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祠の中に入ると水晶のようなものに閉じこめられた鬼がそこにいた。
「へぇ、これが鬼か。でかい。」
「それに、こんな風に封印されているのね。」
「これは封印の結晶と呼ばれており、最終決戦においてお坊様が呪文を唱えると、鬼の周りに結晶が成長して封印が行われたと言われています。」
鍔須さんが解説してくれる。
(ほう。術式を組み込んだ結晶の中に鬼を閉じ込めるとは、なかなか考えられておるのじゃ。)
(エレナ様は封印の結晶が何かお分かりになるんですか?)
(もちろんじゃ。この結晶は美姫たちの持っておる魔力貯蔵具に近しいもので、封印の術式を維持するための魔力を蓄えておるのじゃろう。)
(これがそんな昔からあるんだったら、どうして魔力貯蔵具は実現できなかったんだろう?)
(多分、封印の結晶は魔力を取り出すことを想定していないからじゃないかな?)
(それじゃ意味なくない?)
(いや、美姫の言っていることは間違っておらんのじゃ。結晶から滲み出る魔力を利用して術式を維持しているのじゃろう。)
(なるほど。魔力を永遠に閉じ込めておくことなんて不可能なことを逆手にとって、滲み出る魔力を少しずつ使うことで何十年も封印を維持できるようにしてあるのですね。)
(そういうことじゃ。何時のながらに美姫は鋭いのう。)
華恋と珠莉も鬼を見ながら話をしている。
「これが本物の鬼ですのね。角がなければ普通の人と変わりありませんの。」
「華恋様、普通の人よりは全然大きいですよ。身長は2mくらいでしょうか。ちょっと恐ろしい感じがします。」
「珠莉、私は見た目の話をしていましたの。でも、得体の知れない感じがして怖い、というのは分からなくもないですの。」
「ですよね。こんなのに襲われたら恐怖で逃げることすらできないかもしれません。」
「珠莉は怖がりですの。でも、襲われた時には珠莉を私が守ってあげますの。」
「いえ、華恋様をお守りするのが私の役目ですから、私に構わずお逃げ下さい。」
「私は桐生家本家筋の魔法使いですの。悪魔から皆を守ろうとしているのですから、鬼から珠莉1人守ることなんて容易いことですの。」
「でも、今のように魔法の腕輪をもっていない時もあります。その時は迷わずお逃げ下さい。この国にとって、私などより華恋様の方がずっと重要な存在ですから。」
「最悪はそうしますけれど、できる限りのことはするつもりですの。」
封印の結晶を眺めていると、美姫が気になることを言った。
「樹、この封印の結晶、少し濁ってない?」
「確かに。少し透明度が低い気がする。」
「それは封印の力が落ちているからでしょう。封印の儀式を行った直後はもっときれいですよ。」
「綺麗な状態を知っているということは、鍔須さんは封印の儀式を行った直後の封印の結晶を見たことがあるんですか?」
「はい。私は前回の巫でしたから。」
!?
衝撃の事実である。華恋と珠莉も驚いて振り向いた。
「そうだったんですの?そんな話聞いてませんの。」
「もう終わったことですし、それ程重要なことだとは思っておりませんでしたから、お嬢様にはお伝えしておりませんでした。申し訳ありません。」
「もう私に話していないことはないですの?」
「お嬢様に私の人生の全てをお話してはおりませんので、まだたくさんあるかと。」
「それはそうですけれど、セバスチャンにしては生意気な口の利き方をしますの。」
「申し訳ありません。」
そんな話をしているときだった。
(ケンジ・・・ヨクキタ。)
(守り神様、お久しゅうございます。)
頭の中に声が聞こえてきた。
(樹、これって。)
(鬼が鍔須さんに話しかけている?)
(いや、違うようじゃのう。)
(まずは会話を聞くとしますかな。)
(フウインノ・・・ギシキノ・・・ヒ・・・ツゲニ・・・キタ?)
(いえ、そういうわけではないのですが、封印の儀式は明日行うと聞いています。)
(ソウカ。カンナギ・・・コウホ・・・イツクル?)
(まさか、まだ巫選儀をされていないのですか?通常、儀式の3日前に行うはずなので、もうとっくに巫は選定されているものだと思っていました。)
(マダ・・・。)
(そんなはずはないのですが、、、少しお待ちください。権太に聞いてみます。)
会話が終わり、鍔須さんが祠の外に出て行った。
(鍔須さんも私たちと同じように、思考伝達ができたんですね。)
(そのようじゃのう。まぁ、普通の人間でも上位精霊の能力を借りれば可能じゃから、上位精霊に気に入られた者であればできてもおかしくはないからのう。)
(つまり、声の主は上位精霊、ということか。でも、ミーちゃんみたいなのが見当たらないな。)
(ミーちゃんみたいに物理的な肉体を持っていないのかもしれないよ。)
(成程。)
(エレナ様は声の主が何者か分かりますか?)
(何者かまでは分からぬが、美姫たちの言うところの幽霊に近い存在がおるようじゃ。ほれ、あそこを見てみるのじゃ。)
エレナ様が指す祠の隅を見ると、ぼんやりと靄がかかったような箇所があった。
(本当だ。言われないと気が付かないくらい朧げだけど何かがいる。)
(それに、声も聞き取りにくかったよね。)
(おそらく、かなり存在が希薄になっているのじゃろう。このままだと、早晩消えてしまうのではないかのう。)
(鍔須さんが”守り神様”と呼んでいた、ということは、あれは鬼を封印したお坊さんの幽霊なのかな?)
(多分。)
(だとすると、消えてしまったら封印の儀式はできないんじゃない?)
(それはまずい。封印が解けて鬼が暴れ出したら、僕達だけではどうしようもないし。)
(そうよね。エレナ様はどう思いますか?)
(ワレとグレンがおるから心配せんでもよいのじゃ。しかし、面白くなってきたのう。まずは、奴が何者かワレが直々に問い質してやるとするかのう。)
エレナ様が積極的に関与してきたことで、良からぬことが起きる予感がした。




