04
実習の当日、美姫と教室に入ると、いつもの賑やかな雰囲気はなく話声はあまり聞こえなかった。
「おはよう。静かだけど何かあった?」
「おはよう。実習当日だから、皆緊張してるんだろ。」
「成程。不安になる気持ちは分かるけど、麗華さんと一緒じゃないだけマシなのに。」
「組み分けが発表されたときには、全員あからさまに安心してたからな。樹と美姫さんには悪いが、俺もほっとしたし。」
「そうだろうな。逆に僕たちは嫌な予感しかないし。」
「頑張ってくれ、としか言いようがないな。」
「気持ちだけ受け取っておくよ。」
小声で聡と雑談をしていると、純一先生が教室に入ってきた。
「おはよう。全員いるようだね。」
「「おはようございます。」」
心なしか、皆の声が震えている。
「初めての実習だから仕方ないかもしれないが、今から気を張っていると実習が始まる前に疲れ果ててしまうぞ。だらけろ、とまでは言わないが、同行してくれる治安維持軍は経験も豊富だから、君達が気負う必要は全くない。」
「「はい。」」
「それでは、講堂に移動しよう。」
念のため出欠確認をした後、講堂へ向かった。
講堂に入ると、軍服姿の治安維持軍がすでに待機していた。
「あれが同行してくれる治安維持軍か。」
「そうみたいだ。渡辺家は治安維持軍に配属されている人が多いんだっけ?」
「あぁ。でも、知っている人は、、、いないみたいだ。」
2年生が最後だったようで、講堂に整列するとすぐに校長先生の訓示が始まる。
「皆さん、おはようございます。」
「「「おはようございます。」」」
「さて、2年生の生徒にとっては初めての、3年生の生徒にとっては2回目の実習が始まります。既に説明があったと思いますが、この実習の目的は現場の空気を体験することです。・・・・」
治安維持軍の人たちを観察していると、いつもは長い校長先生の訓示が今日はすぐに終わりそうだった。
「・・・・短い期間ですが、生徒諸君が少しでも経験を積むことができたならば、実習は有意義なものであったと言えるでしょう。皆さんが無事戻ってこられることを祈念して、出発の挨拶と致します。」
「校長先生、ありがとうございました。続きまして、実習に同行して頂く治安維持軍第一魔物警邏隊隊長の一条大佐殿からお言葉を頂きます。・・・・」
一条大佐の挨拶があり、事務連絡があった後、実習先別に集まるよう指示があった。
「おはようございます。」
「おはよう。美姫は挨拶できるようになったのね。」
挨拶した美姫を麗華さんが嫌そうな目で睨む。
「いちいち美姫さんに突っかかるな。」
「諒太は美姫の味方なのね。」
「今日は一緒に実習に行くんだから、敵も味方もないだろ。」
麗華さんと諒太さんがやりあっているところに、若い兵士が麗華さんに声を掛けた。
「あの、、、」
「何?」
「お話し中申し訳ありませんが、自己紹介をさせて頂けないでしょうか?」
「いいわ。さっさとしなさい。」
「はい。小官は治安維持軍第一魔物警邏隊第四小隊隊長 市原恭介少尉であります。本日はよろしくお願い致します。」
「よろしく。しかし、若いわね。あなたが隊長なの?」
「はい。今年少尉に昇格し、小隊長を任されました。」
「そう。治安維持軍だから少尉でも小隊長なのね。小隊長があなたで大丈夫なの?」
「はい。小官は若輩者でありますが、部下は歴戦の兵士たちですので、ご安心下さい。」
「そのようね。」
兵士たちを見ると、確かに経験が豊富そうだった。
(完全に麗華さんの方が上で、恭介少尉の方が下だ。この先が思いやられる。。。)
(そうね。市原という名字を聞いて”大砲系”の魔法使いであると分かってから、麗華さんはさらに尊大な態度になったもの。)
(でも、まさかこんな若い人が選ばれるなんて。隊長はもっと年配の人だと思っていたのに。)
(それに、今年少尉に昇格した、って言ってたから、何かしらの力が働いた結果とみるのが妥当ね。)
(実習中は常に気を付けておく必要がある、ってことか。)
(グレンさんについてきてもらって良かったね。)
(同感。)
(グレンさんは、どう思いますか?)
(十中八九、恭介少尉はトカゲの尻尾でしょうな。となれば、実習中に何かが起こると考えて間違いないと思いますな。)
(やはりそう思いますか。)
(ワシらがついていますので、美姫さんと樹君は安心して下さい。)
(問題は他の人たちね。)
(最低でも諒太さんと慎太郎さんには危害が及ばないようにしたいし。)
(そうなると、樹がどれだけ”楯系”魔法で2人を守れるかにかかってくるんじゃない?)
(責任重大。もし何かあったら、諒太さんに魔法の腕輪を1個貸してもらわないといけないかもしれない。)
僕たちの情報は事前に渡されているようで、兵士たちの自己紹介もそこそこに出発する。
「それでは、これからバスで東京シールド外縁まで向かいます。小官についてきて頂けないでしょうか?」
不安な気持ちになりながら、実習先に向けて小型バスに向かうと、旧久喜市方面に向かうのは僕達だけのようだった。