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【特訓7日目】
今日は”銃剣系”魔法の腕輪と”楯系”魔法の腕輪の両方を使う訓練だ。
パリンッ!パリンッ!パリンッ!
ドン!ドン!ドン!
(僕の魔導盾は砕かれるのに、美姫の魔導盾は砕けない。)
(樹君と美姫さんの実力差が現れているのですな。しかし、思考並列を使えない樹君が美姫さんの魔導弾に魔導盾を合わせられているのは称賛に値しますな。)
(そうですね。私が『しまった。やりすぎた。』と思っても、樹は魔導盾で防いでくれましたし。)
(そんなことがあったんだ。知らなかった。。。)
(た、たまによ。)
(・・・1回だけじゃなかったのか。)
(でも、”銃剣系”魔法の腕輪と”楯系”魔法の腕輪の両方を使うのは難しいね。樹の方が2つの魔法の腕輪の使い分けは上手いんじゃない?)
(そうかな?美姫がそう感じるのだとしたら、グレンさんと魔導弾改良の試行錯誤をするときに2つの魔法の腕輪を使っていたからかもしれない。)
(グレンさんと魔導弾改良の試行錯誤?そう言えば、樹は『魔導弾の改良をしている』と言っていたけれど、あれってどうなったの?それに、『多分夏休みの特訓中には見せられると思う』とも言っていたし。)
(まだ僕だけでは発動させられないから、どうしようかと思っていたんだ。一応見せられるように魔法の腕輪に命令規則を書き込んできてはいるけど、見る?)
(うん。見せて。)
(それじゃ、グレンさん、お願いしても良いですか?)
(任されましたな。)
グレンさんに”楯系”魔法の発動をお願いして、準備に時間をかけた後、空に向かって徹甲魔導弾を撃つ。
バシュッー!
(何、これ、凄い!)
(エネルギーの拡散を防ぐために、魔導弾の前面を魔導盾で覆ったようじゃのう。樹にしては、なかなか考えたではないか。)
(一発で改良された魔導弾の仕組みを見抜くとは流石は俺たちのエレナ様。尊敬致します。先の第9次聖魔大戦においても――――)
いつもながら、エレナ様を褒め称えるためだけに出てくるザグレドにはあきれる。
(どういうこと?)
(”銃剣系”魔法の特性は凝縮だから、魔力圧縮を使ったとしても魔導弾は遠くに行けば行くほど魔導力が拡散してしまって威力が弱くなるんだ。僕は美姫程魔導力の凝縮が上手くできないから、魔導弾の前面を魔導盾で覆うことで魔導力の拡散を防ごうと考えたんだ。)
(銃弾でいうと、魔導盾が弾頭で、魔導弾が火薬の役割をするのね。)
(正解。)
(補足しますと、魔導盾で作る弾頭は円錐型で空気抵抗を減らすことができるため、より遠くまで飛ばすことができるのですな。さらに、魔導弾から拡散した魔導力が前面の魔導盾に反射されることによって後ろに飛ばされるので、弾速も上げられるのですな。)
(すごい発明じゃない!・・・なのに、樹はあまりうれしそうじゃないね。)
(僕が考え付くんだから、とっくの昔にもっと優秀な人が考えていてもおかしくないんじゃないか、って。)
(それもそうね。。。グレンさんはどう思われますか?)
(ワシも樹君に言ったのですが、可能性は2つありますな。1つ目は上級魔法使い以上しか扱えない水準4以上の資料に記載されていて、ワシらには知る余地がなかった、ということですな。)
(結構複雑な魔法ですし、威力も普通の魔導弾と比べると段違いなので、上級魔法使い以上に取り扱いが限定されるのも分からなくはないですね。)
(2つ目は、そもそも徹甲魔導弾は”銃剣系”と”楯系”という2系統の魔法系統の両方に”高い”適正を示していなければ使えないため、適性を持たない魔法使いには考え付くことすらできない、ということですな。そのような魔法使いは稀ですから、今まで誰も発明できなかったのではないかと。ワシはこちらの可能性の方が高いと考えているのですな。)
(徹甲魔導弾って、この改良を加えた魔導弾のことですか?)
(そうですな。樹君と考えてつけた名前ですな。)
(いい名前ですね。それに、”楯系”魔法の歴史が浅いことを鑑みると、私もグレンさんの考えは正しいと思うので、樹はもっと胸を張っていいんじゃないかと思うけれど?)
(徹甲魔導弾は完成には程遠い状態なんだ。)
(そう?どこが問題なの?)
(まずは魔導盾を弾頭の形に形成するのに手間がかかるんだ。それに、魔導弾によって壊されないように強度も上げないといけなし、弾道を安定させるためにジャイロ効果を持たせる内部形状にしないといけないから、魔法の腕輪に送る命令規則数が膨大になる。それが原因で、この魔法だけでほぼ魔法の腕輪の記憶域を使い切って、後は単純な魔法盾を形成するくらいしか記憶域が残らなくなってしまうんだ。)
(樹はまだそれだけの命令規則数を規定時間以内に魔法の腕輪に送れないから、グレンさんが必要なのね。)
(ワシが補助しないといけないのはそれだけでなく、徹甲魔導弾を真っ直ぐ飛ばすためには魔導盾で形成した弾頭の中心を撃ち抜く必要があるので、魔導弾の発動も慎重に行わなければならないからなのですな。)
(かなり扱いが難しい魔法なんですね。)
(それに、この徹甲魔導弾は魔導弾が魔導盾で覆われているから、悪魔には効果が薄いぞ。)
意識の表面に出ていたザグレドが珍しく良い発言をした。
(確かにそうですけど、、、精神エネルギー体の悪魔には物理的な武器は効かないことくらい樹も分かっているから、対策を考えているんじゃない?)
(肯定。いくつか案はあるんだけど、一番簡単なのは、悪魔と衝突した際に魔導盾の弾頭が壊れるようにする方法かな。そうすれば魔導弾の魔導力も悪魔に影響を及ぼせるだろうから。)
(それだと、魔導盾の弾頭が壊れた際に魔導弾が飛び散るようにしておけば、普通の魔導弾よりも殺傷力が上がるんじゃないかな?)
(それ、採用。)
(2人とも悪魔みたいに凶悪で悪辣な考えをするとは末恐ろしい。)
(悪魔のザグレドに言われたくない。)
(全くよね。)
(・・・。)
(美姫の案を採用するとなると命令規則数を更に増やす必要があるけど、魔法の腕輪の記憶域に収められるかな?)
(私にも手伝わせて。命令規則数の削減方法を一緒に考えるよ。)
(了解。美姫を驚かせようとせずに、最初から2人でやればよかったかな。)
(次からはそうしてくれると嬉しい。ちなみに、今の私でもエレナ様の補助を受けたら徹甲魔導弾を撃てるかな?)
(肯定。やってみる?)
(うん。)
互いに魔法の腕輪を交換する。
(エレナ様、お願いします。)
(分かったのじゃ。)
(では、いきます。)
美姫が空に向かって徹甲魔導弾を撃つ。
バシュッー!
(私にもできた。)
(いきなり成功させるなんて、、、考案者の僕だって成功するまで何回も失敗したのに。。。)




