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竜の女王  作者: M.D
2170年冬
24/688

09

「魔法能力回復者は結構いるんですか?」

「あまりいないわ。魔法使いの遺伝子は劣勢遺伝子だと言われているから、魔法使いの能力は発現しにくいのかもしれないわね。」

「成程。」


「そのことに関して、樹君は魔法能力回復者ではない、と私は考えているの。」

「どうしてですか?」

「先生達から聞いた話を統合すると、調べられる限りにおいては樹君の祖先に魔法使いはいない。つまり、後天的に魔法能力を獲得した、ということね。」


(百合子さんって、結構樹君のことを調べていたのね。)

(でも、先生達に僕のことを聞いて回るなんて、普通しないと思うけど。)

(そうね。その行動力には理由があるのかもしれないよ。)


「僕のことを調べたんですか?」

「えぇ。私は自分の出自から魔法使いと一般人を区別するものについて研究したいと思っているの。でも、今は高校生ということもあって本格的な研究はできないから、魔法使いの家系出身ではない魔法使いについての文献を集めているところなんだけど、その一環として樹君のことを先生達から聞いたりして調べさせてもらったわ。」


(先生達も百合子さんに樹君の話をするなんて、個人情報を何だと思っているのかしら?)

(百合子さんの魅力と話術にのせられて、ついポロッと、って感じなんじゃないかな。)

(私もそれしかないと思うけど、口が軽すぎるよ。)


「でも、樹君みたいに突然魔法使いの能力を獲得した人は私の知る限りではほとんどいないわ。」

「そうですか。」

「だからすごく樹君に興味があるの!」


 !?


 突然立ち上がって、百合子さんが顔を近づけてきた。


「ちょと百合子さん、あまり樹君に近寄らないで下さい!」

「いいじゃない。取って食うわけでもないし。」

「食べないで下さい。。。」


(僕が魔法能力回復者じゃないから、百合子さんの研究対象の特殊例にばっちり当てはまってしまったのか。)

(そうみたい。)


「いい加減、ちゃんと座って下さい。」

「分かったわよ。」


 百合子さんは渋々という感じで椅子に座ったが、


「それで、樹君にはどういう経緯で魔法能力に目覚めて、魔法科に編入することになったのか聞いてみたかったのよ。できるだけ詳しく話してくれると嬉しいわ。」

「そうですね、、、」


 目をキラキラさせながら僕の方を見つめてくる。


(これが樹君を呼び出した本当の目的ね。)

(今の百合子さんを見ると、あながち外れではないかも。)

(でしょ。)

(そうだとすると、経緯を話すまで離してくれなさそうな気がするんだけど、美姫さんはどう思う?)

(そうね、、、百合子さんって凛とした佇まいをしている風を装っているけれど、自分の興味があることについては迷惑を考えない感じがして面倒くさそうだから、エレナ様のことに触れさえしなければ話をしてもいいと思うよ。)

(エレナ様のことを話しても、信じてくれないだろうし。)

(百合子さんだったら、興味津々で聞いて来そうな気がしない?)

(肯定。)


(話をするのは後日ということにして、どういうふうに話をするのがいいか一緒に考えてくれない?)

(もちろん、いいよ。)

(感謝。)


「美姫さんとも相談したいので、後日でよければ。」

「ありがとう!でも、美姫さんと相談しないといけないなんて、樹君が魔法に目覚めた原因に美姫さんが関係しているのかしら?そうだとしたら興味深いわ。」


(今の樹君の発言だけで原因が私にあるって思い至るなんて、百合子さんは勘が良すぎ!)

(同感。こんな風にして先生達から僕の情報を抜き取ったのか。)


「いえ、関係ないと思いますが、魔力検査を受けた時に美姫さんもいたので、話をしていいか相談しておきたかったので。」

「なんだ。でも、樹君が魔法能力回復者じゃないと分かれば、研究機関から有無を言わさず様々な検査を受けさせられることになると思うから、先に私に話しておくのも練習みたいなものだと思ってくれればいいわ。」

「そんな大げさな。」

「樹君は滅多に生まれない後天的な魔法使いなんだから、最悪人体実験をされてもおかしくないわ。それだけ研究対象として貴重なんだから。その辺、自覚しておいたほうがいいわよ。」

「そ、そうなんですか?」

「歴史上、多数の魔法使いが人体実験の犠牲になっているわ。中世の魔女狩りに見られるように、人間は分からないことがあると魔法とか悪魔とかのせいにしたがるし、未知なるものに対する探究心は人を狂わせるし。」


(それであなたは少し狂っているのね。)


 と、怖いことを美姫さんが心の中で呟いたのは聞こえなかったことにした。


「その対象になるのは嫌ですね。」

「大丈夫よ。第一次悪魔大戦以後は魔法使いの地位も向上したから人体実験はほとんどされなくなったし。それに、もしものことがあったら私が匿ってあげるわ。研究対象を守るのも研究者としての務めだから。」

「その必要はありません!私が何とかしますから。」

「そういう事だから、何かあったら私に相談してくれれば協力はするから、いつでも生徒会室にいらっしゃい。」


(『いつでも生徒会室にいらっしゃい』とか言っておきながら、樹君が行かなかったら強制連行されそうな気がする。)

(美姫さん、怖いこと言わないでほしい。)


 こうして僕たちは百合子さんと出会ったのだった。

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