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「大変です!第四小隊の人たちがいなくなってしまっています!」
「何だって!?」
待機小屋に駆けこんだ僕の言葉を聞いて、すぐに諒太さんが外を確認しに行った。
「樹の言うとおり、外には誰もいないみたいだ。」
「でも、どうして、、、」
「俺にも分からん。慎太郎、辺りを探しに行くぞ。」
「お、おう。」
「待って下さい。」
第四小隊を探しに行こうとする諒太さんと慎太郎さんを美姫が呼び止める。
「美姫さん、どうした?」
「諒太さんは魔力探知を行えますか?」
「あぁ、受動型魔力探知なら使えるが。」
「使ってみて下さい。」
「ん?どうしてだ?」
「使ってみて頂ければ分かります。」
「分かった。美姫さんの言うことだから、何かあるんだろう。」
魔力探知を行った諒太さんの顔が驚愕したものに変わった。
「何だ、この大きな魔力は!」
「おそらく魔獣だと思います。自分の魔力を隠さず誇示していることから、私たちには負けない、という自信があるのかもしれません。」
「第四小隊の兵士はこの魔獣に気が付いて討伐に向かったのか?」
「そこまでは分かりません。ですが、一刻も早くここを離れたほうが良いと思います。」
「それより、、、いや、美姫さんの言う方が正しいかもしれないな。麗華さんたちにも状況を知らせて、ここを出よう。」
諒太さんは扉を開けて、麗華さんたちに声を掛けた。
「強大な魔力を持った魔獣が出た!しかも、第四小隊がいなくなっている。」
「はぁ?諒太、何馬鹿なこと言っているの。そんなことあるわけないじゃない。私を驚かそうとしたんだろうけど、そうはいかないわよ。」
征爾さんに膝枕をされた麗華さんがのんびり答えた。
「そんなこと流暢なことを言っている場合じゃない!魔力探知を使ってみろ!」
「うるさいわね。分かったわよ。好美、魔力探知を使ってみなさい。」
「はい。」
「えっ!?」
魔力探知を使った好美さんが驚いた声を出す。
「好美、諒太の言っていることは本当なの?」
「はい。かなり大きな魔力を感じます。」
「だから、そう言っているだろう?ここを出るから早く支度しろ!」
「ここにいたほうが安全よ。魔獣ごときで壊されるようなやわな作りはしてないわ。好美、緊急連絡装置を使って救援を呼びなさい。」
「麗華様、私は諒太君の意見に賛成です。この魔力の大きさは、魔獣が近くにいて相対的に大きな魔力として感じられたのだとしても、驚異的な魔力を持っていると思われます。この小屋が破壊されないとは言えないので、ここで救援を待つのは良くないかと。」
「好美、あなたまで、、、まさか、第四小隊がいなくなっている、というのも、、、」
「こんな時に嘘を言う必要なんてないだろ。」
「征爾、私どうしたら、、、」
「私も諒太さんの意見に賛成です。第四小隊がいないのであれば、ここを出たほうが賢明だと思います。」
「そう、、、」
「ここに居たいんだったら、そうしろ。俺たちは3分後にここを発つ。」
「分かったわよ。好美、征爾、支度するわよ。」
「「はい。」」
テントに戻って最低限必要な荷物をまとめようとした時、慎太郎さんが声を掛けてきた。
「こんな状況なのに樹君や美姫さんは落ち着いているね。」
「そうですか?務めて冷静でいようとはしていますけど、内心はビクビクですよ。」
(エレナ様とグレンさんがいるから落ち着いていられる、なんて言えないしね。)
(同意。それに、悪魔入りの魔獣だったら、エレナ様の存在に気が付いて日光でザグレドと会った時のように穏便に済むかもしれないし。)
「冷静でいようとしているだけでも凄いと思うよ。私なんて、こうして誰かに話しかけてないと緊張と焦りで押しつぶされそうだから。」
「おいっ!喋ってないで早く準備しろ!」
「それに、あんなにピリピリしている諒太を見るのは初めてだ。」
慎太郎さんがボソッと言った。
(諒太さんも僕たち全員を助けようと必死なんだろう。)
(麗華さんがあの調子だから、諒太さんがリーダー役を引き受けざるを得ないものね。)
(美姫と僕で、諒太さんの負担を軽減できるよう補助するしかないか。)
(そうね。)
一旦、待機小屋から少し離れた場所に集合する。
「じゃぁ、行くぞ。」
「行くって、どこによ?」
「東京シールド外縁を目指して元来た道を身体強化をして駆け抜ける。」
「身体強化できない征爾はどうするのよ?」
「俺が背負って行く。」
「いえ、私は足手纏いにはなりたくないので置いて行って下さい。」
「征爾を置いていくなんて嫌よ!」
「そうだ。俺たちは全員で生きて帰るんだ。拒否するのなら気絶させてでも運ぶからな。」
「すみません。ありがとうございます。」
その時、
ズドォォォンッ!!
すさまじい音がしたので何事かと振り返ると、待機小屋が壊され燃えているのが見えた。
「ひぃっ!」
「あ、あれが!」
炎に照らされて姿を現した魔獣は、僕の背丈よりも大きい黒い狼だった。
 




