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竜の女王  作者: M.D
2171年冬
184/688

18

「話はこれで終わりでいいか?」

「終わりでいいですの。」

「では、さっさと帰ってくれ。」

「言われなくても帰りますの。」


 村長の家を出ると、二子さんが待っていた。


「研二さん。」

「二子、俺は一也だ。」

「あの人がいないときには”研二さん”と呼ばせてほしいの。それで――――」

「呼び方は好きにすればいいが、俺はお嬢様をホテルにお送りしないといけないから話をしている時間はないんだ。」


 鍔須さんは二子さんの横を通り過ぎようとしたが、


「折角、地元に帰って来たのですから、少しくらいお話してあげたらどうですの。私はそれを待てないほど狭量ではありませんの。」

「お嬢様、ありがとうございます。」


 華恋の言葉により、鍔須さんは立ち止まって二子さんの方に向き直った。


「研二さんはどうしてここに戻ってきたの?」

「お嬢様が封印儀式を見学するための許可をもらうために、挨拶に来たんだ。」

「酷いわ。『もう二度と戻ってくることはない』と言っていたから、私も研二さんのことを忘れようと努力したのよ。」

「二子には辛い思いをさせて、すまなかった。」


「ようやく研二さんのことを忘れることができたのに、こうやって研二さんと出会ってしまった私はこれからどうやって生きていったらいいの?」

「二子はここを離れたくないのだろう?だったら、今までどおり、ここで生きていくしかない。」

「そんなのってないわ!」

「あの時別れた俺たちの道は二度と交わることはないんだよ。」


「私のせい?」

「いや、強引に連れて行かなかった俺にも原因はある。」

「あの時、何もかも捨てて研二さんと一緒に行けばよかった。。。」

「そう言っても過去は戻らない。」

「そうね。・・・時間がないのでしょう。引き止めて御免なさい。」


「さようなら。今度こそ、もう二度と会うことはないだろう。」

「さようなら。私の最愛の人。」


 二子さんは家の中に戻っていった。


「・・・。」

「さて、お嬢様、ホテルに戻りましょう。」

「分かりましたの。」



 ホテルに戻る途中、車内は重苦しい雰囲気に包まれる中、


「結局、セバスチャンは一也なのですの?研二ですの?どっちですの?」


 と、華恋が切り出した。


「現在は一也で、過去は研二でした。」

「意味が分かりませんの。理由を説明しますの。」

「承知しました。」


「村長の家での話にもありましたように、私と兄は双子の兄弟でした。両親は兄のことを溺愛しており、家の中で大事に育てられ傲慢な性格になりました。そして、私は放置されていたため、他の村人と一緒に育ったのです。

 私は村長の息子でしたので、自然と仲間をまとめる役割を担うようになっていき、傲慢な態度で村人と接する兄と対立するようになりました。特に権太は兄から酷い虐めを受けており、私は何度も権太を庇ったものです。」

「それで権太はセバスチャンのことを慕っているのね。」

「はい。権太にとって”一也”という名前は、過去を思い出すので聞くのも嫌になったそうです。」


「そして私たちが12歳になった時に巫選儀が行われ、兄が守り神様から巫に選ばれたのです。」

「巫はセバスチャンだったのではなかったですの?」

「はい。ですが、実際には巫の役割は私が果たしました。というのも、兄が巫に選ばれたことを知った両親が兄の死を恐れ、私と兄が双子で区別がつかないほど見た目が同じであることを利用して、入れ替えを思いついたからなのです。」

「それでセバスチャンは研二から一也に名前を変えられたのですのね。」

「はい。ですから、封印の儀式から生きて戻ってきた私が疎ましかったのでしょう。封印の儀式によって気が狂ってしまった、という理由で、家の中の牢に入れられてしまったのです。」

「酷いですの。」

「同じように感じた女中がおり、意を決して半年間牢に入れられていた私を逃がしてくれました。その後、村から出た私は紆余曲折を経てお嬢様のおじい様に拾って頂き今がある、という訳でございます。」


「村長の奥さんの二子さんとは親し気だったけど、2人の関係についても説明してほしいですの。」

「承知しました。」


「二子は村の底辺層の生まれで、子だくさんの家の二女でした。二子は人見知りが激しかっため、私が誘わないと村の同年代の仲間と遊ぶことはなかったそうです。私も二子といると楽しい気持ちになれたため、できるだけ一緒にいたいと感じており、二子も同じ気持ちであると打ち明けてくれました。

 私たちは何時の頃か、将来の結婚を約束するようになっていました。しかし、巫選儀の時に兄が二子に一目惚れをしたことで、その約束は永遠に果たされることが無くなってしまったのです。」

「同じ村にいたのですから何度も出会っているはずですのに、巫選儀の時に一目惚れ、っておかしくありませんの?」

「二子は普段は汚い格好をしていたため、兄は気にも留めていなかったようなのです。巫選儀の前には全員体を洗い清めるため、そこで二子の美しい姿を初めて見て目が釘付けになった、と言っていました。」

「浅い男ですの。」


「私は牢から出た後、二子に『一緒に村を出よう』と話をしたのですが、二子は首を縦に振りませんでした。理由を聞くと、兄が二子に結婚を迫っており、『拒否した場合には家族もろとも村から追い出す』と言われている、とのことでした。

 私も無一文で村を出ていきますから、二子の家族を養っていけるはずもなく、また、二子も家族思いであったため、家族を放って私と一緒に村を出るなどできない様子でした。そのため、私は1人で村を出たのです。」

「悲しい話ですの。」


「私の話は以上でございます。」


(華恋ちゃんが言うように、悲しい話ね。)

(鍔須さんの両親が双子を平等に愛していたら、こんな悲劇は起きなかったかもしれない。)

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