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竜の女王  作者: M.D
2171年春
209/688

05

 小型バスの前では征爾さんが待っていた。


「お嬢様、お待ちしておりました。」

「征爾、ご苦労様。さぁ、行きましょう。」


 第四小隊の兵士たちも征爾さんがいて当然、というようにバスに乗り込む。


(第四小隊で魔法使いなのは恭介少尉だけみたいだ。)

(諒太さんは驚いた様子もなかったし、治安維持軍の魔物警邏隊だと隊長だけが魔法使いという部隊構成が普通なのかもしれないね。)

(だとしても、魔法使い御三家の美姫や麗華さんを護衛するには心許ない気がしない?)

(私たちに知られないように別行動する部隊がいるのかもしれないよ。)

(有り得る。もしそうなら安心できるんだけど。)


 バスに乗ると、麗華さんたちが最後尾で寛いでいた。


「私たちは前の方に座りましょう。」

「了解。」



 バスは地上に出て、東京シールド外縁に向けて走る。


「去年もこんな感じだったんですか?」


 通路を挟んで隣に座った諒太さんに小声で話しかけた。


「こんな感じとは?」

「麗華さんが最後尾でふんぞり返っているところとか。」

「樹が想像したとおりだ。去年は”大砲系”の3年生もお世話に加わっていたところが今年と違うところだが。」

「やっぱりそうでしたか。治安維持軍についてはどうですか?」

「ん?去年は魔法使いがもう一人いて特別編制だったな。今年は通常編制だけど、美姫さんもいるし、別動隊がいるんだろうな。」

「諒太さんも僕達と同じ考えなら安心です。」


「樹と美姫さんはそんなことまで考えていたのか。去年の慎太郎と大違いだな。」

「どういうことですか?」

「過度に緊張してなくていい傾向だ、ということだ。去年の慎太郎は初めての実習ってことで緊張でガチガチに固まってたからな。話しかけても生返事しか返ってこなかった。」

「諒太さんはどうだったんですか?」

「俺か?同行してくれた部隊の副隊長が知っている人だったこともあって、さほど緊張はしなかったな。そういう意味では、今年も同行する小隊に美姫さんの知り合いを入れても良かったのに、と思えるな。」

「そうですね。」


(でも、私には治安維持軍に知っている魔法使いなんてほとんどいないから。いるとしても、富士山で会った淳二中尉くらいよ。)

(美姫は岩穴の中にいて人付き合いはなかったから、当然と言えば当然か。)



 東京シールド外縁につくと、バスを降り、荷物を背負う。


「ここからは徒歩で待機小屋まで向かいます。去年とは異なった経路をたどりますので注意して下さい。と言っても、先遣隊が事前に索敵を行っていますので、心配はいりません。」


(いや、それを言ってしまったら実習にならないんじゃないか。)

(ほんとよね。麗華さんを安心させようと思ったんだろうけれど。でも、やっぱり第四小隊以外の小隊もいたのね。)

(そうみたいだ。)


 恭介少尉を含めた3人が先導し、学生は中団、後詰は第四小隊の残りの3人という隊列だ。


「麗華さんは手ぶらなんですね。」

「『私は魔獣退治なんかすることないんだし、こんな実習もいらないくらいよ。参加しているだけでも真面目にやっていると思いなさい。』と、去年は言っていたな。麗華さんの分は、征爾が背負っているんだろうけど。」

「実習を受けないと単位がもらえませんから、麗華さんも参加せざるを得ないのでしょうね。」

「そうだろうな。」

「それにしても、諒太さんも国防軍に入ったら魔獣退治なんかすることないにも関わらず、ちゃんと荷物を背負って歩いているというのに、麗華さんは我儘ですね。」

「こういうのは、一般兵がどういう気持ちで任務をしているのかを知るためにあるんだと思ってる。それに、御三家本家筋以外の魔法使いは国防軍に入ったら准尉から出発だから、こういう訓練もするんだ。」


 歩き始めた当初はそうでもなかったが、徐々に荷物の重さに肩が痛くなってくる。


「荷物が重い。。。」

「そりゃ、食料や水、テントなんかを入れた荷物なんだ。重いにきまってる。」

「そう言う割に、諒太さんは荷物が重そうな感じではないですね?僕の方が荷物が重いとか?」

「そんな訳ないだろ。後輩に重い荷物を持たせるような輩もいるが、俺はそんなことしないぞ。」

「麗華さんはともかく、諒太さんがそんなことしたいことは分かっているのですが。。。」


「美姫は大丈夫?」

「何とか。身体強化をすればこのくらい何てことないんだけど、ずっと身体強化をしていられないしね。」


 1時間程歩いて、少し休憩となった頃には肩がガッチガチに固くなっていた。


「どうだ?まだまだ先は長いが、いけそうか?」

「正直、辛いですね。」

「そうだろうな。でも、肩が痛くなる原因は大きく2つで、それを解決できれば痛みは緩和するぞ。」

「そうなんですか?教えて下さい。」

「いいだろう。1つ目は荷物の詰め方。重い物は内側の上寄りに詰めると軽く感じる。2つ目は荷物の背負い方だ。重い荷物は腰で背負うのが基本だからな。樹と美姫さんは荷物の背負い方が悪いんだろう。」

「成程。」


「くっくっ。」


 諒太さんの説明を横で聞いていた慎太郎が横で笑いを堪えていた。


「慎太郎、俺は何かおかしなことを言っていたか?」

「いや、そうじゃない。諒太は樹君と美姫さんに物知り顔で教えているけれど、それがまんま、去年の先輩と同じで可笑しかったんだよ。」

「折角いいところを見せていたのに、バラすなよ。」

「どういうことですか?」

「こんな重い荷物を背負うのはこの実習が初めて、という2年生が大半なんだ。だから、まずは何も教えずに荷物を背負って肩が痛くなるのを体験した後、ちゃんとした背負い方を教えてもらうと、その違いを実感できるようになっているんだ。」

「俺たちも去年は樹と美姫さんのように肩が痛くなって、ここで3年生の先輩から背負い方を教えてもらっていた、という訳だ。」

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