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「はぁはぁ。」
暗闇の中を全力で走ったせいか、気づくと周りには誰もいなかった。
(はぐれてしまいましたな。)
(でも、美姫とは連絡を取り合っていたので、無事なのを確認できているのが救いです。それに、通信機がありますので、先輩方とはすぐに合流できると思います。)
(他の通信機の場所が分かるようになっているとは、最近の通信機は凄いですな。四方で音色が異なるんでしたかな?)
(肯定。それと、距離に応じて音が鳴る間隔が変わりますので、周波数で通信機を特定すれば音だけで相手の場所が分かるようになってます。)
(ワシらの時代とは全然違いますな。)
そんな話をしていると、通信機に連絡が入った。
「ザーーーッ、皆、無事か?」
「はい。」
「えぇ、・・・無事よ。」
「こっちも何とか。」
「よし、全員無事で良かった。俺の場所は分かるか?通信機の機能を使って、俺のところに集合してくれ。」
「何故、諒太のところに集まらなければならないの?私のところに来なさいよ。」
「今はそんなことを言っている場合じゃないだろう?と言いたいところだが、議論をしている時間も惜しい。皆、麗華さんのところに集合だ。」
「はい。」
「分かった。」
「了解。」
通信機の音を頼りに、麗華さんのところへ向かう。
(しかし、ザグレドがあそこまで無能とは思わんかったのう。)
(申し開きのしようもございません。)
(でも、あの悪魔は人間に捕らえられて魔獣と融合させられたことだけは分かりましたよ。)
(美姫、ザグレドに助け舟はいらないと思う。)
(美姫さんは優しいなぁ。普通は精神エネルギーの少ない獣なんかと融合しようと魔族だったら思わないでしょうから、人間に捕らえられて無理矢理融合させられたのでしょう。そう考えると、あいつも可哀そうな奴なのかもしれません。)
(そうですね。あっ、そういえば、悪魔の名前を聞いてませんでした。)
(そうじゃなのう。ザグレドは抜けておるのう。)
(申し訳ございません。しかし――――)
!!
突然、グレンさんが展開していた領域型魔力探知に反応があり、
ガリッ!
ギリギリで魔導盾を発動させて襲撃を回避できた。
(樹、どうしたの?)
(突然魔獣が襲い掛かってきた。)
(えっ!?大丈夫?)
(肯定。間一髪だったけど、グレンさんが領域型魔力探知を展開していてくれたおかげで助かった。)
(良かった。すぐそっちに向かうから持ちこたえて。)
(いえ、美姫さんは先に集合された方がよいでしょうな。2人とも遅れていくと怪しまれるやもしれませんので。)
(分かりました。グレンさん、樹のこと、よろしくお願いします。)
(任されました。)
グルルルルゥ
目の前にいるのは、黒い狼魔獣より小さい、通常の大きさの狼の魔獣だ。
(もう少しだったのだが。まぁ、これくらいでやられてもらっては、こちらも遊びがいがないというものだ。)
(さっきの魔獣?小さくなってる?どうしてここが分かった?)
(混乱しているようだが、我輩は精神エネルギーの残滓を追跡することができるのだ。だから逃げても無駄だぞ。お前の精神エネルギーはもう覚えたからな。)
(そんな能力を持ってたのか。)
(ん?精神エネルギーの波動が違うと思ったら、お前、人間か?)
(はっ、しまった。)
(先程の魔族はどうした?もしや、お前が主人格なのか?)
(半分正解。)
(半分とはどういうことかは分からんが、我輩のことを散々馬鹿にしておいて、主人格を人間に取られているとは、奴の方が情けないではないか。)
(何だと!)
(ザグレド!出てくるな!)
(お前、ザグレドというのか。知らん名だな。)
(そういう貴様の名前は何だ?)
(せっかくだから、教えてやろう。我輩はバイロ―。バイロ―・エン・エイ・メイトルグロだ。)
(第2王領の出か。だから、犬と融合したのか?)
(狼だと言っているだろ!今の我輩とセト様は関係ない!我々の王であるセト様を愚弄した罪は、死をもって償わせてやる!)
(また、ザグレドが怒らせた、、、)
グアアァァ!!
襲い掛かってくる魔獣を、グレンさんの補助を受けた魔導盾を使って受け流す。
(この感じは、、、)
(樹君、何か気が付いたようですな。)
(肯定。あの魔獣は仮初の魂の器ではないかと。)
(そのとおりですな。)
またしても襲い掛かってくる魔獣を、躱す。
(こいつの正体に気が付いたようだな。人間にしては聡い。)
(それは、どうも。)
(どうしてこんなことをするのか?という顔をしているな。我輩が直接出向いても良かったのだが、そうすると勝負にならんからな。こいつで遊んでやろうと考えたのだ。)
(それで、普通の狼と同じ大きさ、という訳か。)
(そうだ。)
グルルルルゥ
(樹君、次はワシに任せて下さい。良い考えがあるのですな。)
(了解。)
グアアァァ!!
大口を開けて飛び込んできた魔獣の口めがけて、先端を尖らせて槍状になった魔導盾が叩きつけられると、
キャンッ!
狼の魔獣は魔導盾で太い木の幹に張り付けられていた。
(おぉ!魔導盾にこんな使い方があるなんて。)
(魔導盾に物理特性と魔法特性があるお陰ですな。)
(成程。)
(樹君、今のうちですな。魔導盾には魔導力を残しておきましたので、すぐには消えないのですな。)
(了解。)
僕は急いでその場を離れ、麗華さんのところへ向かった。




