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「しかし、華恋様達の予定を変更してまで、私共のためにお引止めするのも心苦しく。」
「私たちも封印の儀式を見学することにしましたから、気にしなくても大丈夫ですの。」
やんわりと断りを入れた穂香さんに、ズバッと反論する華恋。
「そんなことは聞いておりませんが。。。」
「予定を変更しましたから、村長のところにご挨拶に来たというわけですの。」
「それでここにいらしたのですか。」
「私たちがいたら調査の邪魔ですの?」
「いえ、そのようなことはありません。」
「だったら、護衛を私たちに任せれば、あなた達は調査に専念できるのできますの。」
「それはそうなのですが、、、」
「決まりですの。」
「いえ、しかし―――」
「どうせ、何も起こらないのだから、良いのではなくって?それに、何かあれば、私が桐生の名において責任をとりますの。」
「それでも、、、」
「煮え切りませんの。私が良いと言っているのですから、させなさい!」
「・・・分かりました。護衛は華恋様にお任せします。」
「分かればいいですの。」
華恋は満足げに頷いた。
(分かってしまったらダメでしょ。ここは大人として毅然と断らないと。)
(華恋ちゃんは本家筋だから、穂香さんや志乃さんでは拒否することができなくても仕方ないかもしれないよ。)
(やっぱり魔法使いは血縁を重視しすぎるのは問題だと思う。)
(そうなんだけれど、魔法使いとしての実力は生まれたときに決まっていて、下剋上はおきにくいから。。。)
「それでは失礼致します。」
穂香さんと志乃さんは門から外に出て行った。
「それでお前たちは俺に何の用だ?」
村長が尊大な態度で問いかけてきた。
「封印の儀式についてだ。」
鍔須さんが答える。
「そこのお姫様が封印の儀式を見学したいと言っていた件か。どうせ調査団も儀式の調査を行うのだし、数人増えても問題なかろう。許可する。」
「すまないな。」
「もちろん、相応の心付けは頂くがな。」
村長はニヤリと笑った。
「分かっている。」
「分かっているならいい。用件はそれだけか?もうないのなら、さっさと帰ってくれ。」
「もう一つ、今回の儀式における巫について聞きたい。」
「そのことか。」
「あなた、またお客様ですか?」
家の奥から村長の奥さんと思われる夫人が出てきた。
「二子か?」
「一也さん?」
「あぁ、久しぶりだな。」
「そうですね。」
(鍔須さんと村長の奥さんは知り合いだったのか。でも、何となく怪しい雰囲気だけど。)
(そうね。権太さんとの会話の中に出てきた『二子様』というのがあの人なのかも。)
(だとすると、昔、あの2人に何かあったのかもしれない。)
(樹、あまり勘繰るのはよくないよ。)
(そう言う美姫も興味がありそうだけど。)
(それは否定はしないよ。)
「二子、何をしに出てきた?」
「調査団の方がおかえりになったと思ったのに、まだ話をする声が聞こえてきたので別のお客様が来られたのかと思って。」
「そうか。」
「立ち話も何ですから、上がって頂いたらどうですか?」
「あぁ、そうだな。だが、話はすぐ終わるから、茶を出す必要はないぞ。」
「分かりました。皆さま、お上がりになって下さい。応接間にご案内します。」
応接間に入るとすぐに村長が話を始めた。
「今回の儀式における巫についてだったな。」
「そうだ。巫選儀を行わないなど何を考えているんだ!」
「巫など誰でもいいのではないか?前回は守り神様に選ばれなかった一也でも問題なかったではないか。」
「それは俺たちが双子だったからだと守り神様から聞いた。」
「ほう。一也は守り神様と会話ができるのか?守り神様など本当にいるのかどうかも分からんし、妄想の類ではないのか?」
「そんなことはない!」
「まぁ、その話はいいとして、巫は俺が選んだ子供を当日権太に連れて行かせることにした。」
「だから、何故巫選儀を行わないのか?と聞いている。巫としての適性がないと最悪死んでしまうのだぞ。」
「俺が懸念しているのはそこだ。言い伝えによると、巫として選ばれた子供が封印の儀式の後に生き残っている割合は3割程度だそうだ。前回、一也が死ななかったのは運が良かったんだよ。」
「そうかもしれないが。」
「今、この村にいる俺の孫は1人しかいない。可愛い孫の二心が巫に選ばれて死んでしまったら俺は生きる希望を失ってしまう。」
「巫選儀を行ったとしても研二の孫が選ばれるとは限らないではないか?」
「いや、ほぼ確実に二心が選ばれると俺は考えている。これも言い伝えだが、巫は代々俺たちの家系から選ばれている。一也には子供がいないし、俺の次男である洋二は村を出て行って、戻ってこようともせん。つまり、今、俺たちの家系で巫候補になり得るのは二心しかいないのだ。」
「しかし、鬼の封印を守り続けることは、俺たちに課せられた義務だ。」
「そんなことは一也に言われなくても分かっている。分かっているからこそ、多額の見舞金を払って、遠縁の親戚の子供に巫の役割をすることを認めさせたのだ。」
「そんなことをして封印の儀式が失敗してしまったら大変なことになると考えなかったのか?」
「今まで犠牲を出しつつも失敗はしてこなかった。それに、遠縁の親戚の子供を選んだといっただろう。俺たちと血はつながっているから、巫としての役割もこなせるはずだ。」
「それこそ研二の妄想だな。」
「うるさい!鍔須家の今の当主は俺だ。一也に指図される謂れはない!」
村長の顔は怒りで赤くなっていた。