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竜の女王  作者: M.D
2170年冬
25/688

10

 今日は部活紹介の日だ。そのため、登校中の話題も自然と部活に関することになる。


「部活って色々あるんだね。私は中学に通ってなかったから、仲間と苦楽を共にする部活に憧れがあったの。樹君は中学では何をしていたの?」

「中学では水泳部。『緩い感じで仲良く泳ごう』という先輩の言葉に誘われて入ったんだけど、本当に練習は厳しくなくて、楽しかった。ここみたいに温水プールじゃなかったから冬は泳げなくて、基本はランニングと筋トレなんだけど、たまにサッカー部と試合したりしてたし。」

「いいなあ。私も最近は体を動かすのが楽しいから運動部にしようかな。でも、文化部も穏やかな感じが捨てがたいし。」


 美姫さんは楽しそうに情報端末で部活紹介を見ている。


「東大附属中学、高校は全生徒に生徒会か部活動への加入を義務付けているから、基本的に生徒はどこかに所属しないといけないけど、僕たちは特別に部活をしなくてもいいから楽でいい。」

「私たちには補講があるからね。でも、部活をしてはいけないことはないから、どこかに入りたいな。樹君は?」

「僕は別にいいかな。」

「どうして?」

「今は新しい環境に慣れるので精一杯だし、魔法について勉強や鍛錬しないといけないことも多くて部活している余裕がないから、部活しないでよいならそうしようと思って。」



 昼休みに聡と話をしているときにも部活の話題になった。


「樹はどこの部に入るつもりなんだ?」

「僕と美姫さんは補講があるから特別に部活に入っても入らなくてもいいことになっているんだ。僕はどこにも入らないつもりだけど、美姫さんはどこかに入りたいって言っていた。」

「部活に入らなくてもいいなんてずるいな。」

「そうか?」

「授業が終わったらすぐ遊びに行きたいのに部活動を強制されるんだぞ。それを免除されるなんてずるいだろ。」

「聡はどこに入るんだ?」

「俺は本当は帰宅部がいいんだが、そんな部なんてないから手芸部だな。」


「剣術部じゃなくて?」

「家でも剣術の訓練をさせられているのに、何が悲しくて同じことを部活でもしないといけないんだ、ってことだ。」

「じゃ、どうして手芸部なんだ?」

「どこかの部活に入らないといけないから、中学の時も手芸部だったんだよ。『部員確保のために幽霊部員でもいいから入ってほしい』って言われて所属だけしているんだ。実際に1回も行ったことないし。」

「でも、授業が終わってすぐに帰ろうとしているところを見つかったら幽霊部員だってばれてまずいんじゃないの?」

「その時はあれだ。『手芸に使う材料を買いに行きます』とか言うわけだ。手芸にはビーズとか材料が必要だからな。そういう意味でも手芸部員ってのは都合がいいんだよ。」

「そこまで考えてるなんて徹底してるなぁ。」


(何故に手芸に使う材料として”ビーズ”と言ったんだ?実際に手芸していないと思いつきもしないだろう?)


 という疑問は聞かないことにした。


「なんにせよ今日は部活紹介の日だから、たとえ部活に入る気がなくても見て回ったらどうだ?面白い部活が見つかるかもしれないぞ。」

「そうだな。いろいろな部活の内容を知ることができるのは今日だけだから、登校するときに美姫さんと一緒に見て回ろう、っていう話をしていたところだし。」

「美姫さんと仲がいいなんて本当に樹のことが羨ましい。この1週間、男どもが必至で美姫さんの気を引こうとしているのに誰も仲良くなれてないんだから。」

「僕と美姫さんが仲がいいように見られるのは、一緒に補講を受けているからじゃないかな?それに、高校から編入したのは2人だけだし、周りが誰も知らない人達ってのはやっぱり不安だから。」

「今はそうかもしれないが、気を付けておけよ。美姫さんに相手されないって分かった時に、美姫さんへの憧れは樹への嫉妬に変わるから。それに、樹は魔法がまだまだだから、魔法の実技で痛い目にあわされるかもしれない。」

「了解。」



 放課後になって、美姫さんと一緒に部活を見て回ることにした。


「樹君は登校するときに部活をしない理由を言ってたけれど、それって言い訳よね。」

「そんなことないけど。」

「そう?樹君って面倒臭がりなところがあるから、部活なんてしたくない、と考えてるんだと思ったんだけれど、違う?」

「美姫さんにはバレてたか。」

「ふふふ。でも、中学の時みたいに緩い感じの部活だったら大丈夫じゃない?そんな部があったら一緒に入ろうよ。」

「もし、そんな部活があったら。」


「あっ、このウサギかわいいね。」


 美姫さんと話をしながら文科系の部室を回っていると、ちょうど手芸部の部室だったようだ。


「かわいいでしょ。今年高校1年になった部員が中学のときに作ったものなの。」


 手芸部員と思われる生徒が声をかけてきた。


「あなた、龍野さんね。同じ学級に渡辺聡君っているでしょ。彼がそのウサギとか、そこにあるキツネやクマを作ったのよ。」

「聡が?」

「渡辺君を知っているの?」

「はい。僕の後ろの席にいます。」

「あなたも魔法科の1年生?ああ、龍野さんと同じ高校から編入してきたっていう。じゃあ、もっと部活に来てくれるように渡辺君に言っておいてくれない?彼、たまにしか来ないから。」


「ん?聡は『1回も部活に行ったことがない』って言っていましたけど。」

「そんなことないわよ。でも、友達にそう言いたくなる気持ちも分からなくないわ。男なのに手芸部員だ、って言ったらバカにされるかもしれない、って思ったんじゃないかしら。」

「最初に部活が手芸部だって聞いた時は驚きましたけど、バカにはしませんよ。」

「そう。ありがとう。彼がビーズで作る動物はどれもかわいくて、私たちも作り方を教えてもらいたいから『もっと部活にきてほしい』って伝えておいてくれると助かるわ。」

「了解です。」

「よろしく。それじゃあ、ゆっくり見て行ってね。」


「聡君って手芸部だったんだ。運動部だとばかり思ってたよ。」

「僕も今日知ったんだけど、聞いた時は吹だしそうになった。」

「でも聡君が作ったビーズのキツネはかわいいね。」

「今度聡に作ってくれるようにいておくよ。」

「ほんと?ありがとう。」


 美姫さんは嬉しそうに微笑んだ。

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