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竜の女王  作者: M.D
2171年春
211/688

07

「全員警戒態勢!前方に魔獣の魔力を検知した!」


 もうそろそろ魔獣監視用の待機小屋に到着という頃になって、突然、恭介少尉が叫んだ。


「麗華様をお守りして!」

「承知しました。」


 好美さんの声に呼応して、先頭を歩いていた恭介少尉以外の2人兵士と征爾さんが麗華さんの周りを固める。


「あら、魔獣が出たの。大変ね。」


 緊迫した状況に対して、麗華さんは怯えた様子を見せていない。


(あの様子を見ると、麗華さんはここでこうなることを知っていたようだ。)

(好美さんや征爾さんの焦りようから見ると、2人には知らせてなかったみたいね。)


(それに、恭介少尉は知らなかったようですが、小隊の他の兵士たちは知っていたようですな。)

(そうなのですか?)

(はい。緊張した雰囲気を出していますが、覇気がありませんからな。さらに、美姫さんを守ろうとしないところも怪しいですな。)


 後方にいた小隊の兵士は、美姫を守るのではなく、恭介少尉と魔獣討伐に行こうとしていた。


(確かに、グレンさんの言うとおりだと思います。)

(だとすると、私を脅かして怖がるところを見たかった、ということでしょうか?)

(そうでしょうな。)


(何か企んでいるとは思ったけれど、魔獣を潜ませておくなんてやりすぎじゃないか?)

(それでもって、自分は安全なところから高みの見物、というわけね。『先遣隊が事前に索敵を行っていますので、心配はいりません。』という恭介少尉の発言で私たちを安心させておいて、魔獣騒ぎを起こすなんて、意地悪すぎ。)

(同感。)


「樹は俺と一緒に美姫さんと慎太郎を守るぞ。俺は常時魔導盾を展開しておくから、樹は不測の事態に備えて準備をしておけ。」

「了解。」


 諒太さんが僕たちの前方を覆うように大きな魔導盾を発動させる。


「あら、諒太は私を守ってくれないのかしら?」

「3人もの兵士に守られているのに何言ってるんだ。美姫さんと慎太郎は防衛手段がいないんだから、俺と樹が守るしかないだろ。」

「でも、私の方に”楯系”魔法使いはいないわよ。」

「その3人は対魔獣専用装備を持った兵士なんだろう?”楯系”魔法使いの学生よりも、防御力は上だと思うが。」

「ちゃんと戦力の把握が出いているところは偉いわね。でも、私たちに勝てるくらい強いんだから、美姫に楯役は必要ないと思うわよ。」


 麗華さんは怯えた様子を見せない美姫を苦々し気な目で見ている。


(やっぱり、私が怖がるところを見て馬鹿にしたかったのね。)

(懲りないやつじゃ。少し脅かしてやるかのう。美姫、ちょっと相談じゃ。)

(はい。)

(何するんですか?)

(樹には内緒じゃ。)



 しばらくすると麗華さんの後ろでカサッという音がして、皆が音がした方に注意を向けた時、


 バンッ!


「ひぃっ!」


 美姫の放った魔導弾が麗華さんを掠めて後方に飛んでいく。


「美姫、何するのよ!危ないじゃない!」

「すみません。音が鳴ったので魔獣が出たと思い、麗華さんを守るために魔導弾を撃ちました。」

「私の後ろに魔獣がいるはずなんてないでしょ!」

「どうしてそう思われるのですか?」

「・・・。」

「恭介少尉殿たちが魔獣を探しに行った方向と反対ですから、麗華様はそう思われたのでしょう。」


 代わりに征爾さんが答えた。


「そ、そうよ。」

「魔獣が素早くて後ろに回り込んだ可能性もありました。それに、魔獣が複数いるかもしれません。」

「ぐぬぬぬ、、、」


 麗華さんが悔しそうな顔をする。


「それでも、麗華様に向かって魔導弾を撃つなんて、言語道断です。」

「美姫さんの位置から狙おうとしたら、あの軌道になるのは仕方ないんじゃないか?」

「一歩横に移動してから魔導弾を放てば、麗華様を掠めるようなことはなかったはずです。」

「あの瞬間に行動できたのは美姫さんだけだったし、実際に魔獣がいたとすれば一瞬の遅れが致命傷になっていたかもしれないから、美姫さんの判断は的確だったと思うぞ。」


 好美さんの抗議に、諒太さんが冷静に反論した。


(あの反論には一部誤りがありますな。)

(どこですか?)

(ここに残った兵士たちは行動できなかったのではなく、しなかったのですな。)

(どういうことですか?)

(魔獣がいないことは分かっていたようですし、美姫さんが放った魔導弾の軌道を一瞬で読み取り、当たらないと判断して守るそぶりを見せませんでしたからな。)

(凄いですね。)

(普通の兵士ではないのかもしれませんな。)


「・・・分かったわ。以後、気を着けなさい。」

「はい。次も手元が狂わないように慎重に行動します。」

「美姫、あなた、、、」


 ニコッっと微笑んだ美姫に麗華さんは恐怖の表情を浮かべた。


(精霊を使って、木の葉を揺らしたんですね。)

(樹にしてはよく分かったのう。)

(あの状況からは、それしか方法は思い浮かびませんよ。)

(これでちょっとは奴も警戒するじゃろう。)

(魔獣じゃなくて美姫を、ですけどね。)

(ふふふ。演習には緊張感が必要よ。)

(同感。戦場での将校の死因は後ろから撃たれたものも多い、とか聞くし、美姫の脅しは効果的だったんじゃないかな?)

(そうじゃろう。ワレもその手助けができて気分がいいのう。)

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