01
「百合子さんがいないと、駅前で樹と気楽にぶらぶらできるから嬉しい。」
「去年は行く先々に百合子さんが居たりしたから、2人きりになることが少なかったし。」
今日は美姫と駅前を適当に店を覗きながら歩いている。
「樹、お昼はどうする?」
「うーん、、、久しぶりにハンバーガーにしようか?」
「いいよ。」
そう言って店に入ろうとすると、店内に見慣れた人物を見つけた。
「あれって珠莉じゃない?」
「本当だ。珍しく一緒にいるのは華恋じゃないみたいだけれど、あの男子は誰だろう?」
「分からない。でも、雰囲気を見る限り、全く知らない仲ではなさそうね。デートかな?」
「そう見えなくもない。」
「珠莉は樹に好意を寄せているはずなのに、他の男子にも粉をかけるなんて許せない。樹もそう思わない?」
「珠莉のは吊り橋効果じゃない?それに、前から付き合っていた男子かもしれないし、デートだったとしても良いんじゃないかと思うけど。」
「良くないよ。ちょっと問いただしてくるね。」
「いや、珠莉も四六時中華恋と一緒だったら息が詰まるだろうし、ここはそっとしておいて――――」
美姫は僕の話を聞かず、出てきたトレイをもって珠莉の隣の席に向かった。
「こんにちわ。」
「!?美姫様?それに樹様も?」
「お邪魔?だったら向こうに行くけど?」
「いえ、そんなことは。」
「じゃぁ、隣に座るね。」
「どうぞ。」
(美姫の無駄な行動力が百合子さんのそれと重なって見える。1年間でかなり百合色に染まってしまったのかもしれない。)
などとは、思っても口に出さず、美姫の前に座る。
「珠莉は今日は華恋と一緒じゃないの?」
「はい。華恋様は今日はご家族とともに過ごされているので、休暇を頂きました。」
「そう。で、前の彼氏はどなた?」
「彼は――――」
「すみません。申し遅れました。僕は東大附属高校1年A組の鍔須右京と申します。美姫様と樹様とお会いできて光栄です。」
珠莉の言葉を遮って右京君が自己紹介をした。
「鍔須、、、ということは、桐生家の執事をしている鍔須さんの息子さん?」
「はい。義理のですが。」
「義理の、ってどういうこと?」
「あの、その前に勘違いしないで頂きたいのですが、珠莉さんは僕を買い物に連れ出してくれただけで、付き合っているとかではありません。」
(そうです。私が好きなのは樹様だけですから。)
(え!?珠莉、何を言って――――)
(やっぱり、樹様は私と直接口に出さずとも会話できるんですね。もうこれは樹様と私が赤い糸で結ばれているとしか思えません。)
珠莉が僕の方を見て、にっこり笑った。
(し、しまった!)
(馬鹿者。樹は注意力が足らんのう。)
(すみません。。。右京君が鍔須さんの義理の息子だと聞いて、いろいろ驚いて、ついうっかりやってしまいました。)
(そうよ。珠莉の引っ掛けにまんまと釣られるなんてダメじゃない。)
(申し開きのしようもございません。)
(本当のことは今は言わない方がいいから誤魔化さないといけないけれど、自分が樹の運命の女だと珠莉が勘違いしないように少しだけ話をしておくべきね。)
そう言って、美姫が珠莉に話しかけた。
(樹と心の中で会話できるのは珠莉だけじゃないよ。)
(えっ!?美姫様も?)
珠莉が驚いたように美姫の方を見た。
(そうよ。珠莉だけが特別なわけじゃないから、勘違いするのはいけないよ。)
(そ、そうなんですか?)
(もしかして樹と心の中で会話できるのは2人が運命で定められた間柄だから、とでも思ったりした?)
(は、はい。。。)
(残念だけれど、珠莉と樹や私が心の中で会話できるのは守り神様のお陰よ。)
(でも、美姫様と樹様は守り神様に巫女として選ばれたわけではないですよね?)
(えぇ。)
(では、何故直接口に出さずとも会話できるのですか?)
(私たちが鬼と対峙するときに守り神様から力を与えてもらったからよ。)
(美姫もなかなか嘘が上手くなったのう。)
(エレナ様とずっと一緒にいますからね。)
(『門前の小僧習わぬ経を読む』というやつじゃな?)
(エレナ様はどうしてそんな言葉を知っているのですか。。。それに、美姫がエレナ様や百合子さんの悪いところだけを取り込んでしまっている気がする。。。)
(ギョウソウも後で珠莉に補足しておくのじゃ。)
(ショウチ・・・シマシタ。)
(そうだったのですか。守り神様が御二人に力を与えてくれたから鬼を倒すなんてことができた、というのは納得です。でも、守り神様は私にもそのことを教えてくれても良かったのに。)
(珠莉には教えるまでもない、取るに足らないことだからじゃないかしら?)
(直接口に出さずとも会話できる力は素晴らしいので、取るに足らないことなんかじゃないと思います。)
(私に知られず樹と秘密の会話ができるから?)
(そんなことはありません。)
(じゃぁ、どういうこと?)
(そ、それは、、、)
珠莉はシュンとなった。
(ちょっときつく言いすぎたかな?)
(美姫の後ろから吹雪がふいてきて凍えそうになるくらい冷たい言い方だった。)
(でも、これでちょっとは樹にあげている珠莉の熱が冷めたらいいのだけれど。)
(美姫への畏怖の念が増しただけのような気がする。)