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竜の女王  作者: M.D
2171年春
225/688

21

「それで、この黒い狼魔獣は俺たちの仲間になった、ということか?」

「肯定。美姫の言うことしか聞かないですが。」

「魔獣が仲間になるなんて、まるでゲームの世界のようだ。」

「『なんと黒い狼魔獣が起き上がり仲間になりたそうにこちらを見ている!仲間にしてあげますか?』という感じですか?」

「そう、それだよ。」


「そこの2人!そんな無駄話をしてないで、これからどうするのか考えたらどうなの?」


 麗華さんが僕と諒太さんの会話に割り込んできた。


「まだ追手がいるかもしれないから、早急に東京シールド外縁を目指すつもりだ。」

「東京シールド外縁に辿り着けたとして、どうやって中に入るの?検問所の兵士が敵じゃない保証なんてないわよ。」

「東京シールド外縁に近づいた時点で好美が持っている緊急連絡装置を使えばいいんじゃないか?」

「そうよ、好美、何故今まで緊急連絡装置を使わなかったのよ!?」

「それは、、、」

「好美の判断は正しい。身体強化をした高速移動中に緊急連絡装置を使うと、救援にくる部隊が俺たちのいる正確な位置を特定し難くなるはずだ。」


「・・・そうだったわね。こんなことになるのだったら、情報端末を学校に置いてくるんじゃなかったわ。」

「麗華さんにしては珍しく学校の方針に従ったんだな。」

「この実習を受けて単位を取らないと卒業できないから仕方なしによ。最近は龍野家当主が絡んでくるから不正を揉み消すのが難しくなって、ほんと困ってるの。」

「麗華さんが大人しくなったのは美姫さんのおかげ、ということか。いいことだ。」

「うるわいわよ。私にとっては死活問題なの。そんな事ことより、早く行きましょう。」

「分かった。準備をしてすぐに出発しよう。」


 準備を始めようとすると、麗華さんが美姫のそばに寄ってきた。


「黒い狼魔獣はどうするの?本当に、美姫の言うことを聞くの?信じられないんだけど。」

「狼魔獣ですから、私の方が上だと認識させれば素直に従ってくるようになりました。それと、これからのことは戻った後で龍野家と相談して決めたいのですが、黒い狼魔獣はここで討伐したことにしてもらえませんか?」

「どうして?」

「私たちが襲われたと聞けば、六条家や龍野家の方々は黒い狼魔獣を放ってはおかないでしょう。討伐隊が組織されて駆除されてしまいます。私は黒い狼魔獣を保護したいと考えているので、そうなってほしくないのです。」

「また襲われるようなことにはならないでしょうね?」

「大丈夫です。麗華さんには迷惑を掛けないよう私が責任を持って言い聞かせますので、黒い狼魔獣を討伐したことにしてもらえませんか?」

「・・・分かったわ。今回は美姫に助けられたし、好きにしなさい。」

「ありがとうございます。」


「それじゃ、出発する。」


 再び東京シールドに向かって走り出した。



「征爾さん、お話があります。」

「何でしょうか?」


 美姫が諒太さんの隣に移動して、背負われている征爾さんに話しかけた。


「征爾さんは魔法能力喪失者なのですよね?」

「はい、そうです。」

「確率は低いですが魔法能力を回復する方法がある、と言ったらどうしますか?」

「えっ!?そのような方法があるのですか?」

「はい。父の研究資料の中に記載があったことを思い出しました。」


(あれ?そんな方法が美姫のお父さんの研究資料にあったっけ?)

(ないよ。)

(・・・エレナ様が征爾さんの固有設定値を修正するための方便、ということ?)

(そういうこと。)


「父の研究資料には、悪魔入りの魔獣が放った魔導力によって瀕死の重傷を負った魔法能力喪失者が魔法能力を回復した例がある、という記述がありました。」

「それは本当ですか?」

「はい。研究資料自体は焼失してしまったので残っていませんが、確かそのように書いてあったと記憶しています。しかし、そういう記述があったというだけで、どのような魔導力を受けてどの程度の重傷を負ったのか、までは記載されていなかったので、実行したところで魔法能力が回復する確率はかなり低いと思いますが、可能性はあると思います。」

「美姫さん、教えて頂きありがとうございます。」


「瀕死の征爾さんを病院に連れて行くまでの時間を短くしたいので、実行するとしても東京シールド外縁に着いた後になりますから、それまでに考えておいて頂けませんか?」

「考えるまでもなく、確率が低くとも万が一に掛けてみたいと思います。悪魔入りの魔獣に出会うことなど滅多にないだろうし、この機会を逃したくないのです。」

「本当にいいんですか?」

「はい。」

「分かりました。では、どのような魔導力を受けますか?」

「そうですね、、、それは美姫さんに一任しても良いでしょうか?研究資料を見たことがない私よりも美姫さんが選んだ方が成功する確率が高くなるような気がしますので。」

「征爾さんがそうおっしゃるなら、私の方で決めさせて頂きます。」

「よろしくお願いします。」


 決意をした征爾さんに諒太さんが話しかけた。


「麗華さんは絶対に反対すると思うぞ。」

「諒太さんの言うとおり、お嬢様は反対されるでしょうね。しかし、これは私自身の問題です。お嬢様には納得してもらうつもりです。」

「征爾から強い意志を感じるのは初めてだな。いつもは麗華さんの言いなりになっていて、機械のような感じがしていたから。」

「六条家や一条家では魔法能力喪失者は主人の命令に従うよう、厳しく教育されますし、出来なければ廃棄されます。」

「魔法能力喪失者に自由がないのは同じだけれど、桐生家や桐谷家はそこまでしない。もっと緩い感じなのは、比較的新しい家系だからかな。」


「お嬢様の説得は私が行いますが、諒太さんには援護射撃をお願いしても良いでしょうか?」

「できるだけ協力はするが、瀕死の重傷を負う必要があるのだろう?もしもの場合は美姫さんが恨まれるんじゃないか?」

「実行する前に、美姫さんを責めないよう、お嬢様に言っておきます。でも、不思議と失敗する未来が想像できないんです。」

「その気持ちは分かる。美姫さんなら分の悪い賭けであっても成功させてしまう、という漠然とした期待感があるよな。」


(私って、そんな風に思われてたんだ。)

(別に悪く思われてないんだから、いいんじゃない?)

(過分な期待は重いのよ。)

(確かに。)

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