06
迎撃訓練を終えて見学場所に戻ると聡が声を掛けてきた。
「前から思っていたが、もう完全に樹に追い越されてしまったな。俺はあの速度にはついて行けない。」
「戦闘様式によるものも大きいんじゃない?僕は銃型だから、剣型の聡みたいに弾を引きつけなくてもいいわけだし。」
「それを差し引いてもだ。それに、樹は”楯系”魔法も使えるんだから、”銃剣系”剣型だけの俺とは比較にならないさ。」
「聡だって魔導盾を使ってたじゃないか。」
「俺のは補助具を使って何とかだからな。別系統の魔法を使ったわけじゃない。」
「それと、さっき、身体強化をしようとしていただろう?」
「肯定。」
「俺は2つの魔法の腕輪を使いこなすので精一杯だったから、身体強化をしようとすら考えられなかった。つまり、俺にはない余裕が樹にはあった、というわけだ。」
「うーん。それはあるかもしれないけれど、経験の差じゃない?」
「1年前に魔法使いになったばかりの樹に経験の差と言われると辛いものがあるな。」
「聡や皆と違って、僕は美姫と特訓ができる恵まれた環境にいるから、極限状態での判断力が養われたのかもしれない。」
「俺も姉貴に死ぬほどしごかれたんだが、樹ほど成長できていないからこそ、追い越されてしまったんだよ。」
「まぁ、そこまで言われると、そうかもしれないと思えてきた。」
「だろう?下位の奴らは認めないかもしないけど、樹はもうこの学年の中位以上にはいるはずだ。」
そんな話をしているうちに美姫の番になったようだ。
「次は美姫さん。」
「はい。」
「美姫さんは少し射出速度をあげた状態から始めようか?」
「それでお願いします。」
「では、始め!」
美姫の迎撃訓練が始まった。
バンッ!バンッ!バンッ!
大砲から発射される弾を美姫は左右の魔法の腕輪を使って撃ち落としていく。
「美姫さんならこのくらいできて当然よね。」
「準備運動としてはちょうどいいんじゃない?」
「私はこの速度で精一杯だったのに。」
他の生徒も皆美姫の訓練に注目していた。
「やはり、美姫さんはすごいな。」
「利き手じゃない方でも狙いは正確だし、右でも左でも完璧な魔力制御だ。」
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
射出速度が徐々に上がっていくが、美姫は何事もないかのように対処していく。
「美姫さんも少し余裕がなくなってきたか。」
「でも、まだ身体強化を使っていないみたいだから、余力は残してあるんじゃない?」
「美姫さんは2つの魔法の腕輪を使いながら身体強化することは当然できるんだろうな。」
「たぶんできると思う。」
バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
すでに3つある砲台の全てから弾が発射されているが、美姫は順調に迎撃訓練をこなしていく。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
他の生徒は美姫の動きに見とれて声も出せないでいた。
「身体強化をしても魔力制御に澱みが見られないなんて凄いよな。」
「あの美姫さんを見て感想を言える樹もたいがいだと思うぞ。」
「そうか?」
「周りを見てみろ。口が開きっぱなしになっている奴もいるんだぞ。」
バンッ!
美姫は最後の弾も撃ち落とし、全ての弾を迎撃して訓練を終えた。
「訓練終了。」
「ふぅ。」
「2年生用に設定されている最高難易度だったんだが、美姫さんには問題なかったようだね。次回からは3年生用の難易度にしないといけないかもしれないな。ハハハ。」
先生の笑い声も心なしか乾いているように聞こえた。
(お疲れ様。完璧だったんじゃない?)
(そうでもないよ。時旬がうまく取れなくて、いくつか際どいのもあったから、あまり余裕はなかったし。まだまだよ。)
(前にも同じ台詞を聞いた気がする。)
(そうかな?)
(それに、先生が2年生用の最高難易度だって言ってたから、美姫にとっては物足りなかったんじゃない?)
(そんなことないよ。まだ、全てを余裕をもって迎撃てきているわけでもないし。)
(いや、樹の言っておることももっともじゃ。)
(エレナ様も樹と同じ考えなんですか?)
(そうじゃ。訓練をするのであれば常に余裕のない状態におかれていなければ、成長速度がおちてしまうからのう。)
(その話は前にも聞いたことがあります。)
(じゃから、こんなぬるいことをやっておっても意味がないのじゃ。美姫は今伸び盛りなのじゃから、もっと厳しい訓練をするべきなのじゃが、樹では物足らないし、ザグレドに悪魔状態になってもらうわけにもいかんからのう。)
(ザグレドさんが表に出てきたら、魔物討伐隊がすっ飛んできますよ。)
(そうなのじゃ。どこかに美姫を本気にさせられる魔物とかおらんかのう。)
(エレナ様が言うと現実になりそうなので、そういうことを言うのはやめて下さい。)
(そうかのう?)
(そうですよ。それに、樹は巻き込まれ体質なんですから、エレナ様が言ったことが本当になると樹が危険にさらされるじゃないですか。)
(グレンもおるし大丈夫じゃろう。しかも、そうなれば樹も成長できるから一石二鳥ではないかのう。)
(ダメです。)
(美姫も心配性じゃのう。樹もそう思うじゃろう?)
(いえ、今の会話で分旗が完璧に立ったはずので、すぐにでも事件が起こりそうな嫌な予感がします。)
(私もそう思ます。エレナ様は神様なんですから、もう少し自覚を持って下さい。)
(事件が起こりそうなのかのう?楽しみになってきたのじゃ。)
(美姫の言葉は聞こえてないみたいだ。)
(そうね。都合の良いところだけしか聞かないんだから。)
これが前振りになったのは言うまでもない。