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竜の女王  作者: M.D
2170年冬
17/688

02

「小雪が舞い散る中、本日108名の新入生を迎えることができ、本校として大きな喜びであります。始めにまず、本校の歴史について簡単に紹介しておきたいと思います。東大附属高校は――――」


 演壇の上では校長先生が挨拶を行っている。


(・・・。)

(樹君、ちゃんと聞いてる?)

(肯定。でも、あまりこういう行事は好きじゃないから、適当に聞いてる。)

(私もどちらかというと好きじゃないけれど、ある種の儀式としては必要なんじゃないかと思っているから、だらけちゃダメよ。)


(ある種の儀式って、通過点的な意味合い?)

(そう。入学式があると、高校生になったんだ、というのが明確に感じられて、意識を切り替えられるような気がするの。)

(成程、そういう考え方もありかもしれない。僕もようやく東大附属高校に入学できたんだと感じているし。)

(でしょう。)

(でも、長い挨拶とか、祝辞とかいらない。忍耐力を鍛えてるつもりなのかな?)

(ふふふ。わたしも長い挨拶はいらないと思う。高校生活の心得を話しているみたいだけど、そんなことを今聞かされても頭に入ってこないよね。)

(同感。まだ始まってもいないのに、そんな話をされても、『あ、そう』としか思わないし。)


「――――結びに、本日入学した108名の新入生の皆さんの充実した高校生活と健やかな成長を祈念し、式辞と致します。」


 そうこうしているうちに校長先生の長い話が終わったようで、入れ替わりで生徒会長が壇上に上がると講堂内がざわめいた。


(綺麗な人ね。)

(同意。『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』と言うけれど、まさにその通りの人だ。)

(生徒会長の名前は高科百合子っていうらしいよ。樹君はそれを知ってて言ったのかな?)

(否定。そこまで深くは考えてなかった。)

(それと、生徒会長は魔法使いの家系出身じゃないんだって。樹君と同じね。)

(えっ!?そうなの?)

(そうよ。寮長さんと話していた時に教えてくれたの。)


 生徒会長は清楚な感じの女子生徒で、透き通るような声で祝辞を述べ始めた。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。在校生を代表して、心よりお祝いを申し上げます。さて、東京大学附属高校の不易は、社会で活躍する個性豊かなの人材の育成です。――――」


 講堂内はシンとなり、生徒会長である女子生徒の声だけが響いている。


(綺麗な上に話し方も上手いとか、完璧な人ね。)

(同意。生徒会長の話に皆聞き入っているようだし。)

(樹君はあんな人が好みだったりする?)

(否定。)

(どうして?)

(何となく面倒臭そうな感じがするから。)

(ふふふ。世界に完璧な人間なんていないし、樹君がそう感じるなら、生徒会長にもどこかに欠けた所があるのかもね。)


「――――高校生活では辛いこともあるかと思います。その時には是非、生徒会を頼って下さい。私たちは常に皆さんの――――」


(・・・。)

(どうしたの?)

(あの人をどこかで見たことがあるような気がするんだけど、どこだったか思い出せなくてモヤモヤしてた。)

(ふーん。生徒会長が綺麗だから見惚れて聞いていないのかと思ったけど、違うのね。)

(美姫さんを普段見ているから、いくら生徒会長が綺麗だからって見惚れはしない。)

(もう、お世辞が上手なんだから。)


(生徒会長をどこで見たんだろう?思い出せそうで思い出せない。。。)

(純一先生の補講を受けに学校に来ていた時に見たんじゃない?綺麗な人だから目に留まって覚えていたとか。)

(そうだったような、違うような、、、)


「――――最後に、新入生皆さんの今後のご活躍を祈念して祝辞とさせて頂きます。本日はご入学、誠におめでとうございます。」


 何処で見たのか思い出そうとしているうちに生徒会長による祝辞が終わり、新入生代表による宣誓式に移っていた。


「まるで私たちの新しい門出を祝ってくれているかのような晴天の良き日に、東京大学附属高校の真新しい制服に袖を通し入学式を迎えることができ、嬉しく思います。先程は、私たち新入生のために心のこもった祝辞を頂きありがとうございました。――――」


(新入生代表は普通科の生徒か。)

(入試で一番いい成績をとった生徒が新入生代表になるのが慣例みたいよ。)

(どれだけ勉強すれば入試で一番なんかとれるんだろう?)

(東大附属高校に受かるほどの学力がなかった樹には分からんじゃろう。)

(そうですけど、エレナ様の言い方に棘がありませんか?)

(樹の気のせいじゃ。)


(普通科は入試があるけど、魔法科は魔力検査のみか。魔法使いの才能がある生徒は中学から東大附属に入学しているだろうし、高校から編入してついていけるか不安だ。)

(当然、樹の成績は断トツのビリじゃろうしのう。)

(どうしてエレナ様は不安を煽るようなことを言うんですか。)

(そうですよ。樹君がかわいそうじゃないですか。)

(樹の不幸は蜜の味、じゃ。)

(『蜜の味じゃ』じゃないです!魔法科は魔法実技が評価の半分を占めているのに、僕は普通の人間なんだからビリで当り前です。それもこれもエレナ様のせいですよ。)


(美姫が魔力検査を進めたんじゃから、半分は美姫のせいじゃ。)

(責任転嫁しないで下さい。でも大丈夫よ、樹君。私がいるから。)

(そうじゃ、美姫との高校生活を楽しめるんじゃから良かったではないかのう。)

(楽しみなのはエレナ様だけです。)

(そう?私も不安はあるけれど、久しぶりの学校生活が楽しみ、っていう気持ちもあるの。)

(美姫さんの前向きなところがうらやましい。)

(そんな気持ちになれるのは樹君がいるから1人じゃない、っていうのが1番の理由。)


(青春じゃのう。甘酸っぱいのう。)

(エレナ様、しつこいです。)

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