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地球連邦が設立されてから1月1日が年度始まりとされたため、高校も1月から新年度となる。
「美姫さん、お待たせ。」
「樹君、行きましょう。こうやって制服を着て入学式に向かうと、高校生になったんだ、って実感がわくよね。」
今日1月5日は東京大学附属高校の入学式の日だ。
「同意。これから魔法使いとしての高校生活が始まると思うと、ちょっと緊張する。」
「私も一緒だから大丈夫。それに、緊張しているのは樹君だけじゃないよ。」
学生寮から学校に向かっている真新しい制服を来た生徒たちの中には、同じように緊張した表情をしている生徒もいる。
「和気藹々と話しながら歩いているのは中学から東大附属の進学組で、緊張しているように見えるのは高校からの編入組か。高校から東大附属に編入するのは魔法科では僕達だけだから受け入れてくれるか不安だ。」
「そうね。魔法科は定員に達することは稀で中学高校とも1学級でずっと同じだから仲もいいだろうし、その輪の中に入れるか不安なのは私も同じ。」
「美姫さんは大丈夫じゃない?魔法科の生徒は同じ魔法使いの家系出身なんだし。」
「そうは言っても私は中学に通ってなかったから、友達をうまく作れるか不安なの。」
「成程。その点、普通科は高校から1学級増えて3学級になって90人もいるし、半分くらいが編入組だから友達を作りやすそうで羨ましい。」
「東大附属中学普通科の生徒の半数はそのまま高校に上がれるけど、残りの半数は他の学生と同じ入学試験を受けないといけないから試験に落ちる生徒もいるし、そこが魔法科と違うところよね。」
「樹、久しぶりね。元気にしてた?」
「久しぶりって、まだ家を出てから2ヶ月も経ってないし。」
美姫さんと講堂に向かっている途中に両親と会った。
「お正月帰ってこなかったでしょ。母さん寂しかったわ。」
「補講とか入学の準備とかいろいろあって忙しかったんだから仕方たないだろ。」
「そんなこと言って、本当は龍野さんと一緒に居たかったからなんでしょ?」
「否定。」
「本当?」
「本当だって。次の正月は帰るから。」
「龍野さんも元気にしてた?寮生活には慣れた?」
「はい、寮にはもう慣れました。樹君がいるのでいろいろ助けてもらってます。」
「あら、そう。樹もちょっとは役に立ってるのね。それでね、――――」
母さんが美姫さんと会話を始めたので、父さんが僕に話しかけてきた。
「樹はどうだ?寮生活で困っていることはないか?」
「今のところはないかな。」
「初めての1人暮らしの地が都市国家東京になるとは思わなかったが、困ったことがあったらすぐに連絡しなさい。父さんも出来るだけ手助けをするから。」
「了解。」
「私も樹が都市国家東京で寮生活をすることになるなんて思いもしなかったわ。樹に魔法使いの才能があったなんて今でも信じられないくらいだし。」
「また魔法使いの話か。何回する気だよ。」
「母さんだって、何回も言われるのよ。鳶が鷹を生んだって。」
「鳶って言うよりは雀だろ。」
「雀は酷くない?せめて鳩って言ってほしいわ。」
「母さんが平和の象徴とかあり得ない。まぁ、僕に魔法使いの才能信じられないのは同じだけど。」
「でしょう。樹が魔法使いとしてちゃんとやっていけるのか心配だわ。」
「大丈夫ですよ。私もいますから。」
「龍野家のお嬢さんが一緒にいてくれて助かるわ。樹もいい人を見つけたわね。」
母さんがニヤニヤしながら僕の方を見る。
「何を言っているんだよ。ほら、保護者はあっちだろ。僕たちも行くから。」
「分かったわ。入学式が終わったら食事に行きましょう。龍野さんもちゃんと誘うのよ。」
「了解。というか、美姫さんもここにいるんだから聞こえてるだろ。」
「あら、樹は龍野さんのことを”美姫さん”って名前で呼んでるんだ。樹もすみにはおけないわね。」
「魔法使いは名前で呼ぶのが普通なんだって。美姫さん、行こう。」
両親と別れて入学式が行われる講堂に向かう。
「ごめん、うるさい母親で。」
「そうでもないよ。明るくていいお母さんだと思うよ。」
「そうかなぁ?それにしても母さんは浮かれすぎじゃないか、と思うんだ。」
(美姫に親の話をするなど、樹は気をつかえぬのかのう?)
エレナ様に指摘されて気が付いた。
「ごめん、美姫さん。浮かれているのは僕の方だった。」
「気にしないで。あまりお母さんの記憶は残っていなんだけど、樹君のお母さんとなら仲良くやっていけそうな気がするし。」
「感謝。」
講堂に入ると、大半の生徒はすでに着席していた。
「私たちも時間に余裕を持ってきたつもりだったけれど、もう皆来てるみたいね。」
「そんなに早く来ても入学式までただ待つだけなのに。」
「遅れるよりいいとおもうよ。私たちの席はあそこみたい。」
美姫さんが席に近づくと、
「龍野美姫さんですか?」
「はい。そうです。」
「私は小野美沙と言います。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
1人の女子生徒が立ち上がって話しかけた後、
「俺は――――」
「私は――――」
あっという間に生徒に取り囲まれた。
(美姫さんは人気者だ。)
(樹君酷い。他人事だと思って。いきなり大勢から声をかけられて大変なんだから。)
式が始まるまで美姫さんは多数の生徒から話しかけられていたが、僕に声をかけてくる生徒は皆無だった。