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竜の女王  作者: M.D
補講6
200/688

02

「第一次悪魔大戦が終わった時の龍野家当主であった祥子様は経済に強かったんだろう。魔法使いの急速な地位向上の流れを利用して、大戦の影響を受けて倒産しそうな企業を買収したり、政府の方針を先取りして新たな会社を起業したりすることによって、御剣財閥を作り上げたんだよ。」

「やり手だったんですね。」

「そのとおり。御剣財閥の母体となった御剣源力が当時の日本政府から資源開発と東京電力の運営を委託されたのが大きかった、と言われていて、龍野家の家紋から御剣源力の商標を作成したのが始まりと言われている。」


(確かにあのババァはやり手で、一時は政商と揶揄されたものですな。)

(グレンさんだったら祥子様のことを知っていてもおかしくないですね。どのような人だったのでしょうか?)

(ワシら桐生家は元々”銃剣系”であったため、便宜を図ってもらって助かった面もあるので、悪くは言えませんが、あまり関わりたくない人間ではありましたな。)


 グレンさんから祥子さんについて聞くことにした。


(あのババァは、第一次悪魔大戦が終わった後しばらくして龍野家当主を退いてから、裏から様々な人を操るようになったのですな。龍野家が大きくなるためならば、あくどい手を使って相手を貶めることを厭わず、政治家や官僚、有力な企業人を次々と使い潰していったのですな。)

(まさに黒幕、という感じですね。)

(そのとおりですな。あのババァにうまく使われることで出世していった者もおります故、トカゲの尻尾のように切られた者が愚か者だっただけかもしれませんが。)

(どうしてそこまでして龍野家を大きくしようとしたのでしょうか?)

(これはワシの推測になりますが、大戦後のひどい状態から東京や日本を救うためだったのでしょうな。あの頃は魔法使いが世界秩序を作りつつあり、その中で埋没してしまわないようにするためには

、焼け野原から迅速に復旧を果たし世界に実力を示さねばなりませんでしたから、日本の魔法使いの盟主としてあのババァも焦っていたのかもしれませんな。)



「2人とも考え込んでいるみたいだけれど、どうしたんだい?」


 高速思考をしているとはいえ、グレンさんの話を聞いている間、黙っていたのを純一先生は考え込んでいると勘違いしたようだ。


「えーっと、、、資源開発って何だっけ、と思い出そうとしていました。」

「私も同じです。確か、御剣源力が東京湾の沖合にあるメタンハイドレートの採掘に成功したのだったと思います。」

「そのとおり。第一次悪魔大戦によって石油や天然ガスの採掘施設も多数破壊されたし、魔獣も現れるようになったから運んでくるのも難しくなったからね。今では小型原子力発電が主流になって来ているからそうでもないけれど、昔は自前の資源を確保するのが急務だったんだよ。」



「魔法使い御三家の他の2つの経済状況はどのようになっているのでしょうか?」

「私は六条家と桐生家の内情を知りえない、という立場からでよければ説明しましょう。」

「お願いします。」


「では、まずは六条家から。六条家は脳筋な人が多くて、龍野家みたいな立ち振る舞いはできないんだ。」

「・・・評価が辛らつすぎませんか?」

「本当のことは分からないが、外からはそう見えるのだから仕方ない。六条家は手っ取り早く財をなすために、軍事利権を押さえることにしたんだ。軍事物資や装備というのは割高だから、これだと、あまり頭を使わずとも儲けられる。」

「税金の無駄遣。」

「そうなんだが、軍事物資や装備は最高の性能と信頼性が求められるし、大量生産もできないからどうしても割高になってしまうんだよ。六条家は傘下に六条兵装という会社を持っていて、六条兵装の関連会社に軍事物資や装備の過半を受注させているんだ。」


「そんな会社があることを知りませんでした。」

「それが軍事利権の良いところだ。製品を一般の人に買ってもらうわけではないから、会社名を知ってもらう必要もない。それ故、広告を出す必要もなく、出費が抑えられる。その上、軍関係者の中で閉じた取引が行われるから、参入障壁も高いし、多少お手盛りをしてもバレにくい。」

「六条家にとっては美味しい儲けなのでしょうが、ちょっと酷いです。」

「国防軍内部にも不正を良く思わない人はそう思っているが、そういう人は上層部に上がっていけない。本当は報道機関なりがきちんと政府の支出を検証して、問題があれば告発すべきなんだが、彼らも自分の身に危険が及ぶのを避けたいんだろう、そんな話は聞いたことがない。」

「軍事産業の闇の部分を見ているようです。」

「日が当たらない部分の儲けは大きい。いつの時代も同じだ。」


「確か、軍務尚書は六条正さんだったと思いますが、これも軍事利権を得るためですか?」

「そのとおり。各尚書は宰相が指名することになっていて、軍務尚書は今まで基本的に六条家が務めてきたんだ。龍野家も桐生家もこれに反対しているわけではないんだが、それは六条家を”大砲系”の盟主として育ててきた日本の特殊事情が原因で、しぶしぶ、という感じなんだ。」

「そうだったんですか。」

「だから、国防軍内部にも不満を持つ者も多くいて、この慣例が崩れるのも時間の問題ではないか、期待する者もいる。」

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