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晴彦さんと雑談をしていると、あっという間に魔物討伐隊の基地に到着した。
「飛空艇は速いですね。」
「我々が現場に到着するのが早ければ早いほど被害を少なくできますから、最新鋭の飛空艇を配備してもらっているそうです。」
「最新鋭ということは高価だから機数も少ないんですか?」
駐機場には4機しか飛空艇がとまっていない。
「飛行して現場に向かうこともありますし、治安維持軍と飛空艇を共用したりしますので、我々が多数の飛空艇を持つ必要はないのです。」
「飛行して現場に行くなんて、魔物討伐隊の人たちは凄いですね。」
「いえ、全員が飛行できるわけではなく、魔物討伐隊でも飛行できるのは1/3程度です。ちなみに当方は現在習得中です。」
「やっぱり難しいんですか?」
「魔力や魔導力の扱いに長けている魔人といえども得手不得手はありますから。ママも飛行は苦手だったと言っていたので、遺伝かもしれません。」
(ピアリスは飛行が苦手だったのか。今度からかってやろう。)
(やめておけザグレド。そんなことをしたら餌をくれなくなるぞ。ワシらにはそれが一番こたえるからな。)
(確かに、オレのせいで依り代の黒猫が腹を空かせるというのもなんだから、あきらめるか。)
(そうしておけ。)
飛空艇から降りようとしたとき、楓大尉が晴彦さんに声を掛けた。
「晴彦、私たちは鬼の搬送があるから、美姫様達の事情聴取は任せたわよ。」
「当方がですか?事情聴取は初めてですし、やり方も教わっていませんが。」
「大丈夫、事情聴取と言っても美姫様達は巻き込まれた側だから簡易なものでいいわ。情報端末に表示されている質問を1つ1つ確認していくだけだし、美姫様達の回答は録音されているから、後からそれを文章にまとめるだけの簡単なお仕事よ。」
「承知致しました。」
飛空艇から降りて基地内に入る。
「では、私の後をついてきて下さい。それと、基地内は機密情報であふれているため、ふらっと脇道にそれると面倒なことになるので、絶対にしないで下さい。」
「分かりました。」
晴彦さんの後ろについて歩く。
(ここがワシが設立に協力し、その後追われることになった魔物討伐隊の基地だと思うと、感慨深いですな。)
(そう言えばグレンさんは昔、魔物討伐隊に追われていたのですね。基地内でグレンさんと会話して、魔力探知機に探知されてしまわないでしょうか?)
(樹君の体内に結界を張っておりますから大丈夫でしょうな。それに、会話は樹君の魔力の流れにのせて行っているため、通常の魔力の流れと区別できんはずですな。)
(それであれば安心です。)
(それにしても、くねくねと何度も曲がるのは面倒ですね。)
(道を憶えられないようにするためでしょうな。誰かさんみたいに体の中に悪魔を飼っているかもしれませんしな。)
(そんな人に道を憶えられたら、襲撃された場合に時間を稼げなくなってしまいますし。)
(無論、魔物討伐隊が敵にならない限りワシらはそんなことはしませんが。)
(そうですね。)
「ここです。」
晴彦さんが情報端末の画面を確認して部屋の扉を開ける。
(事情聴取って言うからパイプ椅子に照明があったりするのかと思ったけれど、普通の応接室っぽい部屋だ。)
(昔の刑事ドラマの見すぎじゃない?今時そんな部屋なんてないと思うわよ。)
(そうかな?)
(それに今回は取り調べじゃないし、晴彦さんが事情聴取するんだから、強面の警官が脅したり、優し気な警官が慰めたりしてくれないよ。)
(美姫も昔の刑事ドラマを見すぎ。)
「どうぞ、お座り下さい。それと、何を飲まれますか?」
晴彦さんが情報端末の画面に移されているメニューを見せてくれた。
「飲み物をもらえるんですか?」
「はい。ここにあるものであればどれでも。」
「うーん。じゃぁホットコーヒーで。」
「私も。」
「承知しました。」
飲み物が運ばれてきてから事情聴取が始まったが、つつがなく終わった。
「最後に何か聞きたいことはありますか?」
「鬼はどうなるのでしょうか?」
「ここで簡易的な治療をしてから研究施設に送られる予定です。」
「鬼は死んでないんですか?」
「はい。危ない状態でしたが、飛空艇の中で最低限の治療を行いましたので、今は持ち直しています。」
「そうですか、、、」
「今後は我々が責任をもって対応しますので、美姫様は何も心配されることはありません。」
「ありがとうございます。」
(奴はゴキブリ並みの生命力じゃのう。)
(でも、死んでいなくてほっとした気持ちです。)
(美姫はまだ他者を殺める経験をしておらから、そう感じるのじゃろう。)
(できればそんな経験をしないで済むとよいのですが。)
(平和的な解決が一番なのじゃが、相手のある事じゃからのう。そうも言っておられん状況になった場合は、迷わず自分の身の安全を最優先に考え、相手を殺めることを躊躇してはならんのじゃ。)
(はい。)
(しかし、殺めることに慣れてしまってはいかんのじゃ。他者の命を奪う事への畏怖を忘れてしまったら、殺人鬼と変わりなくなってしまうからのう。)
(分かりました。)
(それと、殺す必要のない場合でも再起不能になるまで叩きのめし、二度とワレらと敵対しようなどと思わせないようにするのじゃ。そうしなければ、美姫の周りの人間に危害が及ぶからのう。)
(憶えておきます。)
「他に何かありますか?」
「いえ。」
「では、これで事情聴取を終わります。お疲れ様でした。寮までは当方がお送り致します。」
「よろしくお願いします。」
寮に着くまで、車の中で晴海さんに関する話題で盛り上がった。




