08
それから程なくして、恭介少尉たちが戻ってきた。
「魔獣の駆除、完了致しました。ミミズの小型魔獣でありました。」
報告をする恭介少尉は無事に魔獣を駆除できて安心した表情だった。
「そう。ご苦労様。」
「先遣隊が魔獣を発見できず、麗華様にご不安、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
「あなたが謝罪する必要はないわ。そんな事より、早く出発しましょう。」
「承知しました。」
魔獣が発見される前と同じ隊列になり出発したのだが、魔獣が発見されたからか、それまで雑談に興じていた雰囲気は欠片も残っておらず、皆、押し黙って歩いている。
(ミミズの魔獣か。どんな姿なのか見たい気もするけど、見たくない気もする。)
(想像するだけで気持ち悪くなるから、そんなこと言わないで。)
(ごめん。でも、今回の魔獣は宇都宮研から連れて来られたのかな?)
(そうだと思うよ。だって、麗華さんが余裕だったことから、あの地点で魔獣が発見されるように仕組まれていたとしか考えられないもの。それ以外に思い当たることでもあるの?)
(宇都宮研から逃げ出したとか。)
(それって、、、待機小屋は宇都宮研から逃げ出した魔獣を監視するためにあるのよね?)
(たぶん。東京シールド方面に向かう魔獣を見つけて捕縛、もしくは討伐を行うための詰め所なんじゃないかな。美姫はここら辺に宇都宮研から逃げ出した魔獣がいると思ってたりする?)
(いてもおかしくないと思うよ。)
魔獣との遭遇戦があったため、予定よりも遅れて本日の目的地である魔獣監視用の待機小屋に到着した。
「早速だが、学生諸君は野営の準備をして下さい。」
「「はい。」」
「第四小隊は野営準備に2名、警備に1名を残して、周囲の警邏を行う。」
「「承知しました。」」
「では、行くぞ。」
恭介少尉の指示に従い、残った兵士に交じって荷物からテントを取り出して組み立てていると、
「ご苦労なことね。」
と、僕たちのことを鼻で笑って、麗華さんたちは待機小屋の中に入っていった。
「美姫さん、麗華さんの態度は毎度のことだから、気にしない方がいい。」
「お気遣いありがとうございます。諒太さんも麗華さんと同じ班で大変ですね。」
「俺以外の誰かだったらイジメられるだろうから、これも外家筋の人間の役割、っとでも思わないとやってられないけどな。」
「ふぅ、やっと組み立て終わった。樹君は1人で広々使えて羨ましいな。」
「2人用のテントで美姫と一緒だと、いろいろ不味いでしょう。僕は諒太さんや慎太郎さんと一緒で良かったのですが。」
「いや、夜間の歩哨を経験する、と言っても僕と諒太のどちらかがずっといない、という訳じゃないから、流石に3人で使うには狭すぎる。」
テントを組み立て終わって寛いでいると、恭介少尉たちが帰ってきた。
「次は、学生諸君で見回りを行ってもらう。樹君と美姫さんは2年生だが、今回は夜中でもないから一緒に参加してくれ。」
「了解です。」
野営のために残っていた兵士の1人とともに警戒しながら歩く。
「麗華さんたちは見回り免除なんですか?」
「そうだ。今頃は風呂で汗を流してるんだろうよ。」
「待機小屋には風呂まであるんですか?」
「あぁ。去年の実習に参加するにあたって改装させたらしい。外はあんなんだが、内はワンルームマンションみたいな感じだぞ。」
「たった2回だけしか使わないのに改装するなんて、無駄遣いしすぎです。」
「麗華さんに言わせると公共事業なんだと。風呂を作った分、窮屈になってしまったが、待機小屋を普段使っている兵士たちからは好評らしい。」
「確かにそうだとは思いますが、、、」
「あれでも帝王学を学んでるから、どうすればうまく統治できるのかは分かっているんだよ。我儘で周りに迷惑をかけることが無くなれば、立派な六条家当主になれると思うんだが。」
「諒太さんは麗華さんのことを評価してるんですね。」
「もう5年も一緒にいて、悪い面ばかりじゃなく、良い面も数多く見てるからな。」
そんな話をしながら歩いていると、
カサッ
それ程遠くない場所の草が揺れた。
「全員警戒態勢!学生は後ろに下がって下さい。」
「魔獣ですか?」
「はい。その可能性が高いと思われます。」
一緒にいた兵士が静かに僕たちの前に出る。
(魔獣がいると思う?)
(不明。でも、いるような気がする。美姫は?)
(私もいると思う。)
(2人とも正解ですな。魔獣は魔力隠蔽をして隠れているようですが、この程度であればザグレドの能力であれば探知できますな。)
(やはりそうですか。危険はないのでしょうか?)
(魔力隠蔽をして隠れているくらいですから、ワシらが気付かないふりをして手出しをしなければ襲ってくることはないでしょうな。)
(であれば、安心ですね。)
と思ったのだが、
ピンッ!
能動型魔力探知が行われ、
「しまった!焦って探知機のボタンを押してしまった。」
一緒に警邏に来ていた兵士がわざとらしく言ったのだった。
(これで、ワシらが魔獣に気が付いていることを魔獣に知られてしまいましたな。)
(大丈夫でしょうか?)
(そうではなさそうですな。)
グレンさんの指摘とおり、
ガサッ!
草むらから僕たちめがけて兎の魔獣が飛びだしてきた。




