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竜の女王  作者: M.D
幕間5
164/688

01

「樹、見送りに来てくれたのね。ありがとう。」

「私もいるんですけど。」

「美姫さんもありがとう。」


 時が経つのは速いもので、今日は百合子さんがヒューストンに出発する日である。


「樹、ちょっといい?」

「??」


(行ってきたら?百合子さんと会えるのは今日が最後なんだし。)

(了解。)


 百合子さんについて隅の方に行く。


「明日からは樹とこうやって話もできなくなるのね。」

「ヒューストンから帰ってきたら、またこれまでのように話ができるようになりますよ。」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、樹は私に『行かないで』とは言ってくれないのね。」

「僕がそう言っても、百合子さんは行くんでしょ。」

「樹が『どうしても』って言うんだったら、今からでも行くのを止めるわよ。」

「百合子さんの夢をあきらめさせる、なんてことをしたくないから、そんなことは言いませんよ。」

「あら、カッコイイこというじゃない。でも、私がいなくなったら寂しいと思ったりする?」

「あれだけの存在感を示されたら、いなくなると空白ができるというものですよ。」

「素直じゃないわね。正直に樹の気持ちを言って頂戴。」

「まぁ、百合子さんがいなくなると、寂しくはなりますね。」


「ふふふ。樹が寂しいと思ってくれるくらいの存在になれたことは良かったわ。私が帰ってくるまで浮気しちゃダメよ。」

「浮気なんてしたら面倒なことになるだろうし、そもそも、美姫さんがいるんだからそんなことしませんよ。」

「やっぱり美姫さんとはそういう関係だったのね。」

「いや、それは、、、、」

「別にいいわよ。前にも言ったけど、私は2番目でも問題ないから。」

「結局そこに落ち着くんですね。もう諦めていますから、百合子さんの好きなようにしてもらってもいいです。」

「それを聞いたら安心してヒューストンに行けるわね。その前に。」


 百合子さんは目を閉じて、唇を僕の方に向けた姿勢で停止している。


「何ですか?」

「恋人が別れるときにすることと言ったら、キスに決まってるじゃない。」


(樹君と百合子さんは恋人じゃない、っつーの。)


 美姫さんから黒い雰囲気を醸し出している気配がする。


「僕と百合子さんは恋人どおしではなくないですか?」

「将来結婚することを誓い合った仲なんだから、私たちは恋人と言ってもいいんじゃない?それとも、私とキスするのは嫌?」

「そう言うわけではないのですが、周りの人が見ているところではちょっと、、、」

「嫌じゃないならいいじゃない。それに、誰も私たちのことなんか見てないわよ。もう、しょうがないわね。」


 百合子さんの方から抱きついてキスをしてきた。


(あの女、私に見せつけるようにキスしてやがる。樹君もそれを受け止めているし。)

(美姫さんの心がやさぐれてる。。。)

(でも、私は寛大だから、キスの一つや二つ許してあげるよ。)


 なされるがままにしていると、少し長い時間キスを続けていたようだ。


「ご馳走様。今度は樹からしてよね。」


 僕から離れた百合子さんは、そう言って美姫さんのところに戻っていった。



「情熱的なキスだったわね。」

「これから当分できないからね。準備で忙しいだろうに、陽菜も来てくれてありがとう。」


 美姫さんのところに戻ると、陽菜さんも来ていた。


「樹君も百合子と付き合うのは大変だと思うけど、頑張ってね。」

「はい。。。」


「それと百合子に伝言。生徒会の役員たちは皆別の用事があって来れないけれど、百合子によろしく言っておいてほしいって。源蔵だけは特に用事があるわけじゃなくて、単に風邪をひいてしまって来れないだけなんだけど、いつも間が悪いわよね。」

「皆からは電文をもらっていたから来れないのは知ってるわ。GUAL(Global Union Air Line、地球連邦航空公社)がヒューストン行きの便を1日早めたことが原因なんだから気にしないで、って返信したのに。陽菜に伝言を頼むなんて律儀ね。」

「電車に乗ろうとする私に、次々に伝言していくものだから、予定より1本後の電車に乗る羽目になったのよ。そのせいで、百合子と樹君のキスシーンを途中からしか見れなかったのは残念だわ。」

「それはご愁傷様。」


「そもそも、ヒューストン行きの便が週に1便というのは少なくないですか?」

「もしかして、毎日あれば私に会いに来れるのに、とか思ったりした?」

「いや、それはないです。」

「そう、残念。ヒューストン行きだけじゃなくて全ての航路で便数が少ないのは、空にも魔獣がいるから遭遇戦に備えて魔導翼を使える魔法使いを随行させる必要があるからね。」

「でも、魔導翼を使える魔法使いは限られているから、飛行機の随行だけをさせておくわけにはいかないのよ。」

「空にいる主な魔獣は、海は空鮫、陸は空亀、でしたっけ?」

「そうよ。」


『皆様、地球連邦航空公社ヒューストン行き50便は只今より搭乗を開始致します。当便をご利用になるお客様は2番ゲートにお進み下さい。』


 搭乗開始を告げる案内放送が流れる。


「もう少し話していたいけれど、もう行くわ。」

「向こうに行っても、体調に気を付けてね。」

「ありがとう。陽菜も元気でね。」


「来年はヒューストンでの魔闘会本選に出場する予定なので、その時に会いに行きます。」

「あら、2年生で魔闘会本選に出場するだなんて、美姫さんも大口をたたくようになったわね。」

「そのくらいの実力はあると自負しています。」


「僕も美姫さんと一緒に行きますので、待っていて下さい。」

「樹が来てくれるのは大歓迎よ。」


 しばし別れを惜しんだ後、


「じゃあね。」


 と言って、百合子さんは搭乗口から飛行機に乗り込んでいった。

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