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竜の女王  作者: M.D
2171年春
210/688

06

 また少しだけ歩くと漸く昼休憩になり、いそいそと荷物から携帯食料を取り出す。


「お昼はパンと豆のスープか。」

「携帯食料なんだから、こんなものじゃない?こう見えて栄養は満点だし、少量でも満腹感を得られるようになっているんだって。」


 味はまぁまぁいける、と思いながら携帯食料を食べ始めた時、


「樹たちはいいよな。俺たちなんてこれだぞ。」


 諒太さんが見せてきたのは固形の食べ物だった。


「これは完全栄養食で、これと水だけでも生きていけるらしいが、余りにも味気なくて食事をした気になれないんだよな。」

「そうだね。私も『3年生は一般兵士用の携帯食料』ということで期待していなかったが、食事というより栄養補給という言葉の方がしっくりくる。味はいいのだが。」


 慎太郎さんも溜息交じりだ。


「でも、食べられないよりましでは――――」


 そう言いかけたところで、美味そうな香りが漂ってきた。


「麗華さんたちはまたか、、、」


 香りが漂ってきた麗華さんの方を見ると、


「征爾の作る料理は何時食べても美味しいわね。」

「ありがとうございます。簡易的な料理しかできませんでしたが、御嬢様のお口に合って良かったです。」


 簡易とはいえ、椅子に座ってテーブルの上に置かれた食事を征爾さんと好美さんに給仕させながら優雅に食べていた。


「えーっと、、、今って実習中だった、よね?」

「美姫が目の前の事実を疑いたくなる気持ちも分かるけれど、これは現実だ。」


 第四小隊の隊員も麗華さんの様子を呆れたように眺めている。


(余りにも衝撃的すぎて怒る気もおきないよ。)

(同感。麗華さんは自分さえ良ければそれでいい、と思っているんだろうけど、これは酷すぎる。)

(嘆かわしいことですが、あのような御三家当主家の人間の振る舞いを下の者がどう思うか考えていないのでしょうな。)



 昼休憩が終わると、日光に至る高架道路を左手に見ながらさらに進む。


「ビルとかの残骸はあるけれど、完全に自然に飲み込まれてしまっているみたいだ。」

「ここまで自然に浸食されていると、高架道路の人工性が目立つね。」

「修学旅行ではあの高架道路を通って日光まで行ったけど、桐生家ゆかりの地というだけで高架道路を維持しているというのも妙な話だと、美姫も思わない?」

「えぇ、管理に結構なお金がかかるものね。」


「美姫はあの高架道路が何のためにあるか知らなかったの?」


 突然、麗華さんが会話に割り込んできた。


「麗華さんはご存じなのですか?」

「もちろんよ。旧宇都宮の地下に魔獣の研究施設、通称、宇都宮研があって、そこに必要物資を運び込むための道路なの。」

「どうしてそんなところに?」

「美姫はおバカさんなの?そんなの、東京シールドの近くに作ったら危険だからじゃない。」

「知りませんでした。」

「龍野家分家筋の出なのに知らなかったなんて、もうすぐ名落ちするような者に教えるようなことではないと判断されたのね。哀れね。」


 麗華さんが可哀そうな人を見るような瞳で美姫を見た。


(私にだって知らないことは沢山あるよ。)

(麗華さんは少しでも美姫より優位に立ちたいんだろうけど、言い方が悪い。)

(そうよね。でも、魔獣の研究施設なんてあったのね。グレンさんはご存知でしたか?)

(日光にいるときに存在自体は知りましたが、ワシが生きていた時代にはありませんでしたし、どんな研究が行われているか、までは知りませんな。)

(そうですか。)


「宇都宮研のことを知らなかったってことは美姫は、兎の魔獣は繁殖が容易、ということも知らないのよね?」

「そうなのですか?」

「やっぱり知らなかったのね。このくらい、御三家に連なる者であれば知っていて当然なのよ。をれを教えてあげたんだから感謝してほしいわね。」


 麗華さんは感謝の押し売りをしてきた。


「麗華様、そのような機密に関わる話をされては、、、」

「好美、いいのよ。どうせ同行している小隊は宇都宮研に駐在している部隊なんだから、聞かれたところで困らないわ。」

「そうではなく、、、」

「あぁ、慎太郎と樹ね。2人とも今の話は忘れなさい。いいわね。もし、この話が漏れたら社会的に抹殺してあげるから。」


 慎太郎さんと僕は無言で首を縦に振り、


「麗華様は、小官たちが宇都宮研の駐在部隊だと、どのように見抜かれたのでしょうか?」


 第四小隊の副隊長が麗華さんに質問した。


「あなたごときが私に話しかけるなんて100年早いわよ。」

「も、申し訳ありません。」

「まぁ、いいわ。美姫も気が付かなかったようだし、何故私が分かったか教えてあげる。」


 麗華さんは美姫の方をチラッと見て言った。


「あなた達が身に着けている装備は対魔獣専用装備じゃなくて?」

「そのとおりです。よくお分かりですね。」

「そのくらい一目見たら分かるわ。兵士全員がそんな装備をしているのは宇都宮研の駐在部隊くらいなものよ。」

「なるほど。麗華様はご見識でいらっしゃる。」

「ゴマすりはいらないわ。」


(麗華さんは単なる我儘なお嬢様なのかと思ったけれど、学ぶべきことはちゃんと学んでいるのね。)

(でも、魔獣の研究施設か。麗華さんから言い出したことを鑑みると、何かしでかす気がする。)

(そうね。何もなければいいけど。)

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