってるんだよ。美沙のような低脂肪乳には分からないロマンがな。」
「低脂肪乳とか言うなんて、ひどい!」
「樹もそう思うだろう?」
「黙秘。僕を低俗な争いに巻き込まないでほしい。」
「そうよ。樹は胸の大小になんてこだわらないのよ。」
「それはないな。美姫さん、百合子さん、珠莉。誰も美沙のような低脂肪乳じゃない。」
「何度も低脂肪乳とか言うな!」
「おはよう。朝礼を始めようか。」
先生が教室に入ってきたので、美姫と美沙も自席に戻っていって助かった。
(それで、樹も胸の大きな子が好きなの?)
(黙秘。)
(そう。この場合、黙秘は肯定と捉えるよ。胸って揉んだら大きくなるって言うけど、本当かな?試してみる?)
(いきなり何を言い出すんださ?)
(ふふふ。冗談よ。それと、焦って口調がおかしくなってるよ。可笑しい。)
◆ ◇ ◆ ◇
「御姉様、会いたかったですの。寂しかったですの。」
「たった1週間会えなかっただけで、大げさね。」
生徒会室に行くと、華恋が美姫に飛びついてきた。
「樹様、お久しぶりです。美姫様との特訓は如何でしたでしょうか?」
「疲れた、かな。珠莉は、諒太さんと華恋との特訓はどうだった?」
「華恋様があんなに真剣に鍛錬に励まれているのを見るのは初めてでした。『次こそは御姉様をお守りできるようになりますの』と言われていたので、黒鍔村での出来事が余程こたえたのだと思います。」
「へぇ、あの華恋がねぇ。」
美姫に引き剥がされまいと、しがみついている華恋を見ながら言った。
「いや、ほんと、大変だったんだぞ。」
「諒太さんも華恋のお守、お疲れ様でした。で、また何かやらかしたんですか?」
「華恋は昔から楯攻撃に拘っていて、防御面はからっきしだったんだ。それが今回は魔導盾を使った防御を重点的に鍛えたい、ということで指導をしたんだが、呑み込みが悪くてな。えらい苦労したんだよ。」
「そっちでしたか。」
「私の呑み込みが悪いのではなく、諒太の教え方が下手糞だったんですの。だって、そうでもないと、元一般人の樹が短期間で急成長したのに、桐生家本家筋の私もそうならない理由が見つかりませんの。」
「樹の師匠は教え方が上手い優秀な魔法使いらしいからな。そんな人と比べられたら、俺は教えるのが下手糞に見えるのも当然だろうよ。」
「そうですの。樹、その師匠とやらを私に紹介しますの!」
「だから、何回も言うけど教えられないんだ、って。」
「むきー、樹のくせに生意気ですの。私だって、樹の師匠に教えてもらえれば、樹なんてすぐに追い越せますの。」
「樹は高校に入ってから、毎日鍛錬してるのよ。華恋ちゃんはしてないでしょ。教えてもらったって、急にうまくなんてならないのよ。」
「御姉様まで、、、」
「俺も最近知ったんだが、樹は用事がない時には毎日鍛錬場を使ってたんだってな。」
「僕は皆よりも魔法の才能に劣るので、努力するしか方法がなかったんですよ。」
「努力を続けられるのも才能の一種だと思うぞ。俺も含めて安きに流されて鍛錬を続けられないからな。」
「僕もそうですよ。鍛錬を続けられているのは、さぼろうとすると叱ってくれる美姫がいるからです。」
「お熱いことで。」
「御姉様に叱ってもらえるなんて、ご褒美をもらえるのと同義ですの。」
「いや、そう思うのは華恋だけだぞ。」
「決めましたの。私はこれから毎日御姉様と鍛錬をしますの。」
「三日坊主にならないといいけどな。」
「そうしたら御姉様に叱ってもらえますの。うっひっひっ。一石二鳥ですの!」
「違うから。妄想するのも、美姫さんの許諾を得てからにした方がいいぞ。」
「御姉様、何卒お許しをお願いしますの。」
「樹、どうする?」
「拒否。」
「そうようね。2人だけの鍛錬だもんね。」
「むきー、2人だけの世界に入っていますの。むかつきますの。」
「華恋様、もう諦められたほうが良いのではないでしょうか?」
「珠莉も樹と一緒に鍛錬したいと思いませんの?そうしたら樹といられる時間が長くなりますの。」
「したいです。」
「だったら一緒にお願いしますの。」
「はい!」
「「何卒お願いします」の。」
「そう言われても、、、」
「諒太も御姉様にお願いしますの。」
「どうして俺が――――」
「命令ですの。」
「仕方ないな。手間を掛けさせて申し訳ないが、華恋たちと鍛錬してやってくれないか?」
「樹、どうしよう?」
それから押し問答をした末、週1回合同鍛錬を行うことで落ち着いた。




