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竜の女王  作者: M.D
2171年冬
196/688

30

「淳二中尉、鬼の状態はどうですか?」


 飛空艇から降りてきた魔物討伐隊の隊長と思われる人が僕たちの方に駆け寄ってきた。


「はい、もう動くことはないかと思われます。」

「そうですか。小官の小隊に新人が入ったのでちょうど良い実地訓練になると思ったのですが、残念です。」

「そんな状況になっていれば我々は今生きてはいないかもしれないので、楓大尉に『残念です』と言われるくらいが良いです。」

「淳二中尉の小隊にとってはそうかもしれないですね。」


「では、鬼の連行と美姫様と樹君の護送をお願い致します。」

「分かったわ。」


 楓大尉と呼ばれた人物が美姫に敬礼をした。


「申し遅れました。小官は魔法軍第二魔物討伐隊第三小隊隊長 小野楓大尉であります。ご無事でなりよりです。ここから基地まで我々がご同行します。」

「よろしくお願いします。」


「晴彦、美姫様たちを飛空艇までお連れして。鬼は私と鉄鎖で連行します。」

「承知致しました。」


「桐谷晴彦一等兵であります。私についてきて頂きたく。」

「えっと、珠莉は一緒に行かないのですか?」

「彼女は治安維持軍が病院まで護送しますのでご安心下さい。」

「そうですか。分かりました。」


 晴彦さんについて行く。


(晴彦さんってかなり若いよな。僕たちの同じくらいの年齢か。)

(楓大尉が言ってた新人って晴彦さんのことかも。だとすると、高校を卒業したばかりだろうから、私たちとそんなに違わないはずよ。)

(やっぱり美姫もそう思う?)

(どうしたの?)

(高校を卒業して国防軍に入る、というのはこんな感じなのか、と思って。)

(私たちは大学に進学する予定だし、国防軍に入っても予備役になるからちょっと違うかもしれないけど、あと2年すると同学年の皆も晴彦さんみたいになるのね。)


 飛空艇に乗り込むと、晴彦さんは僕たちの前に座った。


「出発しますので、シートベルトは確実につけて下さい。」

「はい。」



 その後、すぐに飛空艇は離陸した。


(魔物討伐隊の人たちの中に瞳が赤いひとがいたけれど、魔人なのかな?)

(多分。魔人に会うのは初めてだけど、そうじゃないかと思う。)

(私も。瞳の色以外は普通の人と全然違わないよね。)

(同意。)


「どうされましたか?」


 声を掛けられるまで気が付かなかったが、晴彦さんのことをジロジロ見てしまっていたようだ。


「すみません。晴彦さんって魔人なんですか?」

「そうです。」

「他の人たちも?」

「はい。魔物討伐隊は大半が魔人です。」

「そうですか。魔人に会うのは初めてなので、ジロジロ見てしまってすみません。」


「ん?美姫様は魔人に会ったことはないのですか?」

「はい。そうですが―――」

「しかし、ママに会ったことが、、、そうか、ママは融合者だから、魔人とは違うんだった。」


(美姫は晴彦さんの母親に会ったことがあるの?)

(晴彦さんとは初対面だし、そんなことはないと思うんだけど、、、あっ、晴海さん!)

(そうか。僕たちの知り合いで融合者なのはグレンさんと晴海さんだけだし、晴海さんは『子供が魔人専用施設の寮に入っている』って言っていたから、晴彦さんは今年卒業だったんだ。)

(晴彦さんは晴海さんの息子さんだったのね。)

(名前も似ているしそうだと思う。)


「晴彦さんは晴海さんの息子さんですか?」

「はい。美姫様や樹君のことはママから聞いています。」

「全然気が付きませんでした。」

「俺、いや、当方も美姫様の名前を事前に聞いていなければ同じでした。」


「晴彦は美姫様と知り合いなの?」


 楓大尉が晴彦さんに問いかけた。


「いえ、ママが美姫様のことを話してくれていたので、全く知らないというわけではありませんが、会うのは初めてです。」

「そう。晴彦の母親は晴海元中佐だったわね。晴海元中佐は今、東大附属の学生寮の寮長をしているんだったっけ?」

「はい、そうです。」

「ならば、晴彦が美姫様のことを知っていてもおかしくないわね。しかし、私たちがこの付近にいなければ出動要請を受けなかっただろうし、こんなところで会うなんて奇遇ね。」

「当方もそう思います。」


「楓大尉も晴海さんのことをご存じなんですか?」

「はい。小官が新人の頃の中隊長が晴海中佐で、いや、あの頃は少佐でしたか、訓練では厳しくしごかれたものです。」


(楓大尉が遠い目をしているってことは、晴海さんは相当厳しかったのか。)

(そうみたいね。今の晴海さんからすると想像できないけど。)


「晴海さんは元魔物討伐隊だったんですね。」

「そうですが、ママからは何も聞いていなのですか?」

「はい。」

「ならば小官から晴海元中佐のことを話すと後が怖い。バレて怒らしてしまったら、死んだ方がましに思える程ですから。」

「当方も同感です。それに、ママはもう退役した身ですから、国防軍時代のことは話をしたくないのかもしれません。そのうち話してくれると思いますが。」


 楓大尉と晴彦さんの顔はともに若干引きつっていた。


(晴海さんは怒ると軍人に『死んだ方がまし』と思わせるほど怖いのか。寮生が晴海さんに逆らわないようになる訳だ。)

(樹も晴海さんを怒らせないようにしないといけないよ。)

(肝に銘じておきます。)

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