表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の女王  作者: M.D
2171年春
233/688

29

 亜紀様について応接室に入ると、いつものように左衛門さんが紅茶とお菓子を運んできた。


「左衛門さんが入れてくれるお茶はいつも美味しいです。」


 美姫がそう言うと、


「ありがとうございます。」


 左衛門さんは嬉しそうに礼を言った。


「和香はどう?ちゃんとやれてるかしら?前に会った時は教育中だったから顔見せ程度だったでしょ。まだ仕えさせて半日もたってないけど、美姫ちゃんの素直な感想が聞きたいわ。」

「そうですね、、、侍女がいたことがないので判断基準が分かりませんが、優秀なのだとは思います。」

「そう。和香は美姫ちゃんのことを思う気持ちは誰にも負けないようだったから、ちょっと変わってるけれど悪い子じゃないわ。でも、もし問題があるようならすぐに言ってね。左衛門に再教育させるから。」

「はい。」


(亜紀様にとって和香は”ちょっと”変わってる、という認識なのね。)

(美姫に対する思いは伝わってくるけど、半日でアレだから、氷山の一角だとすると裏恐ろしい。)

(そんな怖いこと言わないでよ。)


「それにしても、あんなことが起こると分かっていれば和香を1週間早く美姫ちゃんに仕えさせたのに。和香は龍野家の情報収集部隊にいて実戦経験もあるから、今回の件でも役に立ったはずなのよ。」


(和香さんが身体強化を使えるのは、情報収集部隊で特殊訓練を受けたからなのかもしれないね。)

(同意。)

(龍野家の情報収集部隊は隠密の流れをくむ部隊のようでしたから、殺気なく武器を投擲できるのも納得ですな。)

(そんな人を私の侍女にしようとするでしょうか?)

(身体強化を使える魔法能力喪失者は希少なのにも関わらず侍女にすると決めたことを鑑みると、美姫さんの安全を重要視しているんでしょうな。)


「和香は以前情報収集部隊にいたんですか。それで、動きに隙が無かったんですね。」

「そうなの。美姫ちゃんもよく気が付いたわね。でも、まさか、実習の護衛についた小隊がいなくなって魔獣に襲われるなんてね。美姫ちゃんも樹君も無事で本当に良かったわ。」

「亜紀様にはご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」

「ううん、謝らなければならないのは私の方よ。」

「どういうことですか?」

「美姫ちゃんは巻き込まれたんじゃなくて、狙われていたのよ。」

「そうだったのですか。。。」

「驚いていないところを見ると、美姫ちゃんはそのことに気付いていたのかしら?」

「はい。麗華さんだけを襲うのであれば狼魔獣を出してくる必要はありませんので、何となくですがそうではないかと思っていました。」

「そうだったの。六条家の協力者からの情報提供を受けて、龍野家の情報収集部隊が寝ずの番で調べた結果、今回の件を仕組んだ者たちの中に、”銃剣系”魔法使いがいることが分かったの。麗華さんを襲う計画の中に巧妙に入り込んだのね。この計画を感知できず阻止できなかったことは、私の不徳の致すところよ。美姫ちゃんを危険な目に合わせてしまって、申し訳なかったと思うわ。」


「美姫が狙われる理由は、亜紀様の養女になることを決めたからでしょうか?」

「それしか理由はないわね。美姫ちゃんが私の娘になって龍野家当主候補の資格を得ることで不利益を被る者は多いから。」

「犯人の目星はついているのでしょうか?」

「まだ分からないの。でも、糸口をつかむところまではできたから、今度こそ犯人まで辿り着いてみせるわ。」


(今度こそ、って、亜紀様のお子さんが誘拐された犯人を捕まえられなかったことを悔やんでおられるのね。)

(そうだと思う。)



「それと、美姫ちゃんに渡したいものがある、って言ったでしょ。これよ。」


 亜紀様が美姫の前に綺麗な箱をおいた。


「開けてみて。」

「はい。」


 美姫が箱を開けると、銀色の時計が入っていた。


「時計、ですか?」

「そうよ。つけてみて。」

「はい。」


 美姫は箱から時計を取り出して、身に着けた。


(ん?微かに魔力が吸われているような気がする。)

(ということは、まさか、、、)


「亜紀様、これは、、、」

「そう。美姫ちゃんも気が付いたように、それは時計に偽装した魔法の腕輪よ。私が昔使っていた物を再生したんだけど、使って頂戴。」

「でも、魔法の腕輪は持ち出しを厳しく管理されているはずではなかったでしょうか?」

「だから、許可を得たことを示す刻印が入っているでしょ。それも私がお母様から譲り受けたもので、龍野家でも数個しかない貴重なものだから、失くしたりしないでね。」


 時計の裏側に刻印が入っていた。


「このような物を私が頂いてもよいのでしょうか?」

「もちろんよ。今回は実習で魔法の腕輪を持ち出せていたから魔獣に襲われても対処できたと思うのだけど、日常生活の中で敵の魔法使いに襲われでもしたら、身体強化だけではどうしようもないわ。だから、これを美姫ちゃんに持っていてもらいたいの。」


(美姫、受け取っておくとよいのじゃ。魔法の腕輪がなくともワレは美姫を守ることはできるが、あった方が効率が良いからのう。)

(それに、魔法を使った時の言い訳ができますからな。)

(そうですね。)


「ありがとうございます。亜紀様のお心遣いに感謝して、使わせて頂きます。」

「良かった。これで私も少し安心できるわ。それに、これは美姫ちゃんが龍野家に利益をもたらしてくれたお礼でもあるの。」

「私は何もしてませんが、、、」

「美姫ちゃんと樹君が鬼退治をしたでしょ。その鬼を封印していた結晶が魔石を含んでいることが分かったのよ。だから、その辺りの土地から魔石が発見され場合の権益について桐生家と話し合いをもった時に、鬼退治をしたの美姫ちゃんと樹君だということ強調することで、先に目をつけたのは桐生家だと言い張るのを退けて、龍野家が権益の7割をおさえることに成功したのよ。」

「亜紀様のお役に立てて良かったです。」

「美姫ちゃんと樹君のおかげよ。美姫ちゃんが才能を見出した樹君を手放さないでおいて正解だったわ。樹君へのお礼としては、私が当主である間は龍野家で面倒見させてもらうことでいいかしら?」

「はい、ありがとうございます。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ