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竜の女王  作者: M.D
2171年夏
242/688

04

 ――夏休み1週間前


「暑は夏いなぁ。地下なんだからもうちょっと涼しくしてもいいのに。」

「地下でも四季を感じられるように気温が調整されているから、夏は暑いの。それに、嫌になるほど不快な暑さじゃないはずよ。」

「地上と違って湿度も高くないし、不快だけど我慢できないほどじゃない気温にしてくるところが憎たらしい。」

「ふふふ。このくらいの気温の方が私は夏らしくて好きだけどね。」


 放課後、美姫と一緒に寮に戻ると、玄関で和香さんが待っていた。


「おかえりなさいませ。」

「何故和香が寮にいるの?」

「美姫様にお伝えしたいことがございましたので、お帰りを待たせて頂きました。」

「『直接伝えられないから和香に伝言を頼んでおいたわ』って亜紀様から電文が来ていた件ね。寮長に断って食堂を使わせてもらいましょう。」


 寮長の許可をもらい、食堂に移動する。


「で、私に伝えたいことって何?」

「軽い話題と重い話題のどちらからが宜しいでしょうか?」

「そうね、、、それじゃ、軽い話題からお願い。」

「承知しました。」


「美姫様の夏休みのご予定としては、前日と初日に桐生家の別荘に生徒会の皆様と行かれ、その後、樹様の実家に2人で行かれると伺いましたが、正しいでしょうか?」

「えぇ、そうよ。」

「では、予定に合わせて準備の方を進めさせて頂きます。」

「えっ!?和香、両方ともついてくるつもり?」

「はい。その予定でおります。桐生家の別荘は東京湾にあるので、海水浴をなされるのでしょう。水着は昨年買われた花柄のものがあるそうですが、新しいものは必要でしょうか?」


「・・・ちょっと待って。どうして私が去年花柄の水着を買ったことまで知ってるの?和香には見せたことないはずよ。」

「龍野家の情報網を使えばそのくらいはたやすいことです。それに、私は美姫様の侍女ですので、美姫様のことは何でも知っておかねばならない、と考えており、情報収集には力を入れております。」

「力の入れどころを間違ってない?それと、どちちらにも和香はついてこなくてもいいし、準備も自分でするから必要ないよ。」

「美姫様も龍野家当主家の養女になられたのですから、侍女の使い方も学んで頂かなければならず、そのために学校がお休みの時には美姫様に付き従うように言われておりますので、そのように言われてしまうと私は困ってしまいます。」

「嘘ね。そんなことは言われていないはずよ。」


(前半は真実なんだろうけど、それを後半の理由付けに使うなんて、和香さんの嘘も手が込んできたな。)

(それに、侍女になった初期は私に嘘をつくのが心苦しい、という感じが表情に現れていたのに、最近私に嘘をつく時の和香の表情の変化が無くなってきたのよ。)


「しかし、私は美姫様のお側で仕えさせて頂きたいと思っていますので、美姫様のお気持ちも分かりますが、どうかどちらか一方だけでもついて行かせて頂けないでしょうか?」


 和香さんが目を潤ませて美姫に懇願する。


「そうね、、、おとなしくしてくれるんだったら、生徒会の旅行ならいいよ。」

「ありがとうございます!」


(生徒会の旅行の方が期間が短いから、という理由で選んだりした?)

(そうだけど、、、はっ、しまった。。。『どちらにもついてこないで。』が正解だったんだ。)

(肯定。)



「それで、重い方の話題は何?」

「美姫様のお父様、圭一様の所在が判明しました。」


 少し声を落として、重要な事柄を和香さんが告げた。


「・・・それは本当?」

「はい。圭一様を捜索していた龍野家の情報収集部隊が所在を突き止めました。」

「ということは、父は生きているのよね?」

「はい。今は元気でいらっしゃるとのことです。」

「良かった。」


 美姫の顔が安堵に変わる。


「父は今どこにいるの?」

「魔法軍の隠れ家です。」

「魔法軍が保護してくれているのなら安心ね。でも、魔法軍の隠れ家にいるのだったら、どうして今まで分からなかったの?最近まで別のところにいたとか?」

「そこまでは分かっておりません。魔法軍から龍野家に報告がありませんでしたので、龍野家当主の名で魔法軍に問い合わせても答えが返ってこず、圭一様の現在の所在も魔法軍上層部のほんの一部の人間にしか知らされていないようです。」

「亜紀様にも答えられないなんて、父は相当厄介な事件に巻き込まれた、ということね。」

「恐らくそうであろうと思われます。現在、圭一様の所在を知った亜紀様が魔法軍司令長官である麻由美様を呼び出されて直接問いただされておりますが、圭一様から『誰にも教えないように』と要請されており、麻由美様にも事件の詳細について話されていない、とのことのようです。」


「『誰にも教えないように』ということは、私にも?」

「はい。」

「理由は?」

「分かりません。しかし、美姫様が事件に巻き込まれないようにするためであろう、と思われます。」

「でしょうね。」


(美姫のお父さんが『誰にも教えないように』と言った、ということは、犯人が誰か知っている、とか?)

(多分そうだと思う。父が犯人を知っていて手出しができないとすると、対象者は限られるはずよ。なのにまだ特定できていない理由が分からないの。やっぱり黒龍会が関与しているのかな?)

(美姫のお父さんが海外でも研究してた事も考えて対象者を海外にも広げると膨大な数になるから、情報不足で何とも言えない。)

(そうね。)

(だとすると、この件はこの前の実習で美姫が狙われた件とは別、と考えてもいいかもしれない。)

(どうなんだろう?和香は知ってるかな?)


「美姫のお父さんが巻き込まれた事件は、前の実習で美姫が狙われたことと関係はあるんでしょうか?」

「それについては我々も関心を持っており、龍野家の情報収集部隊が現在調査中です。詳細が分かりましたらご連絡致しますが、機密度の高さから何も分からない可能性が高いです。」

「了解。何か分かったら教えて下さい。」

「はい。承知致しました。」

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